『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』

2016年4月4日 印刷向け表示
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1493――世界を変えた大陸間の「交換」

作者:チャールズ・C. マン 翻訳:布施 由紀子
出版社:紀伊國屋書店
発売日:2016-02-25
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先コロンブス期のアメリカ大陸の常識を覆して(遅れた社会⇒ヨーロッパ以上の人口や洗練された大都市を持っていた文明社会)、全世界にセンセーションを巻き起こした『1491』の著者・マンが、再び世に問う問題作である。

前作がビフォーの高度なアメリカ文明を描いていたのに対し、『1493』はアフターの混乱する世界が描かれる。コロンブスのアメリカ到達(1492)によって、貴金属、病原菌、動植物、そして人間が大陸間を行き交い始め、世界は「コロンブス交換」によって「均質新生」の到来を迎えた。本書は4部10章にわたってコロンブス交換の凄まじき実相を余すところなく暴露していく。グローバル化はここから本格的にはじまったと著者は述べる。

まず、天然痘やインフルエンザなど新大陸では知られていなかった病原菌が爆発的に流行し(エピデミック)、新大陸の元の人口の4分の3以上を死滅させた。先住民は大規模な焼畑農法を行っていたが(その結果、大量の二酸化炭素が排出された)、死に絶えたために森林が再生して地球は寒冷化し小氷期が到来した。現在、問題視されている地球の温暖化現象と逆のベクトルが働いたのである。

さらに、マラリアや黄熱病が追い打ちをかけ(エンデミック。ある地域に常在)、激減した人口を穴埋めするために病に強いアフリカ人が奴隷貿易によって新大陸に連れて来られた。働き手を失ったアフリカは、暗黒大陸と化した。今日の新大陸の景観は先住民とアフリカ人が創ったものである。なぜなら、1500年から1840年の間にアメリカに渡ったアフリカ人は約1170万人、ヨーロッパ人は340万人と推定されているのだから。ヨーロッパ人はその後から、大挙してやってきたのだ。

新大陸の銀はマニラを拠点として絹や磁器との交換で中国に飲み込まれていく。また、中国の人口は新大陸のトウモロコシやジャガイモ、サツマイモのおかげで急増した。新大陸のタバコは瞬く間に世界に拡がり、ジャガイモはヨーロッパでも農業革命を引き起こして救世主となったが、一旦エピデミックが生じるとアイルランドの飢饉のように悲惨な状況を招いた。また、インカの秘密の肥料であったグアノ(海鳥の糞)の使用により、近代農業のひな型ができあがった。農業は、外部から入手した養分を畑の作物に移す行為となり、この延長線上に、工業的単一栽培や緑の革命(高収量品種の作物、化学肥料、集約的灌漑システムの組み合わせ)が位置付けられる。

そして、新大陸のゴムノキは、鋼鉄、化石燃料と並んで産業革命の主役を演じることになった。ゴムノキの果した役割を詳述してあるのも、本書の大きな特徴の1つだろう。こうした人類の欲望の帰結として、世界は真にグローバル化したのである。

コロンブス交換のおよそ300年前にユーラシアを均質化させたモンゴルについての知見に乏しいことが惜しまれるが、著者は、洪亮吉(マルサスと同じことを5年前に中国で考えた)のような個性的な人物や、マルーン(アフリカ人や先住民の逃亡者の共同体)など興味深いエピソードを巧みに配して800ページを一気に読ませる。

コロンブス交換(大陸間の交易)が世界を創り変えたことを、これほどまでに実感させる書物は稀であろう。ぜひとも一読をおススメしたい。 

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。 

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