『プア充』新刊超速レビュー

2013年8月23日 印刷向け表示
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プア充 ―高収入は、要らない―

作者:島田 裕巳
出版社:早川書房
発売日:2013-08-23
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「プア充」ってなに?とタイトルに惹かれて衝動買いして読んだ本が面白かったので紹介したい。プア充っていうのはプアなリア充(プアだけどリアルが充実している人)ってこと?と思ったら当たらずといえども遠からずという感じだった。本からプア充の定義を引用しよう。

「少欲知足※」の思想を、現代の日本に適した形にアレンジしたもの。収入が低いからこそ、豊かに安定した生活ができて、楽しく幸せに生きられるという考え方。

※ 少欲知足=世間の中で出世してお金を儲けるのではなく、欲望を抱かず満足して生きていくという考え方

そんなの単なる貧乏人の強がりだとか、刺激も楽しみもない、つまらない生活なんじゃないの?と思う人も多いだろう。実際、著者もこの考え方を教わったときにはそう感じたという。しかし、実際にプア充生活を実践したことで、価値観が一変したそうだ。プア充を実践すればするほど、毎日が楽しくなって、それまで抱えていた将来への不安が消えて、自分の未来に希望が持てるようになる。そんな夢の様な話がほんとうにあるのだろうか?

そんな「プア充」のススメをこの本では物語形式で紹介している。物語もよくできていて、とても読みやすいので、あっという間に読むことができる。さらっと読んだだけのつもりだったのだけど、私はプア充という考え方に大いに惹きつけられてしまった。ここ最近、新しい働き方を提案するような本がたくさん出ていて、わりとそういった本をたくさん読んでいるのだけど、そのどの本よりもこの本の考え方には共感を覚えた。それはプア充の想定している年収と、自分の年収が一致していたからかもしれない。

「年収300万なんて……ワーキングプアじゃないですか」

これはこの本にでてきたセリフである。えっ、自分ってワーキングプアだったんだ……。とこのセリフをみたとき、かなりショックを受けた。周りからはそんなふうに見られてたのか……。

著者いわく、年収300万円くらいがプア充生活を送るには一番いいのだという。もちろん年収が300万でも、仕事が過酷で残業は当たり前、休みの日は疲れて体を休めるだけの生活を送っているようでは意味がない。仕事はほどほどで、あくまでも生活の手段と割り切るくらいがちょうどいい。

お金というのは、稼げば稼ぐほど、不安や欲望、執着が増していくものだ。収入が増えれば、その分支出も増していく。欲望は際限なく、それを満たすために自分の時間のすべてを費やしてしまい、本当の人間関係を築く時間がなくなってしまう。これではなんのために働いているのかわからない。そういったことを感じ始めている人が世の中では増えている気がする。私もそんなことをよく考えるようになった。お金はほどほどでも、贅沢せずに楽しく暮らせて、プライベートが充実してれば、それでいいじゃないか!

プア充の考え方でなるほどなと思ったのは、年収300万円だからこそ結婚するというものだ。年収300万円同士で結婚すれば年収600万円。それなら贅沢さえしなければ、生活は成り立つだろう。これには少し勇気づけられた。またプア充だからこそ都会に住むというのにも納得した。一人暮らしならば、郊外よりも都会のほうがお金がかからないで済むのだ。

プア充というのも悪くないじゃないか。きっとこの本を読み終えた時には、そんなふうに感じてもらえると思う。私も生活にプア充の考え方を取り入れたいと思う。ただ、この本の中でも言っているが、この考え方はすべての人に納得してもらえるものではない。個人の考え方や嗜好というものがあるのだから……。だからこそ、こういう考え方もあるんだよという意味もあり、この本を紹介したいと思ったのだ。

では最後にあとがきに書かれている言葉を紹介してレビューを終えることにしよう。

プア充というのは貧しくても楽しく豊かに生きられということではない。

貧しいからこそ豊かに生きられるのだ。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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