マネできない『5歳の子どもにできそうでできないアート』

新井 文月2017年06月07日 印刷向け表示
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装丁には、切り裂かれたキャンバスの写真。

どうやらこれが芸術作品らしい。
 
本書は19世紀末から現在までの、100人の芸術家による100作品を取り上げている。オブジェ・殴り書き・かんしゃく・遊び場・怪物など全5章で構成されており、興味深いのは、子供でもできるんじゃないの?という作品にフォーカスしキュレーションされた一冊なのだ。ムンクの《叫び》など超有名絵画から、中には廃棄物を使用したアルマンの《充満》など、そこまで名が知られていない作品もある。
 
たとえばマティスの作品も見開きで鑑賞できる。無造作に着色した大きな紙をただ抽象的に並べただけのように見えるが、色彩調和と構成、流れるような線描など、確かな技術に裏打ちされたものだ。この《かたつむり》を制作したときは、84歳のマティスが病床でつくられたものだ。本人は、人生のすばらしさを高らかに謳いあげ「本質にまで還元された形式」とまで語っている。
 
 
アンリ・マティス 《かたつむり》1953年   

 
冒頭の、表紙のキャンバスを切っただけの作品は、ルーチョ・フォンタナによる《空間概念・待機》(1959年)であった。彼は何世紀も続いてきた絵画の平面性を打ち破ることが目的でキャンバスを切り裂いたという。たしかにナイフでキャンバスを切り裂く行為は、子供でもできるだろう。しかし子供にその精神性までは真似できない。かの作品が完成したときフォンタナは、「芸術家としては、これでいつ死んでも本望だ」とも語っている。マティス同様、やりきった感が半端ない。ちなみに彼の他の作品も、色違いのキャンバスを切ってばっかりである。
 
 
バーネット・ニューマン 《ワンメントⅠ》 1948年    

 
濃い目のインディアン・レッド一色をキャンバス全体に塗る。それから中央にマスキングテープを貼り、その上にオレンジ系のカドミウム・レッドを塗る。以上。これがアメリカ抽象表現者バーネット・ニューマンの芸術作品である。素材としては、これ以上でも以下でもない。こちらも子供にもできそうだが、当時の舞台は第二次世界大戦後。意気消沈した世界を新しく活気づかせようとする芸術(直観や根源的な欲求を呼び覚ましてくれるもの)を必要としていたし、ニューマンの作品は、現代社会の声を代弁していた。そういえば2013年、DIC川村記念美術館がニューマンの作品《アンナの光》を103億円で売却したが、その数字がニューマンの主張を裏付けている。
 
 
ジャクソン・ポロック 《ワン:ナンバー31》 1950年   
 
 
生涯アルコール依存症だったジャクソン・ポロックは、セラピーを受けながらポタポタと塗料をたらしこむ絵画手法=ドリッピング技法を生み出した。当時は、幼児の殴り書きのようだと言われてきたが、シュルレアリストのオートマティスムとユング派心理学の両方を研究し、何かを意図して描写することを避けた。自由奔放な精神は、絵具を通じて内面からひとりでに生じるものだとした。本人は、その行為が宇宙とつながると本気で思っていた。だが実際、ニューヨーク近代美術館に足を運び、幅531cmの実物を前にすると、圧倒的な作品のオーラに全身鳥肌が立った。
 
本書は他にも、帝王ピカソの作品や、展示室の照明が5秒毎に点滅しているだけの作品も紹介されている。六本木ヒルズの蜘蛛のオブジェでお馴染み、ルイーズ・ブルジョアによる《ママン》も収録している。絵画が好きな人なら、アートのバラエティでもみているかのように、お気楽にこの企画を鑑賞することができる。
 
作品解説を読めば、納得できるかはさておき、制作されている作家の意図が良くわかる。少しでもこの世界を俯瞰してみたいと思う人にとっては、うってつけの入門書だ。たしかに子供心を持ったデュシャンの《泉》を理解すれば、人間としての幅は広がるかもしれない。
 
マーティン・クリード《作品番号227、ライトが点いたり消えたり》2000年   
 
※画像提供:東京美術
  
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