『直す現場』 百木一郎

2011年5月29日 印刷向け表示
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モノを創る人、直す人はもちろん、使う人にもおススメ

1981年~1982年の連載、1999年から2002年の連載をまとめたものであるが、その内容は決して古くない。是非書店で本書を手にとってそのイラストを見て欲しい。きっと買いたくなるはず。

直す現場 直す現場
(2011/04)
百木 一朗

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「復旧」でなく「復興」を、という言葉を目にすることが多くなった。復興のためには、これから沢山のものを直さなければならないだろう。本書は職人たちの『直す現場』を素敵なイラストを通して見ることで、直すことについて考える一冊である。例えば、ジーパンの穴に後ろから同じ色の布を当ててミシンで縫えば、その「穴」は直ったことになるかもしれない。しかし、穴が開いた時点で周囲の布も弱くなっており、ただ穴をふさいだだけでは周囲への負担は余計に大きくなってしまうかもしれない。これでは直したことにはならないのだ。

本書を読み進めると、最近は何かを直すということが少なくなったことに気がつく。小さい頃はおもちゃが壊れれば拙いながらもボンドを取り出しせっせと直していたが、ファミコンになった時点で自分での修理は不可能になった。家電製品はスペック向上と値段下落のスピードが加速し、数年使っていれば、下手に直すよりも新製品を買った方が安上がりな場合も多い。iphoneは不良が出れば新品と交換してくれる。不良率を限りなくゼロに近づけるより、そこそこの不良率に留めておいて不良が出れば交換する、というのが現代のマスプロダクションの1つの方向性なのかもしれない。

それでも『直す現場』には何だか惹かれるところがある。本書には「直し人」の姿は直接描かれていないのだが、その現場からは「直し人」の息遣いやこだわりがはっきりと伝わってくる。一つのことに打ち込むことが苦手な飽きっぽい自分は、ないものねだりかもしれないが、このような職人がとても格好良く見える。「直し人」が必要とされるのは、「直すに値するモノ」がある時だけだ。「直し人」が必要な、「直すに値するモノ」を使っていたい、創り出したいと思わせる一冊。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
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