『地磁気の逆転』地球に刻まれた歴史を読み解く

2019年3月14日 印刷向け表示
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地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか

作者:アランナ・ミッチェル 翻訳:熊谷玲美
出版社:光文社
発売日:2019-02-19
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 NHKの紀行番組「ブラタモリ」が絶好調だという。2月第3週の関東視聴率は13.3%。これを全国に敷衍すると600万世帯以上が視聴していたことになる。スタート当初は歴史の痕跡をメインテーマにしていたが、いまでは岩石や地形の成り立ちなどにもタッチする世界でも稀な地学紀行番組になってしまった。日本は火山と地震の国だ。それだけ視聴者の関心が強いということなのだろう。

もしかすると高齢化の影響もあるかもしれない。人間は子供のころは動物や虫に興味を持ち、年を重ねるにつれ植物へと関心が移り、最後には岩石が愛おしくなるということを聞いたことがある。まるで地球史を遡るように嗜好が変化していくというのだ。

それはともかく『地磁気の逆転』はその岩石に刻み込まれた壮大の地球史と、迫りつつある人類の危機を描いた読み応えのあるサイエンス本だ。前半では磁力の科学史をじっくりと記述し、後半は地磁気反転の謎とその恐るべき影響について警鐘を鳴らしている。

地球が巨大な磁石であることは小学生でも知っているはずだ。北極はS極、南極がN極である。この地磁気は方位を示すだけでなく、太陽から降りそそぐ放射線や有害な紫外線などから地球を守ってくれている。地球は磁気フィールドという巨大で強力な盾を持っているのだ。

その地磁気が過去360万年の間に11回も逆転しているということが近年わかってきた。その逆転現象が始まってから落ち着くまでのあいだ、地球は磁気フィールドを喪失してしまうかもしれないという。被害は甚大である。電力供給やGPS衛星など現代文明を構成してきたライフラインが長期間ストップするかもしれないのだ。

それどころか、放射線や紫外線が地表に降りそそぐため、健康被害も出てくる可能性があるという。ネアンデルタール人は緯度の高いところに住む、白肌系のヒト属だった。4万年前に絶滅したとき、地磁気はラシャンプ地磁気エクスカーションという不安定な常態にあったという。絶滅との関連は証明されてはいないが、場所やタイミングがぴったり合うので恐怖心が増す。

じつはこの160年間、地磁気は一貫して減少しつづけている。さらに北磁極もふらついていて、1100kmも移動しているのだ。これを予兆ととらえるべきか、研究者たちは難題に取り組んでいる。

『チェンジングブルー』は日本人が書いた史上最高のサイエンス本だと思っている。気候変動についてしっかりと学習できる本であり、科学とはなにかを実感できる本でもある。

ブラタモリのファンであれば『三つの石で地球がわかる』は必携かもしれない。かんらん岩、玄武岩、花崗岩を良く知ることで、地球がいかに特別な星であるか理解できるであろう。

※『日経ビジネス』 2019年3月11日号

チェンジング・ブルー――気候変動の謎に迫る (岩波現代文庫)

作者:大河内 直彦
出版社:岩波書店
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