出版業界と同じ構図『誰がアパレルを殺すのか』

田中 大輔2017年06月29日 印刷向け表示
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誰がアパレルを殺すのか
作者:杉原 淳一
出版社:日経BP社
発売日:2017-05-25
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国内の衣料品(アパレル)業界がかつてない不振にあえいでいる。バブル崩壊直後や、リーマンショック後ではなく、なぜ「今」なのか? アベノミクスは一定の成果を上げ、マクロ経済は比較的安定している。にもかかわらず、今になって突如、深刻な不振に見舞われているのはなぜなのか? ということを、川上(生地を生産している企業)から川下(小売店)までを縦断的に取材してその原因を明らかにしたのが本著だ。

一番の原因は業界全体に蔓延する「思考停止」にあるという。多くの関係者が、過去の成功体験から抜け切れずに目先の利益にとらわれ、年々先細りして競争力を失っていた。また深刻な「分断」があることも原因の一つだろう。分業体制が進み、川上の企業が、川下で起きていることをほとんど把握していないそうだ。

数字の面を見るとアパレルの国内の市場規模は1991年に15.3兆あったものが、2013年には10.5兆と3分の2に縮小している。それにもかかわらず供給されるアパレルの数量は約20億点から約39億点とほぼ倍増しているのだ。需要に関係なく、単価を下げるため、ムダを承知で大量に生産をし、目先の売上を作るために、消費者のニーズに目を向けず、内輪の論理に基づいて商品を大量に供給するという悪循環が起きている。

この話を聞いたときに、まったく同じ構図を持つ業界が頭に浮かんだ。出版業界である。出版社、取次、書店という業界の「分断」。過去の成功体験から抜け切れず「思考停止」に陥っているということ。目先の売上を作るための大量供給。どれもまったく同じことが起きている。出版業界の市場規模(書籍)と発行点数を同じスパンで見たところ、市場規模は1991年に9400億あったものが、2013年には約7800億と8割に縮小しているのに対し、発行点数は約4万点から約8万点と倍増していた。

1章のPART1後半に出てくるコンサルタントのセリフがとても印象的なので引用する。

まずは川上から川下まで、業界全体として不振の現状と原因を正しく認識し、その上で連携して対応する必要がある。アパレル産業には生地メーカーから商社、OEMメーカー、小売店まで様々な企業が関係しているが、階層ごとに断絶されていて連携が進まない。将来像を全体で共有しないまま、各プレーヤーが好き勝手振る舞い続けていては、業界が集団自殺しているのと同じだ

出版業界に携わるものとして、この言葉を他人事だとは思えなかった。またPART4の冒頭に出てきたセリフも他人事とは思えなかったので、こちらも引用しよう。

みんな、洋服が好きでこの業界に入ってくるんですけど、何年か仕事をしているうちに気付いちゃうんです。この待遇なら、条件のいいほかの仕事をして、稼いだお金で好きなブランドの服を買ったほうがかしこいんじゃないかって

バブル期には時代の最先端を象徴する職業として人気の職業だったアパレルの販売員。いまはブラックなイメージが染みつき、人手不足が深刻化している職業となっている。百貨店や、ファッションビル、直営店などは定休日がないところが多く、休日が少ない。また古くから業界内には販売員を使い捨てにする風潮がある。正社員にしない文化や販売員の待遇を低く抑えて当たり前という意識が業界内には根強くあるという。またキャリアパスが描けないというのも大きいだろう。ショップ店員からバイヤーになれるというのはごくまれなことである。

これに関しても、書店と全く同じ構図がみえてくる。書店へ営業にいくと、どこでも人が足りないという話を耳にする。また実力のある書店員が、待遇面から辞めていき、ほかの業界に行くというのもよく目にしてきた。売り上げを支えているのは現場の販売員であるということを忘れてはいけない。そこに気付かない限り、業界は不振の構図から脱することができないと著者は言う。出版業界も同じではないだろうか?

この本の後半にはZOZOTOWNなど、アパレル業界に「外」から参入してきた新興勢力や、TOKYOBASEなど、業界の「中」から既存のルールを壊そうとする新興企業の取り組みが紹介されている。こうした企業の取り組みを追うことで、衰退したと言われるアパレル産業に芽吹く新たな可能性が見えてくるだろう。同じような構図を持つ出版業界にも応用できることは多々あるのではないだろうか。

既存のビジネスモデルが限界を迎えているならば、この機に業界の悪習や不合理とは決別をして、変革を目指すしかない。業界に未来はないのか? そう問われたときに、私は「NO」と答えたい。

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