ブレたっていいんです!『すごいヤツほど上手にブレる』

田中 大輔2017年07月29日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
すごいヤツほど上手にブレる (T's BUSINESS DESIGN)
作者:アル・ピタンパリ 翻訳:岩崎 晋也
出版社:TAC出版
発売日:2017-06-26
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

信念を曲げる、ブレる、一貫性がない。どれも否定的なニュアンスで使われることが多い言葉だ。政治家が変節しようものなら、多くのメディアや、敵対する政党がそのことを一斉に叩くだろう。アメリカでは政治家の過去の発言と、それとは食い違う最近の発言を交互に放映する番組が人気を博しているそうだ。日本の週刊誌や新聞でも、その類いの記事はよく見かける。

リーダーには確固たる信念をもって、ブレることなく、邁進してほしいと思っている人が多いと思う。しかし不確実性が高く、先が見通せない現代において、リーダーは本当にそれでいいのだろうか?信念に固執したせいで、大きな損失を生み、破綻した企業というのがいくつも思い浮かぶ。ビジネスにおいても人生においても、周りからの説得を受け入れる柔軟性は軽んじられていると著者はいう。人間は現状維持バイアスに侵されており、今のままを好む傾向にある。しかしブレることは決して悪いことではないのだ。現代の優れたリーダーは周りからの意見を真摯に受け止め、朝令暮改も辞さず物事にあたる傾向にある。

ウサマ・ビン・ラディンの殺害作戦を指揮したアメリカ海軍のウィリアム・ハリー・マクレイブン海軍中将や、amazonのジェフ・ベゾス、フォード・モーター社を再建したアラン・ムーリーなどを例にあげ、リーダーに必要なのはブレないことではなく、新たな事実に直面したときに、進んで自分の判断を変えることができる能力であるとこの本では説いている。ベゾスは下記のような発言をしている。

「正しい人というのは、頻繁に考えを改める人のことだ」

「明日になったら、今日の意見と矛盾する意見を持とう」

彼こそ上手にブレる新たなリーダー像を体現している人物である。これからの時代、成功したければ、自分の考えを随時かえて行かなくてはならないのだ。

自分の考え=信念を徐々にアップデートすることがいかに重要か?ということのわかりやすい例が、『異端の統計学ベイズ』に出てくる簡単なゲームである。リーダーシップの本にベイズ統計の話が出てくるとは思わなかったが、この本の核となる部分だと思うので少し長いけれど引用しよう。

テーブル上にボールがある。ボールがどこに止まっているかはわからず、あなたはその位置を推論する。あなたはテーブルに背を向けていて、振り向くことは許されていない、できるのは、テーブルにもうひとつボールを転がすように友人にお願いすることだけだ。そして友人は転がしたボールが最初のボールの右側にあるか左側にあるかをあなたに教えることだけが許されている。あなたは何度でもボールを転がすように友人にお願いしてよち。この単純な手順だけで、あなたは最初のボールの位置を推測することができるだろうか?

まず最初の推測をし、ボールをひとつ転がすように頼み、ターゲットのどちら側に着地したかを尋ねる。ボールがターゲットの左側に止まったならば右寄りに、逆ならば左寄りにボールがある確率が高い。最初に転がしたボールがターゲットの左に止まり、次に転がしたボールがまた左に止まったとしたら、ターゲットはかなり右寄りにありそうだと判断できる。これを繰り返していけば、いくほど、ターゲットの場所をより正確に特定できるようになる。

何回転がしても、ボールの正確な位置は言い当てることはできない。しかし新たな証拠がひとつ増えるたびに判断の自信は深まり、ある時点で推測する場所がほぼ正しいといえるまでになる。これがベイズによる天才的な発見だ。というのもターゲットのボールの位置というのは一例であり、同じことが我々の主観的な判断の全てに当てはまるからだ。

新たな証拠を得るたびに判断を修正していけば、正確性を少しずつ高めていくことができる。重要なのはベイズの思考実験の背後にあるロジックである。全ての信念を、確率論的思考による最初の推論とみなすことができれば、周りからの意見は世界をより正しくみるためのチャンスとして歓迎できるようになるはずだ。

自分の信念が絶対であるとの考えはいますぐ捨てよう。信念に聖域はないのだ。自分の考えが間違っているという可能性も常に考慮しつつ、説得を受け入れる柔軟性に誇りをもとう。自分の信念を一時的なものとして扱い、周りの意見を積極的に取り入れ、信念をどんどんアップデートしていけば、ブレることを貶す愚かな人たちを差し置いて、不測の事態が起きたときに、大きな利益を得ることができるかもしれない。

異端の統計学 ベイズ
作者:シャロン・バーチュ マグレイン 翻訳:冨永 星
出版社:草思社
発売日:2013-10-23
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub
ジェフ・ベゾス 果てなき野望
作者:ブラッド・ストーン 翻訳:井口 耕二
出版社:日経BP社
発売日:2014-01-08
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事