2017年 今年の一冊 HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

内藤 順2017年12月30日 印刷向け表示
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けもの道をやや抜け出し、メインストリームに差し掛かろうとしてる本を紹介しているのが、こちらのページのメンバーたち。より多くの人に楽しんでいただける一冊が、目白押しである。

堀内 勉 今年最も「なるべくしてなった」一冊

欲望の資本主義
作者:丸山 俊一
出版社:東洋経済新報社
発売日:2017-03-24
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資本主義研究は自分のライフワークだし、元々、HONZにお誘い頂いたのも、経済関係の書評を期待されてのことなので、結局、今年の一冊にもこの本を選ばせて頂いた。

今年は資本主義研究会を主催しているおかげで、宇沢弘文先生の娘さんで、宇沢国際学館を主催している占部まりさんとも出会えたし、その勉強会でスティグリッツ教授や安田洋祐先生とも知己を得て、そこから更にNHKのテレビ番組『欲望の資本主義』を作成した丸山俊一プロデューサーにも講演をして頂いたりと、資本主義繋がりで世界がどんどん広がっている。

数年前に資本主義関係の本を書こうと思って、ある出版社に相談したら、そういう硬い本は売れないんですよね〜と言われたのが嘘のようで、今はむしろタイトルの中に「資本主義」という言葉がある方が売れるのだそうだ。皆、それだけ資本主義が抱える本質的な問題に気付き始めたということで、それ自体は好ましいことなのだが、資本主義が加速するこのグローバルな貧富の格差問題はどこまで行ってしまうのか、これをどうやったら是正出来るのか、気がかりでならない。

小松 聰子 今年最も「出会うのが遅過ぎた」一冊

断片的なものの社会学
作者:岸 政彦
出版社:朝日出版社
発売日:2015-05-30
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2015年出版の本なので今更感は否めない。出会うのが遅すぎた。全ては自分の怠惰さのせいだ。

本書を読んだ後は、目に入る光景全てがなんだか今までと違うもののように感じる。何の変哲も無い朝の通勤ラッシュですらキラキラと輝く「宝物」のように映るのだ。変なキノコでも食べたらこんな感じなのかもしれない(食べたことないけど)。

社会学、とタイトルには有るが難しい話ではない。さまざまな人生における様々な地点のたくさんの切片が提示されている。「分析できない」ものたちが静かにそこに集まっているのだ。そこにあるものをそのままの通りに尊重する。

例えば沖縄のホテルの窓からチラリと見えただけの誰かの頭、一行だけ書かれて何年も放置されたブログ、路上でギターの弾き語りをしているおじちゃん、被差別部落に生まれた若者たちが他の被差別部落を通りかかった時に口にした差別的ジョーク、巨乳への熱い想いをホームページで語る末期癌のサイト管理人…

エッセーとして読むのも面白い、しかし視点の提示という点で最高に社会学らしい一冊なのである。

西野 智紀 今年最も「ドストライクだった」一冊

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男
作者:佐々木 健一
出版社:文藝春秋
発売日:2017-06-19
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昔から、型破りな人に憧れる。自分には全く真似できない生き方だからだ。もう一つ自分の話をすれば、私は雷や竜巻といった気象現象にどうしてか惹かれるものを感じてしまう。ダウンバーストと竜巻研究の世界的権威として名を馳せた気象学者・藤田哲也の一生に迫った本書は、私の趣味ドストライクな一冊だった。

とにかく羨ましいのは、藤田の天才っぷりだ。竜巻の被害現場をシャーロック・ホームズばりに洗いざらい調べ上げる観察力・推理力。それをウォルト・ディズニーよろしくカラフルで的確なイラストとして示す表現力。これらに加えて、近所のアメリカ軍基地のゴミ箱でたまたま拾った論文からアメリカ気象学界会長とパイプを作ってしまうような強運も備えていたのだから、神はこの人にどんだけ能力与えてるんだよ少しくらい分けてくれよと思わずにはいられない。

批判を嫌い、論文を査読に回さず自己出版したり、周囲に自分と同じ仕事量を厳しく求めたりと、研究者としてどうなんだと思うところももあるが、それはご愛嬌。もし生まれ変わりができるなら、一度くらいこんな神に愛された人生を送ってみたいものだ。

村上 浩 今年最も「我が身を顧みた」一冊

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
作者:J.D.ヴァンス 翻訳:関根 光宏
出版社:光文社
発売日:2017-03-15
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良い映画を観賞した後は、この映画は自分のためにつくられたのではないかという感覚を覚える。その時に自分が考えていたこと、感じていながら言語化できていなかった何かが、具体的なイメージとして提示されるからだ。

トランプ誕生を支えた貧困白人層の実態を生々しく描いた『ヒルビリー・エレジー』は、自分のために書かれた本という感覚を越えて、自分のことが書かれた本だと思わせる強度があった。日本に生まれた私は、銃の恐怖やドラッグの誘惑からはもちろん無縁だった。平凡で安定していた家庭環境も、母親に殺されかけた経験を持つ著者のそれとは全く異なる。

それでも、アメリカの繁栄から取り残されながら、絶望することもできずもがく著者の姿を自分に重ねられずにはいられなかった。娯楽らしい娯楽もなく、もともと少なかったお店や学校が次々と姿を消していくような田舎で、都会に憧れるほどの知識もなく、言いようのない居心地の悪さを感じていた少年時代が強烈に思い出された。

地方から都会に出てきた人は是非、本書を手にとってみて欲しい。遠いアメリカの物語に、忘れていた自分の過去を見つけられるはずだ。

鰐部 祥平 今年最も「エキサイティング」した一冊
+絶対に併せて読むべき2冊

ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡
作者:ジョビー・ウォリック 翻訳:伊藤 真
出版社:白水社
発売日:2017-07-26
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HONZメンバーが自由に、今年のベストだった本を一冊選び紹介する恒例のこのコーナー。実は以前に、ベストな一冊を選ぶという趣旨を無視して「併読すべき2冊」と銘打って2冊の本を紹介したことがある。HONZを取り仕切る「鬼編集長」こと内藤編集長からは「二冊かよ!オラオラっ!」という怒号を浴びたのだが、人間とは懲りないものである。今年は三冊紹介しよう!

一冊目は、最もエキサイティングだった『ブラック・フラックス』だ。IS実質上の創設者ザルカウィの人生を丹念な取材を通して追う事で、史上稀に見る残虐で有能なテロ集団がいかに生まれ成長して行ったかを世界に知らしめた一冊。物語を追う中で、関係者が発した言葉を実に印象的に配置しているのも、著者の文筆家としての実力だ。「目だけで人を動かす男」「これは我々の9・11だ!」という言葉は、その言葉が発せられた場所に自分も居合わせたかのように記憶に焼きつく。

ではISはどのような統治を行っていたのか?その疑問に答えるのが二冊目『「イスラム国」の内部へ:悪夢の10日間』だ。あるドイツ人ジャーナリストが「イスラム国」から正式に取材許可を与えられた。欧米人ジャーナリストが正式にISの占領地を取材した貴重な作品である。

ではテロリストと闘った米兵は戦地で何を見て、何を体験したのか?それを知るためにベストな本は『兵士は戦場で何を見たのか』だ。ザルカウィ率いるテロ組織に翻弄され次第に崩壊していく米兵たちの姿が見事に描かれている。

新井 文月 今年最も「仕事増えるかもと思った」一冊

経営戦略のコンサルティング業界で10年間働いた著者によれば、現在に蔓延するサイエンスベースのコンサルティングは限界を迎たそうだ。そして、その打開策は「アート型思考」にあると主張する。

近年、ビジネスにおいてもアートやデザインの必要性が非常に高まっているのは肌で感じていた。グローバルな視点でも実際ビジネスにアート教育を導入する企業は増え、今年はデザイン視点からのビジネス書も多数出版された。

本書は抽象度の高くなりがちなアートとデザインが、ビジネスにおいてどう影響をもたらすのかを具体的なエビデンスでもって明文化されている。さらに、他のどの関連本よりもコンパクトで本質をついている。

これまで組織においては、私のような直感型の意見は理論派に負けるという構図であった。それでも皆が同じ方向を向けば、経営は行き詰まっていくのが現実の結果だ。著者のいう、アート(クリエイティブ)型人間を決定権のあるポジションに立たせ、クラフト・サイエンス型の人間で両脇で固める組織づくりは、手詰まりになったサービス全体を見直すヒントになりそうだ。

仲野 徹 今年最も「むっちゃおもろいけど、どう薦めたらええかがようわからん」一冊

たまたまザイール、またコンゴ
作者:田中 真知
出版社:偕成社
発売日:2015-06-17
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ただ面白そうというだけで、目的は何もないザイール川の川下り記録である。以前に舟の経験はあった。ただし、公園のボートで一時間…。そんな著者について行った奥さんが偉すぎる。電気も水道もない貧しい集落でキャンプしながら丸木舟で一ヶ月。蚊やアリに襲われたり、マラリアに罹ったりという命がけの旅に、最後には大げんかして奥さんが号泣。そら泣くわ。その1991年の旅で二度と行くまいと固く誓っていた著者だが、成り行きで21年後に今度は現地の日本人シンゴ君と川下り。目的のなさは二回目も同じ。現地の人たちと交流しながら、あてもなく船便を待ち続け、しょっちゅう賄賂を要求され、旅していく。

ちょっとした事件はあったりするが、それほどたいしたことはなく、淡々と旅の過程が記録されている。カラー写真がいっぱいあって、まるで気分は同行者だ。なんとも面白くて、ワクワクしながら一気に読んでしまった。とはいうものの、冒険譚があるわけでもなし、こうして紹介していても、どうしてそんなにワクワクしたのかがようわからん。けど、なんせ読んでいると楽しい、という不思議な本なのである。ひょっとしたら、ある意味で旅の理想型がここにあるからかもしれん。

澤畑 塁 今年最も「文章を書くうえで勉強になった」一冊 

大人のための国語ゼミ
作者:野矢 茂樹
出版社:山川出版社
発売日:2017-08-01
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大学1年生のときに最も興奮させられた講義のひとつが、この著者の「論理学」であった。論理学の知識を上から教えるのではない。そうではなく、学生と一緒になって、その考え方をゼロから身につけていく。学生は学生で、途中で自由に質問してよい。ただ、うかつな質問をすれば、先生から質問が返ってきたりもする。当時、空調もろくに利かない初夏の大講堂で、多くの学生が額に汗を浮かべながら、それでも熱心に先生の話に耳を傾けていたのが、いまでも忘れられない。

そんな先生が「大人のための国語ゼミ」を開講したという。これはもう受講しないわけにはいかないだろう。

本書が目指すのは、「生活や仕事で必要な普段使いの日本語を学ぶ」こと、すなわち、「きちんと伝えられる文章を書き、話す力、そしてそれを的確に理解する力」を鍛えることだ。「だけど国語なんて、何をいまさら」と思う人も少なくないだろう。しかし実際に本書を読んでみると、これがじつに勉強になる。とくにわたしにとっては、分かりやすい文章を書くためのレッスンが非常に勉強になった。「明確で分かりやすい文章を書くのであれば、一つひとつの文はなるべく簡潔なものにした方がよい。そしてそれを的確な接続表現でつなぐ」。そんな教えに、ダメを出された気になったり、自信とやる気を与えられたりして。

国語力を鍛えることは、誰にとっても「遅すぎる」ことはないだろうし、誰にとっても価値あることだろう。未読の方はぜひ本書をゆっくりじっくり読んでほしい。

麻木 久仁子 今年最も「勉強する気になった」一冊 

身の丈にあった勉強法
作者:菅 広文
出版社:幻冬舎
発売日:2017-11-02
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「薬膳」を学ぶために学校に通い始めたのが3年前。自分から進んでやる勉強は学生時代の勉強より断然楽しいと初めて知った。その一方で、おのれの記憶力の低下にはまいった。白髪よりも顔のシワよりも、自分の歳を痛感させられる。いまも学校に通って中医学の勉強をしているのだが、何度やっても忘れてしまうので、なにかよい勉強法はないものかと常々思っていたところ、出会ったのがこの本である。

著者は芸人コンビ「ロザン」のひとり。クイズに強い宇治原じゃないほう、である。京大卒芸人・宇治原クンを「高性能勉強ロボ」と呼ぶ菅ちゃんは、いままでも宇治原の勉強法などを題材にした『京大芸人』や、『爆笑しながら一気に頭に入る日本史』などがベストセラーになっていて、受験生に大人気だ。今回の本にも、どうやって楽しく勉強するかのエッセンスが詰まっている。

たとえば暗記術。菅ちゃんによると「変な場所で覚えるべし」。日常的な場所ではなく、変な場所で覚えることで、「あ、これはあそこで覚えた」と記憶を呼び起こすとっかかりができるらしい。たとえば机とベッドの隙間に潜る。出窓に入る。机の上に仁王立する。そこで「叫ぶ!」。やってみたい!ほんとにそれで、わたしの暗記力は蘇るだろうか。まだやってないですが、正月休みに思い切ってやってみます。

ほかにも「偏差値30アップの勉強法は、ほとんどの人にとって意味がない」ことや、「時間がない中で予習と復習のどちらをするべきか」、など受験生はもちろん、その親にとっても役に立つこと間違いない勉強法が、ユーモアたっぷりで書かれている。

中学生・高校生のお子さんがいる方は、お年玉と一緒にこの本を与えてください。とにかくゲラゲラ笑いながら、「よしやるぞ」という気にさせてくれます。もちろん50の手習いで勉強中のおじさん・おばさんにもオススメです。

 

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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