『地球の履歴書』

2015年11月28日 印刷向け表示
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地球の履歴書 (新潮選書)

作者:大河内 直彦
出版社:新潮社
発売日:2015-09-25
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科学と技術の力こそが人類発展の原動力であり、科学的思考は遊び心と挑発的な精神に満ち溢れているべきだ、自由な魂こそが人類の可能性を広げるのである。そのように考える著者の地球史が、とびきり面白いのは頷ける。本書は8章から成るが、科学的な叙述と人間の織り成す悲喜こもごものエピソードが絶妙にブレンドされており、時間の経つのを忘れてしまう。

45億7000万年前に生まれた地球は、無数の小惑星などが次々と衝突したおかげで灼熱地獄と化していた。4000万年後に、テイア(火星なみの惑星)が地球に激突し月が生まれた。徐々に冷えていく過程で、地球は40億年前に、コア・マントル・地殻そして海の4層構造となった(なお、広大に見える海の体積は地球の700分の1程度)。潜水鐘で海の深さにチャレンジした最初の人物はアレキサンダー大王だった。

地球の表面は十数枚のプレートから出来上がっている。ヘスが西太平洋で見出したギヨー(頂上の平たい海山)、ダーウィンが見抜いたサンゴ礁島の一生、松山基範が発見した地磁気の逆転、この3つの観測事実が大陸移動説を唱えたウェゲナーのプレート・テクトニクス理論を完成に導いた。ウェゲナー自身は、しかし、自説の裏付けを目論んでグリーンランドに調査に出かけ還らぬ人となった。

現代は、サイドスキャン・ソナーやシー・ビームにより海底が見える時代となり、海底に潜む巨大火山がいくつも見出された。近年では、1815年のインドネシア、タンボラ火山の噴火で、イタリアでは赤い雪が降り翌年のアメリカは夏のない年となった。「わずか200年を振り返っただけでタンボラ火山のような例があるから、過去数万年などと桁違いに長い時間スケールでみたとき、想像を絶するほどの巨大噴火に出くわすと考えることは決して間違いではない」。恐竜が闊歩した白亜紀(地球史を1年に見立てると12月20日から26日までが白亜紀)は、石灰岩やセメント、石油を人類にもたらしたが、ユカタン半島に落ちた巨大隕石で終焉した。このような冷厳な事実(噴火や隕石)を前にすれば、僕たちは改めて人間の身の丈を思い知らされる。人間の文明を買い被ってはならない。僕たちは地球の履歴書を率直に学び、もっともっと謙虚に生きなければならないのだ。

南極で発見されたオゾンホールや氷床コアが教えてくれた過去の気候変動は、炭鉱のカナリアのごとく人類に警鐘を鳴らしてくれる。「不幸なことに、私たち人類は海岸沿いに暮らすのをことのほか好む生き物だ」。そうであれば、海面変動により、過去の歴史は海中に埋もれることになる。河川水に含まれるわずかな塩が蓄積して海水となったこと、地中海が干上がったこと、有馬温泉の水源が太平洋らしいこと(放射性元素が温めている)など豊富なエピソードが盛られ、興趣は尽きることがない。科学が好きな人、地球の歴史に興味を持つ人には堪えられない1冊だろう。

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。 

世界史の10人

作者:出口 治明
出版社:文藝春秋
発売日:2015-10-31
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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