前回の「ハマザキ書ク 第一回 新刊情報収集テクニック」が思った以上に好評でしたが、その後、多くの方々から「本当に全部読んでいるの?」と疑われました。成毛眞さんの『本は10冊同時に読め!』を読んで同じ読み方をしていると驚き、一ヵ月に勤務先と居住区の図書館で借り出せる本の合計上限である60冊は最低必ず読んでいる、乱読家を自認する私でも、全ての気になる新刊を読むのは到底不可能です。
ではどうやってそれらの新刊の内容を把握しているかというと、幾つかの書評ブログを横断的にチェックしているのです。編集者として、自分が携わった本の書評を読んで次の本の為に奮起し、そして反省すべき点を客観的に直視する為に、大量の書評ブログをRSS登録しています。今回は取り分け私が信頼に足るソース源として、新刊を長期間紹介しており、なおかつ「書評」「評論」というよりは、覚え書きメモ、本のポイント、内容を要約してくれている数々のブログをご紹介したいと思います。
まず一番最初にご紹介したいのが『新世界読書放浪』です。このブログは全世界の、各国をテーマに扱った本を読んでいくというコンセプトが特徴です。あの成毛眞ブログで紹介された『アルバニアインターナショナル』の様なマニアックな国を筆頭に、マリ、ベラルーシ、ドミニカ共和国、マケドニア、ザンビア等、本邦で初めて本となったと見られる国々の本まで取り上げる制覇癖ぶりを発揮。おまけに2005年の5月から一日に平均3,4冊と見られるスピードで紹介しているという驚異的な速読家。マイナーな本の書名を検索すると、必ず上位にこのブログが登場してしまう、もはや『海外事情本目録』といえるほどの網羅感。
新世界読書放浪 http://neto.blog10.fc2.com/
なおこの方による新書に限定した『新書野郎』というブログもあり、こちらも大変重宝しておりましたが、現在は動きが止まっています。
新書野郎 http://ameblo.jp/bisneto/
次に紹介したいのが、ある出版社の編集者の読書メモブログ『ものろぎや・そりてえる』です。専門ジャンルは東洋史ですが、それに留まらず、現代思想から経営学までその豊富な知識と、幅広い教養に圧倒されます。
そしてこのブログの素晴らしい点が、極めて難解な本の要点をコンパクトにサマライズしているところ。運営者である黒羽夏彦さんのご自身の為の備忘録として発足したと見られますが、色んな人文書を読みたいけど時間が無い、めんどくさいといった人には大助かりです。例えば専門家以外に読む人はほぼいないと思われる研究書、立川京一『第二次世界大戦とフランス領インドシナ』も黒羽さんの手にかかると以下の通りに綺麗にまとめられます。よっぽど気になる本でない限り、これで原著を読まなくても済んでしまいます。
http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-af40.html
挙げ句の果てに洋書や中国語の本まで紹介しており、もはや到底一生かかってもこのレベルの読み手に達する事は不可能と思われる、余人に代え難い読書家です。
ものろぎや・そりてえる http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/
私は第二次世界大戦愛好家なのですが、このジャンルは今までにあまりに膨大な量の本が出版されてきており、全てに目を通すのは不可能です。大体、戦記物は戦闘シーンや会話の回顧などで構成された、冗長で散漫過ぎる大著の翻訳本が多いので、一冊読むだけでも数週間かかる事も多々あります。そんな大著の要点だけを、手っ取り早く知りたいと思う戦争本ファンにオススメなのが『独破戦線』です。画像もふんだんに掲載しており、第二次大戦やナチスドイツの本を気軽に読んだ気になれます。
独破戦線 http://ona.blog.so-net.ne.jp/
書評ブログではありませんが、是非人文書ファンの方々に推薦したいのが『郵便学者・内藤陽介のブログ』です。内藤陽介さんは郵便切手から各国事情や国際関係を読み解く作家として有名で、実は弊社、社会評論社からも『切手が語る香港の歴史』という本を出版されています。フランス委任統治領シリアや自由インド仮政府、ヒジャーズ政府等、現代史上、ニッチな怪しさを放つ国に興奮してしまう国際情勢オタク必読の、ほぼ毎日更新されるブログです。
郵便学者・内藤陽介のブログ http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
自分が編集した本の書名をGoogleアラートに登録して、必ずどんな情報でもキャッチできる様にしているのですが、ある日『アルバニアインターナショナル』の書評が飛び込んできて以来、マークしているのが『福岡県弁護士会 弁護士会の読書』ブログです。弁護士の読書ブログなのに極めてハイレベルなヨーロッパ史やアメリカ史、日本史、そしていわゆるノンフィクション関係の書評が掲載されており、その選書のセンスも秀逸です。
福岡県弁護士会 弁護士会の読書 http://www.fben.jp/bookcolumn/
書評ブログではないのですが、前回の新刊情報収集テクニックで入れるべきだった、数々の珍書・奇書を紹介しているブログが『he8の日記』です。全く正体不明で、書いてある内容も意味不明なのですが、連日「こんな本があったんだ!?」と驚くような、極めて珍しいヘンテコリンな本を大量に紹介しています。新刊だけでなく既刊本からも珍妙な本を紹介しているので、珍書が気になる方は是非このブログをチェックしてみて下さい。
例えば『奇跡の呼吸法 国際吹矢道スポーツテキスト』『医療原価計算』『反社会的勢力リスク管理の実務』『とっておきの素敵なチョークアート』『ああ、沖縄の結婚式! 抱腹絶倒エピソード』『病院ではたらく人のマナー接遇 医療従事者必携』『修道院の断食』『目で見る庭のロープワーク』『ごみ収集 理論と実践』『風力発電機製作ガイドブック』『爆発物探知ハンドブック』等々……一瞬「はぁ?」と、「珍書プロデューサー」を名乗るこの私でもたじろいでしまう様な変な本が目白押しです。HONZで紹介される本と傾向が似ているとも言えます。
he8の日記 http://d.hatena.ne.jp/he8/
そして最後に念を押しておきたいのが『成毛眞ブログ』です。何しろ私が編集した『ゴム銃オフィシャルガイドブック』という理工系の趣味本から、『アルバニアインターナショナル』という人文系の共産趣味本まで、文理を越えて変で独特な本を見つけてしまう、日本有数の本の目利き、キュレーターである成毛眞さんが運営されているブログです。人文書や理工書など、それぞれのジャンルに特化した本ブログは数多くはあれど、それらのマニアックで個性的な本を一人の視点から横断的に定点観測したブログは他に見当たりません。実は成毛さんと知り合う前からRSS登録して読んでいました。今これを読んでいる人は、後で過去ログを全部読んでみましょう。
成毛眞ブログ http://d.hatena.ne.jp/founder/
そしてそんな成毛さんがメンバーを厳選して立ち上げた新刊紹介サイトがこの『HONZ』です。私の場合、人文書は漏らすことなく把握していても、サイエンス物には疎く、自分のアンテナに引っかからない事があるので、現時点で既に情報源として役に立っています。
さてこれまで紹介したブログを毎日チェックすれば、読んでいない本について堂々と語る事ができますし、書店フェアで大量の本を選書して、あたかもそれらの本を読んだかの様なポップまで書ける様になってしまいます。是非これらのブログを毎日チェックしてみましょう。