6月のこれから売る本-紀伊國屋書店富山店 野坂美帆

2013年6月19日 印刷向け表示
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HONZをご覧の皆様、初めまして。私、ホタルイカやブリなど海産物のおいしい蜃気楼の土地、北陸は富山県の一理工書担当書店員でございます。この度晴れがましい場をいただきまして、こっそり萌える売りたい本をご紹介いたします。どうぞしばしお付き合いの程を。

といっても理工書売場というのはジャンル多岐、生物学から数学、コンピュータや建築まで、様々な商品を扱っておりまして、私もジャンルごとに売りたい本がございます。今回6月は、その中から生物学・図鑑棚よりいくつかご紹介いたします。

最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態

作者:三宅 裕志
出版社:誠文堂新光社
発売日:2013-05-24
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梅雨入りした地域が多いようで、ずいぶん暑い日が続きます。世の中夏!夏に向かっておるのです!全然嬉しくない!個人的には・・・いや、いや、富山県というところは夏、湿度高く過ごしにくい土地なのです。私、お客様に少しでも涼をお届けすべく、今月図鑑コーナーにて陳列しておりますのは『最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態』

古事記の時代からクラゲと共に過ごしてきた私たち日本人。クラゲの美しさを愛でる写真集は幾つも良品がございました。しかし本作、その透き通った幻想美をおさめつつなおかつ生活史を記述。クラゲに魅せられればその生態だって知りたくなる、知的欲求の向かう先を的確に押さえた一品です。図鑑といえば私、つい注目してしまうのはコラムです。思いがけない知識に出会い、更なる疑問を育むコラム。もちろんこの図鑑、コラムも充実。「自己非自己についての認識能力」についてや、「クラゲの感覚器」など、クラゲ世界の奥へと誘う興味深いキーワードが散りばめられています。最終章には採集・飼育について書かれており、入門書として最適の商品です。

クモはなぜ糸をつくるのか?

作者:Leslie Brunetta
出版社:丸善出版
発売日:2013-06-29
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お次はこれから発売する予定の新刊をご紹介。『クモはなぜ糸をつくるのか?』。いやこれ、面白い!訳者の三井恵津子氏は紀伊國屋書店刊『ミドルワールド』訳者であり、著書には『雌と雄のある世界』などがあるサイエンスライター。原著者レスリー・ブルネッタ氏はニューヨークタイムズなどに寄稿するフリーランスライター。またキャサリン・クレイグ氏はクモを専門とする進化生物学者。えークモ?気持ち悪ーいなんておっしゃらないで。

三億年を超える進化の歴史は、読めば読むほど引き込まれる謎と創造に満ちた世界。先日クモの糸を人工的に作りだし、量産化することに成功した山形の企業のニュースが話題になりましたが、それがなぜあのように驚きをもって取り上げられることになったのか、この本を読めばよくわかるのです。クモはなぜ糸をつくるようになったのか。その糸は、なぜあのような強度と柔軟性を持つに至ったのか。クモの糸をキーワードに進化をたどり、その生態の謎を紐解く過程は、丹念さにもどかしくなりながらも興奮に満ちた道のり。ああ、早く売りたい!

人類とカビの歴史 闘いと共生と (朝日選書)

作者:浜田信夫
出版社:朝日新聞出版
発売日:2013-06-11
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つい熱が入ってしまいました。暑苦しい?あ、申し訳ありません。せっかくクラゲで涼をとったのに?面目ないことです。えーと、では、更にお次は微生物の本を。菌類!そう、カビ!カビの本を。『人類とカビの歴史 闘いと共生と』。表紙、美しいですね。そう、カビです。カビと私たちは非常に近しい隣人です。そこら辺の空気中にだってカビが飛んでいます。今の時期、食品に生えるカビにも悩まされます。お風呂に生えるカビにも悩まされます。

カビは、日常の中で、敵視されることの多い生物ですが、良き隣人として利用されることもあります。本書は、カビとはどのような生物であるのかをわかりやすく説明し、様々な具体例を挙げながら私たち人間との関わり合いをまとめていきます。カビに対する誤解を解き、正確な知識を持つことで、よりよい共存の仕方を学ぼうという姿勢は興味深く、共感できるものです。

森のふしぎな生きもの 変形菌ずかん

作者:川上新一
出版社:平凡社
発売日:2013-06-07
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おお、話を菌類に及ぼすならば、こちらの新刊もおすすめしておりまして、ご紹介せねば!『森のふしぎな生きもの 変形菌ずかん』。変形菌、といってハテナと首を傾げてしまわれましたか。粘菌です。粘菌!南方熊楠が昭和天皇に献上した、あの形を変えて動きまわる、不思議ちゃんです!私この本の発売をわくわくしながら待っておりました。ご覧ください、このキュートな装幀。その中に並ぶ粘菌のかわいらしさ。帯には作家・川上弘美さんが「未熟子実体のとりこです・・・」と言葉を寄せていらっしゃいます。元・生物教員の芥川賞作家をとりこにする粘菌、恐るべし。

私は菌類からついつい粘菌の本を連想してご紹介しましたが、近年の研究ではこの不思議な生物の分類が変わってきているとのこと、詳しくは本書をご覧いただきたいと思います。食物連鎖の中で、分解者を食べるという重要な役割を担う粘菌。その解説から、採集・観察方法を備えた図鑑です。森歩き、山歩きの新しいお供にぜひお連れくださいませ。

カビや粘菌で、ますます涼から遠ざかってしまった?ああ、大変申し訳ありません。しかしながら、多少なりとも皆様の知的好奇心を刺激する本をご紹介できたかと思っております。どうぞお近くの書店で、ぱらぱらり、手にとってご覧くださいませ。

それではまた来月、新しい本との出会いをお届けできますように。

野坂 美帆

32歳子持ちB型書店員。現在の担当部門は理工書。

担当の中で好きなジャンルは建築。

紀伊國屋書店富山店

住所: 富山市総曲輪3-8-6

総曲輪フェリオ7F

TEL : 076-491-7031

FAX : 076-491-7081

営業時間 : 10:00~20:00

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!