目からうろこの対談本『明治維新とは何だったのか』

田中 大輔2018年05月29日 印刷向け表示
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明治維新とは何だったのか 世界史から考える
作者:半藤一利
出版社:祥伝社
発売日:2018-04-29
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歴史というものは、常に勝者が作ってきたものである。勝てば官軍負ければ賊軍という言葉にある通り、戦いに勝った側が自身の正当性を主張するために、負けた側を貶めることがよくある。現在、日本で教えられている歴史も例外ではないのだろう。一般的には討幕を成し遂げ、明治政府を作り上げた薩長側から見た歴史(薩長史観)が学校では教えられている。

私もそのような歴史を習い、いままで何の疑問も持たずにそれを受け入れてきた。しかし歴史というものはもっと多角的な見方をしなくてはいけないものらしい。なぜなら見る側の視点によって、見えてくる世界が全く違ったものになるからだ。

少し話が脱線するが、「羅生門」という言葉がある。黒澤明の『羅生門』からきた言葉で、証言者によって意見が食い違う状況をいうそうだ。どうやら日本だけでなく世界で通じる言葉らしい。歴史というものもまさにその「羅生門」なんじゃないかとこの本を読んでいて思ったのだ。語る人の視点が変われば、見えてくる歴史というものも大きく違ってくる。そこが歴史のおもしろいところだと思う。そんな見方もあったのか!という発見が知的好奇心を満たす喜びとなる。今日紹介する本はそんな歴史の面白さを再発見させてくれた1冊だ。

『幕末史』『昭和史』を書いた半藤一利さんと、世界史の本でベストセラーを連発している、HONZの客員レビューでもおなじみの出口治明さんが幕末・維新をテーマに対談したものである。自分にとっては目からうろこな事柄が多く、あまりにもおもしろかったので買ってきたその日のうちに読み終えてしまった。

この本には私が学校で習ってきた歴史とは違った視点からみた明治維新というものが書かれていた。まず驚いたのが明治維新という言葉は、明治政府が自分たちのやったことを正当化するために作り出した言葉だという点だ。半藤さんは明治維新を薩摩と長州が徳川への積年の恨みを晴らした「暴力革命」であると語っている。実際は既存の社会体制を破壊した暴力革命であるのに、最初から正当性があったような形を作るために「明治維新」という言葉を作ったというのだ。また戊辰戦争についても、東北諸藩が反乱を起こしたわけではなく、官軍を名乗る軍隊が攻めてきたから、東北諸藩は自らを守るために仕方なく戦っただけだという話も驚きだった。

さらに驚いたのは半藤さんが宮武骸骨の『廃藩置県制史』をひき、賊軍藩がのちの廃藩置県時に差別を受けているという指摘である。県名と県庁所在地が異なる県が17あり、そのうち「朝敵」とされた藩が14、残りは小藩連合県であるという。戊辰戦争の激戦地であった会津藩は「会津県」ではなく、「福島県」に。県庁所在地も会津若松市ではなく、福島市になっている。また半藤さんのお父さんの郷里である長岡藩も新潟県となり、県庁所在地となった新潟にいたっては、廃藩置県時はただの小さな漁港だったそうだ。わざわざ栄えていないところを県庁所在地にしているなんて嫌がらせもいいところだ。県名や県庁所在地が官軍と賊軍で、そんなに違うなんて全く知らなかった。

もう一つこの本でおもしろいのは人物評についての記述である。維新の三傑(木戸孝允、西郷隆盛、大久保利通)が亡くなった後を引き継いだ、伊藤博文、山県有朋について、出口さんは控えめに西郷や大久保と比べたらちょっと小粒といっているのに対し、半藤さんは「ちょっとどころじゃないですよ(笑)、かなり程度が落ちると思います。」とまで言っている。さらに自分たちの権力を正当化するために、伊藤と山県は吉田松陰をまつりあげ、「われわれは松陰先生の門下生である」という威光にすがって権力の座を担保したというのだ。伊藤博文ってすごい人だと思ってたけど、そうでもなかったのかしら?

逆に評価の高い人物として挙げているは「日本人」という開明的な考え方を持った勝海舟や、革命家としての西郷隆盛、グランドデザイナーとしての大久保利通だ。伊藤博文に対しても上では悪口をいっていたけれど、明治時代きっての最高の能吏だと評価している。そして明治維新の最大の功労者として名を挙げていたのは幕府の老中、阿部正弘という人だ。鎖国という体制を自ら壊し、「開国・富国・強兵」という明治時代における日本のグランドデザインを生んだ人物とのことである。

この人物の名前は正直なところ初めて聞いた。大河ドラマなどで幕末の話は何度も見ているはずなのだけど、この名前は全く記憶にない。とても興味が沸いたので、いずれこの人のことは本で読んでみたいところだ。なお、この本の巻末には半藤さん、出口さんが選んだ明治維新を深く理解する為に読むべき本が紹介されている。恥ずかしながら私は半藤一利さんの本を一度も読んだことがなかったので、この本を読み終わってすぐに『幕末史』と『もう一つの幕末史』を購入した。こちらも読みはじめたら止まらないくらいおもしろい。 歴史って本当にいいものだな。とこの本を読んだことで自分の中で幕末熱が急激に燃え上がっている。

幕末史 (新潮文庫)
作者:半藤 一利
出版社:新潮社
発売日:2012-10-29
もう一つの「幕末史」: “裏側”にこそ「本当の歴史」がある! (単行本)
作者:半藤 一利
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0から学ぶ「日本史」講義 古代篇
作者:出口 治明
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