『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』を買ったのは、どういう人たちなのか?

古幡 瑞穂2018年10月28日 印刷向け表示
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死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
作者:ドニー・アイカー 翻訳:安原和見
出版社:河出書房新社
発売日:2018-08-25
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事実は小説より奇なり、というのはHONZ読者にとってはしばしばぶちあたる事だと思いますが、『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』はその中でも有数のインパクトのある本でした。それをとりあげた首藤淳哉のレビューがまた秀逸。世界一不気味と称された事件の謎部分を見事にまとめ提示してくれています。

わかっているのは、何らかの理由でメンバー全員がテントを飛び出し、マイナス30度の闇の中に散り散りに逃げていったということ。後に9名の遺体が発見されたのは、テントから1キロ半ほども離れた場所だった。彼らはろくに服も着ておらず、靴もはいていなかった。検死の結果も不可解だった。6人は低体温症で死んでいたが、残る3人は頭蓋骨を骨折しており、女性メンバーのひとりは舌がなくなっていた。さらに、遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出されたのだ。

「これ、ミステリ読みだったら即、本屋さんに走りたくなるやつですよ。」と、思ったのは私だけではなかったらしく『死に山』は一気に話題の本の仲間入りを果たしました。その売上推移がこちらです。(日販オープンネットワークWIN調べ)

首藤のレビューが出たのは9月7日でしたから、グラフで見ても最初の山がはっきり分かると思います。しかし残念ながらそれほど初版部数が大きい作品ではなかったため店頭は常に品薄状態が続いていました。もっとも売上が大きかったのが9/17の月曜日(祝日)。前日の東洋経済オンラインへのレビュー転載がそのきっかけと考えられます。グラフは店頭での売上の推移ですが、ネット書店ではさらに大きな売上の動きがあったようです。

では、どんな人がこの本を読んでいるのでしょう。年齢クラスタ、過去の購買履歴から客層を予想してみます。

サンプル数が少なく残念ですが、65%が男性読者。比較的幅広い年代に読まれています。ちょっとオカルト色のあるテーマということで他のノンフィクションより若い層が多めということでしょう。

この読者が過去1年間で購入したもの上位は以下のとおり。

  銘柄名 著訳者名 出版社
1 『屍人荘の殺人』 今村昌弘 東京創元社
『このミステリーがすごい! [2018年版] 』 『このミステリーがすごい!』編集部 宝島社
『不死身の特攻兵 』 鴻上尚史 講談社
4 『事故物件怪談恐い間取り』 松原タニシ 二見書房
5 『昭和の怪物七つの謎』 保阪正康 講談社
『陰謀の日本中世史』 呉座勇一 KADOKAWA
『ゴールデンカムイ [13]』 野田サトル 集英社
『テンプル騎士団 』 佐藤賢一 集英社
『日本史の内幕』 磯田道史 中央公論新社
『日本軍兵士』 吉田裕 中央公論新社
『日本史の論点』 中公新書編集部 中央公論新社

なんと2位に『このミス』、1位には昨年のミステリベストを総ナメした『屍人荘の殺人』が入りました。ミステリ読みに支持されるだろうという予想そのままの結果です。

4位に『事故物件怪談恐い間取り』が入っているところもポイントでしょう。先日のHONZ朝会で仲野センセイのカバンから出てきたこの本、あまりの怖さに持っていたくないとメンバー内で押し付け合いが起こっていました。

この読者が愛読する雑誌は『ムー』かな、と思っていたのですが、その予想は見事に裏切られ『ブルータス』が読まれた定期雑誌1位。ちなみに、その号の特集は「危険な読書」です。

読者の最近の併読本から注目本を紹介します。

エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一
作者:デヴィッド I カーツァー 翻訳:漆原敦子
出版社:早川書房
発売日:2018-08-21
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多くの人に手に取られていたのがこちら。誘拐事件を書いたノンフィクションです。事件が起こったのは1858年、教皇の指示によりある家庭から6歳の少年が連れ去られます。なぜこの少年が連れ去られなくてはならなかったのか、それがどういった影響を与え、どう国家・宗教を変えたのか、を丹念な調査をもとに描いています。スピルバーグが映画化するということで話題になっています。
 

天災の多かった今年、地質や天候に関する本が非常によく動いています。その中でも最近注目されているのがこちら。地震と火山の噴火をもたらす原動力、プレートの動きについて解説しています。同じくブルーバックスから発売された『地球46億年 気候大変動』も人気です。
 

肉食の社会史
作者:中澤 克昭
出版社:山川出版社
発売日:2018-09-01
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仏教に殺生を禁じられたことで、肉食に後ろめたさを抱いてきた日本人。この後ろめたさは差別の一因にもなっています。では仏教伝来まではどうだったのか、以降の庶民の生活はどうだったのか…を明らかにした1冊。歴史書で有名な山川出版社が出しているところにも興味がわきます。
 

オカルト・クロニクル
作者:松閣オルタ
出版社:洋泉社
発売日:2018-08-23
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オカルト・クロニクルは実在のWebサイトです。そのサイト紹介文を読むと

奇妙な事件
奇妙な出来事
奇妙な人物
奇妙な遺跡
など過去に起こった事象に焦点を当て、情報の収集及び分析によって過去の出来事に新たな視点を加えんとする研究サイトです。

とのこと。これが書籍化されたものがこの『オカルト・クロニクル』。『死に山』のテーマとなったディアトロフ峠事件も掲載されています。この文章を書くためにサイトを開いて見てしまったが最後、しばらくページを繰るのをやめられなくなりました。本当に世の中には不思議な事件が多いですね。夢に出てきそうです…
 

チェコSF短編小説集 (平凡社ライブラリー)
作者: 翻訳:平野 清美
出版社:平凡社
発売日:2018-10-12
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今回の併読本ランキングはミステリ小説の占有率が非常に高い特徴がありました。特に翻訳ミステリが多く読まれていますが、その中で目をひいたのがこちら。SF短編小説集というのもなかなか珍しいですが、しかもチェコ。確かに、世界に翻弄された国でどういった小説が産まれてきたのかは興味深いテーマです。

激動の歴史を背景に産まれた小説群は全て本邦初訳、とのこと。ちょっと気になる作品です。

さて、書店の店頭はこれから年末年始にかけてミステリシーズンを迎えていきます。謎に惹きつけられる者にはフィクションもノンフィクションも、それほど大きな違いはないのかもしれません。今回の読者、併読本を見ていてそれを強く感じました。今年のミステリベスト作品と並んで『死に山』が展開され、注目され、さらに話題の作品になっていくことを楽しみにしたいと思います。

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出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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