つまらない仕事を減らせ──『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』

冬木 糸一2019年01月25日 印刷向け表示
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NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方
作者:ジェイソン フリード 翻訳:久保 美代子
出版社:早川書房
発売日:2019-01-22
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 『小さなチーム、大きな仕事』の著者(というか会社)による最新作は、たくさん働いたって成果なんか上がらないしやめようぜ、休暇もいっぱいとろうぜ、という一労働者としては至極ありがたい思想を具体的なメソッドに落とし込んだ一冊である。

著者の一人デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンはRuby最大のWebフレームワークであるRuby on Railsの開発者であり、僕もRubyでWebアプリを書く時には開発でお世話になっている。その尊敬の気持ちもあって、彼らの本は読むようにしているのだが、シンプルな原則、思想によって「会社」というものが設計されていて、新刊を読むたびに新たな発見がある。

今回も主張はとてもシンプルだ。たくさん働くのなんて効率が悪い、やめようぜ、というただそれだけの話である。でもそれだけのことが現代社会ではうまくいかない。仕事が積み重なっていることもあるし、価値観の問題のケースもある。『このところ、そういう長時間の労働、過密スケジュールや睡眠不足を名誉の勲章みたいに考える人が増えている。でも、慢性的な疲労は勲章なんかじゃない。クレイジーな状態の象徴だ。』だからこそ、機能的に解決する必要がある。

解決に際して、著者らの会社(もともと37シグナルズという名前だったが、今はBasecampに変更したらしい)が出した結論はシンプルだ。『これを解決する方法は、もっと長く働くことじゃない。つまらない仕事を減らすことだ。生産性を上げるのではなく、無駄をなくすことだ。邪魔が減れば、ずっと抱えていた不安が消え、ストレスを減らすことができる。』なるほど無駄を減らせばいいのね、でもどうやって? というのが本書で語られているおもな内容になっている。

具体的な内容をざっと紹介する

全体の構成としては、はじめにとおわりにの他は、ざっと五章に分かれている。

最初の「大志は抑えて」では、主に精神論というか、物の考え方について。「がんばりすぎるな」とか「世界を変えようと思うな」など、ここではバカらしいほど愚直な考え方が語られていく。「世界を変えようと思うな」ってのはなかなかいい言葉だ。

次は「自分の時間を大切に」。ここでは主に、「個人の時間を守る」ことに重点を置いた仕組みが紹介されている。たとえば、質問について。誰でも自由に質問できる環境だと、質問された側は作業が中断されるから、事前に「この時間は質問していいですよ」というオフィス・アワーを誰もが個別に設定して、みんなその時間にしか質問しないようにするなど、非常に参考になる。

凄いな、と思ったのは「あえて不便にする」という発想。特にIT企業の多くは仕事のスケジュールをGoogleカレンダーなどで管理していると思うが、著者らの会社では個人のカレンダーの日程を共有しないという。だから、あの人と会議をしたいなと思っても相手のスケジュールはわからず、ちょっと暇な時間を教えてくれませんか? と聞く面倒な手順を踏まなければならない。しかし、その面倒さこそがいいのだという。『なんの苦労もなく誰かのカレンダーに予定を書き込めるのなら、人びとの時間が分割されていくのも無理はない。』他人の時間を借りるのだから、その手続は面倒な作業であるべきだということで、言われてみればごもっともな話である。

第三章は「組織文化を育てる」で、採用手法や上司のふるまいについて。たとえば採用については、履歴書など捨て去って、面接では人柄やチームに新たな風を吹き入れてくれるかを判断し、その後賃金を払って1週間ほど実際に仕事をふってみるのだという。彼らの会社は福利厚生が相当しっかりしていて(3年に1回1ヶ月の有給があり、勤続一年以上の社員は特別な有給が与えられ、その時の旅行代などは家族のものも含めてすべて会社から払われるなど)、100人に満たない超少人数運営+フルリモートというそもそもの仕組みがあるからこそそうした採用活動ができるわけではあるが、彼らは「あえて拡大しない」戦略をとったことでそれを可能にしているのだ。

第四章は「プロセスを解体する」具体的な仕事の進め方についての章で、最後の章は「ビジネスに力を入れる」。何を当たり前のことをという感じだけれども、主に販売商品の値上げなどのビジネス的な判断をどのように行ってきたのかについての章になる。これもなかなかおもしろい。たとえば、ソフトウェアを売る時にユーザー単位のビジネスモデルがある。一人あたり5ドルで、100人使うなら500ドルですよみたいな。ただしそれをやると、当然ながら大勢の社員を雇用している大企業がビジネス上無視できなくなる。外せないお得意様になってしまうと、売る側は少なからずその意見を取り入れざるを得ず、開発の自由は失われるだろう。

著者らが偉いのは、そのあえて流れには乗らなかったことだ。彼らが売っている「ベースキャンプ」は一律一月99ドルで、ライセンスを購入する企業の従業員が5人でも500人でもそれ以上にもそれ以下にもならない。だから、特定の顧客に依存することはない。この割り切りができるのは(当然、大口顧客からはお金をたくさんとったほうが利益は上がるから)正直すごい。

ソフトウェアの会社だからできるんじゃないの?

いろいろと大層なことを書いているけれども結局のところソフトウェア会社、それも自社サービスを提供している会社だからできるんでしょ? というのはもっともな疑問というか批判のように思える。実際、彼らは全部自分たちの会社について書いているので、具体例をそのまま活かそうとしたらそれはそうだろうが、他人の時間を大切にするというそもそもの物の考え方の部分や、ビジネス判断の部分など、より抽象化して部分部分応用することは誰にでもできるはず。

何より彼らが凄いのは、そうした思想から導き出された理屈を実行できるように、会社組織全体を柔軟に作り変えているところにあるようにも思う(複数あった自社サービスをベースキャンプに一本化して、会社全体をミニマム化したり)。そう考えると、「いまのままで」できないというのは何の言い訳にもならず、ハードワークにNOを叩きつけるためには、「これができるようにするには組織の何を、どこを変えればいいのか」という方向で考える必要があるのだろう。

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