主役は参加者!『夏フェス革命』

2018年1月29日 印刷向け表示
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夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

作者:レジー
出版社:発行:blueprint/発売:垣内出版
発売日:2017-12-11
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私はフェスが大好きだ。春夏秋冬、1年中様々なフェスに参加している。フェスに行くために仕事をしているといっても過言ではない。ところでHONZの読者の中で、夏フェスに行ったことがある人というのはどれくらいいるのだろうか?夏フェスはいまや大衆化し、花火や祭りと同様、夏の風物詩となっている感があるので、全くいないということはないだろうが、あまり多くはいない気がする。

そんな夏フェスに行ったことがないという人にこの本はオススメだ。夏フェスの雰囲気や、フェスに行く人の心情が読めばわかるからだ。フェスに参加する人が「フェス前」、「フェス当日」、「フェス後」に、どんな心境で、どんなことをしているのかが書かれている。フェスに行かない人にとっては、フェスに行く人の生態という未知の世界を知ることができる本だ。様々なフェスに参加する自分は、この部分において共感できることがとても多く、自分のことを客観的にみれたので、この部分だけでも十分に楽しかった。しかし、今日はこの部分にはあえて触れないでおく。この本の主題であるフェスビジネスについての話をしたいからだ。

フェスの話の前にまずは音楽業界の状況について語っておこう。「CDが売れない」と言われて久しい。音楽ソフトの売上は1998年の6000億円をピークに、減少の一途をたどり、2016年には有料の音楽配信を含めても売上が3000億円に満たなかった。つまりピーク時の1/2に減少しているのだ。その一方で、「生の音を聴く」市場は非常に元気だ。ライブ・コンサートにおける2016年の市場規模は約3200億円と、音楽ソフトの売上を凌駕しており、音楽業界は「ライブの時代」に突入している。

「ライブの時代」において、フェスは一大産業として定着した感がある。フジロック、サマーソニック、ロック・イン・ジャパン、ライジングサンの4大フェスを筆頭に、いまでは全国各地津々浦々で1年中フェスが開催されている。それゆえに数年前からフェス・バブルという言葉をよく耳にするようになった。フェスビジネスはすでに飽和状態にあり、厳しいのではないか?というようなことが毎年のように叫ばれているのだ。ほんとうにそうなのか?検証するために4大フェスの動員数を見てみよう。

フジロック  【2000年】61000人 →【2017年】125000人
サマソニ   【2000年】68000人 →【2017年】172000人
ロック・イン・ジャパン

       【2000年】60490人 →【2017年】274000人
ライジングサン【2000年】13000人 →【2017年】72000人
4大フェス計  【2000年】202490人 →【2017年】643000人

このように、動員数は3倍以上に膨れ上がっていることがわかる。ロック・イン・ジャパンにいたっては、4倍以上になっている。「フェス・バブル」はいまもはじけていないのだ。フェスの動員者数はいまも増加の一途をたどっている。フェスは成長産業なのである。その要因として、フェスが音楽好きの人達だけのものではなくなったということがあげられる。女性ファッション誌をはじめ、フェスが夏の風物詩としてとりあげられるようになった。フェスを主宰している人も音楽好きではない層を積極的に取り込もうとしているのだ。

またフェスの在り方が少しずつ変容していることもあげられる。フェスが提供する価値が変化しているのだ。はじめは「出演者の豪華さ」がフェスの売りだった。出演者の豪華さが集客を左右する面はいまもあるが、出演者が誰であれ、毎年同じフェスに参加するという人も大勢いる。私の周りを見ても、そういった人が増えている。フェスに行けば会えるという友達も少なくない。フェスを主宰する側もそういった面は認識をしており、出演者を発表する前に割安のチケットを販売するなどして固定客の取り込みに注力している。

またフェスは「出演者以外の環境(衣食住)」にも力を注いでいる。日本で最大の集客を誇り、世界でも有数の規模を誇るようになったロック・イン・ジャパンは、特にその部分に注力をしている。参加者に不便を感じさせないよう、毎年修正を重ね、快適なフェスライフを過ごせるようにしているのだ。またフェス飯と呼ばれる飲食ブースの充実や、インスタ映えするフォトブースの設置など、音楽に詳しくない人が1日いても楽しめるよう配慮をしている。私もフジロックに毎年行く理由の一つに環境面がある。音楽を聴きながら山の中で朝から飲むビールの背徳感と言ったらたまらない。このためだけにフジロックへ行っているといってもいいだろう。

さらに最近は「参加者間のコミュニケーション」がフェスの提供する新たな価値となっている。ライブ終了後に周りにいた人たちで集まって写真撮影をしてSNSでアップするという光景をフェスではよく見かける。またFacebookやLINEを活用し、フェスで出会った人たちでグループを作って会場で集合し一緒に行動する。そして翌年もフェスに行けばその人たちと会えるというような、人との交流もフェスの楽しみの一つになっているのだ。

このようにフェスの主役が出演者から、参加者に変化してきたことで、フェスは誰でも楽しめるイベントになったのである。フェスビジネスが成長を続けている背景には主催者との協奏(共創)があると著者はいう。フェスは自分たちで作り上げるものといった意識を参加者に持たせるような工夫が凝らされているのだ。成長産業であるフェスは今後も増加の一途をたどるだろう。それによる弊害もでてくるかもしれない。しかしこのビジネスモデルはきっと他のビジネスにおいても流用できるものだと思う。特に音楽業界と同じ道をたどっている出版業界においては、この本に書かれているようなことは大いに参考になるのではないだろうか。

君と夏フェス

出版社:GOOD CREATORS RECORDS
発売日:2014-07-02
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なんのことだかわからないと思うが、SHISHAMOの夏フェスソング。甘酸っぱい。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!