『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』世界の裏社会から見えてくる、犯罪者の思考と人間の深い業

鰐部 祥平2019年08月31日 印刷向け表示
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世界の危険思想 悪いやつらの頭の中 (光文社新書)
作者:丸山 ゴンザレス
出版社:光文社
発売日:2019-05-21
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TBS系テレビ番組「クレイジージャーニー」に出演しているジャーナリスト、丸山ゴンザレスの著書だ。番組をご覧になった方ならばご存じかもしれないが、著者はさまざまな国の裏社会を取材してきた人物だ。  

本書は著者が取材した殺し屋や売春婦、ドラッグディーラーやジャンキーなどといった裏社会に生きる人々が、何を考えて犯罪という道を選び、行動するのかを考察した1冊である。著者自身が言及しているように、「思想」といっても体系だったイデオロギーのようなものではなく、犯罪者の思考を読み解くことに重点が置かれている。

本書は第1章から強烈だ。取材対象はジャマイカの首都にあるスラムに暮らす「現役の殺し屋」だ。現れたのは貧相な体格に暗く沈んだ目をした青年。取材を続けている最中に殺し屋の携帯電話が鳴る。相手はクライアント。なんと用件は殺しの依頼だ。しかも動機が「自分を振った女を殺してほしい」という、それだけだ。著者は衝撃を受ける。そんな理由で女を殺す? 戸惑う著者に殺し屋の青年は言う。「仕事だからな。俺の気持ちは関係ない」と。

このやり取りから著者は殺し屋本人よりも「依頼者」に恐怖心を持ち関心が向く。

どんなに恨みを持っても、自分が手を汚す場合、準備期間や計画を立てる段階で次第に冷静さを取り戻し殺意が急速に冷める。とくに短時間で抱いた怒りは冷めるのも早い。しかし、殺し屋を雇うことのできるコネと金がある者は、恨みのゲージが満タンのまま電話1本で殺しが実行できてしまう。人は状況次第で簡単に殺しのボタンを押すことができてしまうのだ。

ここから著者は命と金について、在留邦人が最も多く殺されている国、フィリピンでの取材経験を元に深く掘り下げていく。詳しくは本書に譲るが、結論から言えば、人の命に値段はつけられるということだ。経済状況、法律、国家権力の強弱、行政機構の腐敗の度合い。それらの微妙なバランスの上で、命の値段は決まってしまう。善悪ではなくそれが現実なのだ。

危険な地域に足を運ぶ者が持つ独特の視点も本書の魅力だろう。例えば、我々はスラムというと裏社会の人間が巣食う危険地帯だと考えがちだが、それは違うと著者は喝破する。スラムに暮らす大多数の人々は、貧しいながらもまっとうに暮らしを立てている。スラムはそういった人々のコミュニティであり、必ずしも裏社会とは同一ではないのだ。

一方、裏社会の話も面白い。例えば、米ロサンゼルス最大のギャング「クリップス」のメンバーは絶対に縄張りの外に出ないという。現地で通訳をしていた著者の知人は「彼らは縄張りの中にいると強いけど、一歩外に出たらものすごく不安そうなんだよ」「だから彼らは、縄張りの外で就職することも進学することも難しいんだ」と語った。縄張りの中の力と引き換えに彼らは人生の選択の幅を狭めているのだ。

ほかにも売春やドラッグがらみで、やりきれないエピソードが続く。人間とはかくも業深き生き物なのだ。そして、裏社会は表社会と地続きの世界であり、この深淵の世界が私たちをいつも凝視していることに気づかされる。

※週刊東洋経済 2019年8月31日号 

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