春間豪太郎は海外旅行にまったく興味のない青年だった。昼は大学生で、夜は音楽系専門学校を掛け持ちしつつ、バンドでドラムを叩き居酒屋でバイトもしていた。だが親友がフィリピンで行方不明になったと聞き、救出に向かう。親友は無事だったのだが、この旅行が彼の好奇心に火を付けた。
一人旅で野宿をしながら海外をまわっているうちに、“GO”(外国用の通名)の冒険への関心は高まるばかりとなった。最初に練り上げた計画は、なんと「ガイドなしでラクダと一緒に砂漠のオアシス目指して旅行をすること」。サハラ砂漠の単独横断である。アラビア語を習い、ラクダにも乗ってみた。護身術も身に着け、いざエジプトへ。
時はジャーナリストの後藤健二さんがイスラム過激派に殺害された直後のこと。カイロで情報収集するも無理だとしか言われない。その上、エジプト軍が砂漠を封鎖してヘリコプターで巡回していて、外国人が見つかったらすぐに捕まってしまうだろう、という。
何より誤算だったのは、ラクダの扱いは難しく1頭では動かないということだ。それではと、ラクダ飼いの部族ペドウィン族に弟子入りしてみたが体力的に無理だと思い知らされる。
募るばかりの冒険心が向かった次の先は、モロッコでロバに荷車を引かせてキャラバン隊のように旅することだった。
まずは相棒のロバ選び。モロッコの山間部、トドラ渓谷のティズキ村で、暴れん坊でどこでも勃起する絶倫だが、なぜか気の合うオスのロバを買い“モカ”と名付けた。地元の職人たちと荷車を作ってモカに装着する。ルートは都会を避けて山道を通り、モロッコ最北端のタンジェまで。人々の制止を振り切っていよいよ出発となった。
小さな村では歓迎を受け、高い山では寒さに震えながら、一人と一頭の旅は続く。そこに仲間が増えた。子猫のラテだ。いつの間にか荷車の中に住み始めたガリガリの子猫はGOによく懐いた。
続いて仲間に加わったのは雌鶏の“ブラック”と“カプチーノ”。卵かけご飯が食べたいという欲望を抑えきれず村人に譲ってもらったのだ。この二羽は、旅行中たくさんの卵を産みGOだけでなく他の動物の命も助けていく。
荷車が壊れたり、野宿する場所に困ったりしても、誰かが現れて助けてくれた。警察もトラック運転手も親切だ。観光地では休息がてらそこに留まり、小商いも行った。
そんな日々を過ごすうちに、いつの間にか一隊は有名になってしまっていた。あちらこちらで写真に撮られ、SNSで世界中に彼らの姿は拡散されていたのだ。
子猫のモカが何かに襲われ瀕死の重傷を負う。命は何とか取り留めたので、ボディガード役に白と茶色のブチ犬“プレッソ”も仲間になった。仲良くなった村人から全身が黄色い鑑賞用の鳩“ウィンナ”がプレゼントされ、キャラバンはさながらリアル「ブレーメンの音楽隊」だ。
動物たちの命を守りながら、苦しいながらも楽しい旅は千キロを超え、タンジェに到着した。
久しぶりに痛快な冒険譚を読んだ。イマドキの若い者もやるじゃないかと嬉しくなった。読後感も爽やかだ。次の旅はもう始まっているのだろうか。(ミステリマガジン7月号に加筆)