『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ヒップでポップで、最高にかっこいいパンクなかあちゃんにインタビューしてきた!(その1)

東 えりか2019年06月28日 印刷向け表示
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
作者:ブレイディ みかこ
出版社:新潮社
発売日:2019-06-21
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 ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が話題になっている。イギリス在住の保育士でライターであり、前作『子供たちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞を受賞した、いま注目の書き手である。
本書はアイルランド人の夫と自分の間に生まれた息子の目から見た、公立学校の様子や白人と移民との軋轢などが淡々と描かれている。時には日本の未来ではないか、と思う場面が出てきて、多くの人が関心を寄せている。5月に上梓された『女たちのテロル』とともに『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のプロモーションで来日したブレイディみかこさんにインタビューをお願いした。とてもクールでチャーミングな人だった。

―発売3日で大増刷だそうですね。おめでとうございます。編集部から見せていただいた、書店員さんからの熱い反応はすごいですね

ブレイディみかこ(以下、ブレイディ):ありがとうございます。皆さん熱心に読んでくださって嬉しいです。

書店員さんから寄せられた賞賛のコメント

元底辺中学校の生活って?

―この本を読み終わって思ったのは「こんな息子、欲しいなあ」でした。聡明で、ちょっとシャイで、彼の成長や事件を、近所のおばちゃんみたいにハラハラしながら読ませてもらいました。カトリックのいい公立小学校に行っていた彼は、なぜ元・底辺中学校に行くことにしたのだと思いますか?

ブレイディ:私が、最初の説明会で行われた音楽会に惹かれちゃったというのがあるでしょうね。この学校はストリートダンスや演劇などが盛んな学校で、子どもがやりたいことをやらせる環境を作っていたんです。それまで最底辺の学校だったのに、そういう教育方針にしたら成績まで上がってきて、学校の評判もよくなっていました。

いまイギリスは、階級の流動性がまったくなくなって、その階層にいたら子供から大人まで動けないんですね。音楽も芸能界も、スポーツもお金のある家の子じゃないと世に出られない。習い事をするお金がなければ芸能人でさえなれない。

イギリスの公立学校は、自治体から予算が降りたら、その範囲内で教員もリクルートできるし、校長の考え一つで教育方針も変わるんです。校長が変わると、がらっと全部変わる。学校にすごい独立権があるんです。各学校に教員や保護者や地域住民で構成された役員たちの委員会が学校を運営しています。日本みたいに教育委員会が教師の人事を管理するようなことはないので、以前はすごく荒れて、近くを通るのさえ怖かったこの中学に、新しい校長が来て教育方針を変えたら、成績も公立校ランキングも上がったんですね。

その上、先生たちの熱意が全然違ってました。カトリックの学校は、先生と前のほうの一部の生徒だけが一所懸命で、後ろの生徒は雑誌を読んだりスマホを触ったりしていても放置されて捨てられているかんじでしたが、でもこの学校は廊下にも先生がテーブルを出して座っていて、集中しない子や教室の中にいられない子はそこでも勉強を教えているんです。学校がこういう教育にお金を使っているって、理想ですよね。すごいな、と思ったんですね。

私は気に入ったとガンガン家でも話してたんですが、でも私は息子じゃないから、あとで責任を取れと言われるのも嫌だから好きにしていい、と思っていたら、たまたまカトリックの小学校からひとりだけその元底辺中学に行く、という子がいました。理由は親御さんが新しい仕事を始めるから車で送っていけなくなる、ということでした。カトリックの中学は少し遠くて、私も車を運転しないし、バスだとかなり時間がかかる、ということも考えて、息子はその学校に行くことに決めたようです。徒歩でも20分くらいですし。

ー彼は早くからその元底辺中学に馴染んだようだったのですね。

ブレイディ:そう見えたんですよ。彼は何も不満を言わないし、小学校の時から学校が大好きな子で、でも環境は全く違ってレベルは上がっているとはいえ、元底辺校で大規模だし、って、親たちはいろいろな目に会うだろうと心配してたけど、彼は最初から楽しそうに、新しい友達も作って通っているから安心し始めたときのある日、この本のタイトルの言葉を見つけたんですね。そこではじめて「なんかあったんだろうな」と気づきました。

ー息子さんは頭が良くて、ずいぶん老成しているかんじがします。

ブレイディ:いや、親が言うのもなんですが、本当にいい子なんですよ。私の連れ合いがそれをすごく心配してるんですね。いい子過ぎてだめになるんじゃないか、もっとわがままになっていいし、押し出しが利くようになってほしいと言ってますね。あれじゃ、サバイバルできないんじゃないかって。「Too nice!」ってため息ついて。ほら、私も連れ合いも二人ともいい子じゃなかったですからね。ちょっと物足りない気がするのかも。

フリーダ・カーロのTシャツがカッコイイです。

ーでも男子って突然変わりますよね。先日、40年ぶりの同窓会に行ったら、女子はそんなに変わってないのに、男子は容姿も含めてぜんぜん違っていて驚きましたよ。

ブレイディ:私は、彼が変わるとしたら「恋人」だな、って思っています。そういう相手ができたら、影響ですごく変わるんじゃないかなあ。

それはともかく、この元底辺中学にはいろいろなキャラクターの子がいて、親分肌の生徒会長とか、美形だけど人種差別主義者だったりとか、その中で彼が何を考え、どう対処するか、とても興味があります。子供のうちは差別とか区別とかせず、ちょっと変わったやつは「なんか面白そう」って付き合うでしょ。

エンパシーとシンパシー

ー本書で特に印象的なフレーズ、「誰かの靴を履いてみること」ってとてもいい言葉ですね。

ブレイディ:思春期前半、いろいろ未分化な年代に、シンパシーとエンパシーの差をリアルに体験し勉強できる環境は素晴らしいと思います。「ライフ・スキル教育」(「シティズンシップ・エデュケーション」のこと)という授業で習ったようで、彼はとても成績がいいんですね。世界中の人にとって、とても大切なことだと思います。

自分で誰かの靴を履いてみること、というのは英語の定型表現であり、他人の立場に立ってみるという意味だ。日本語にすればempathyは「共感」「感情移入」または「自己移入」と訳されている言葉だだが、確かに、誰かの靴を履いてみるというのはすこぶる的確な表現だ。(本文P.73)

「EU離脱や、テロリズムの問題や、世界中で起きているいろんな混乱を僕らが乗り越えていくには、自分とは違う立場の人々や、自分と違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事なんだって。つまり他人の靴を履いてみること。これからは『エンパシーの時代だ』って先生がホワイトボードにでっかく書いたから、これは試験に出るなってピンと来た」(本文P.74)

学校にかかる費用と自由な選択

ー金銭的なことでも、驚かされることがたくさんありました。ボランティアで制服の補修して販売しているんですね。学校は制服で通学なんですか。

ブレイディ:イギリスでは入学式はないんですが、初日から制服は着なければなりません。日本と同じように学校指定の洋服屋さんがあって、普通はそこで買うんですね。

値段は日本のように全部揃えて何万円、ってことはないです。いまの時期ならウチの息子が着ているのは、ポロシャツとトレーナーとズボン。トレーナーが13ポンド(2019年6月現在 1ポンド≒140円)だから日本円で2000円くらい、ポロシャツが9ポンド。ズボンや靴は指定のところじゃなくてもOKで、スーパーマーケットで売っている同色の物を買えばいいので、うちの近くのスーパーだと2本で12ポンドとかそれくらい。そんなに高いものではないけど、それでも買えない人がいるので、制服のお直しボランティアが必要なんです。

ー学校にかかる費用はどれくらいなんですか?

ブレイディ:公立なら授業料は一切ないので、必要なのは文房具とその制服、あと学食代だけですね。

ーイギリスの学校には修学旅行はあるんですか?

ブレイディ:ありますけど行きたくないとか、いけない事情があれば、別に行かなくていいんですよ。自由参加なんです。

以前、國分功一郎さんがイギリスに住んでいらしたとき、小学生のお子さんが修学旅行に行くと言っていたのに、学校から何もいわれない。どうなってるかに聞いたら「選択制ですから」っていわれてびっくりした、とおっしゃってました。貧しいって理由だけじゃなくて、行きたくない子もいるでしょ?行くか行かないかは子どもの権利ですよね。強制できることじゃない。

ー頭ではわかっているつもりですけど、子供の権利のこと、私はそこまで考えてなかった、というのが正直なところです。私も洗脳されてしまっているのでしょうか?

ブレイディ:日本は、全体主義というか、変に社会主義的で、横並び一線がおかしいとみんな思わなくなっていますよね。イギリスにいると痛感します。(続く)

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花の命はノー・フューチャー: DELUXE EDITION (ちくま文庫)
作者:ブレイディみかこ
出版社:筑摩書房
発売日:2017-06-06
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 ブレイディみかこさんのデビュー作。イギリスのぶっ壊れた街での暮らしを軽やかに描いていく。この一冊ですっかり好きになってしまった。

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