『人口減少社会のデザイン』「人口減少社会」に直面する日本に残された選択肢とは

堀内 勉2019年12月29日 印刷向け表示
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人口減少社会のデザイン
作者:広井 良典
出版社:東洋経済新報社
発売日:2019-09-20
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厚生労働省は12月24日、2019年の人口動態統計の年間推計を発表し、それが大きなニュースになっている。2019年の日本人の国内出生数は、最少だった2018年の91万8400人を下回り、前年比5.92%減の86万4千人となり、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回った。出生数が死亡数を下回る人口の自然減も51万2千人と初めて50万人を超えて、2017年4月の国立社会保障・人口問題研究所の将来推計に比べると、人口減少ペースは2年も早まっている。

未来予測の中で最も確度が高いのが人口予測であるというのは、未来学者(フューチャリスト)のピーター・ドラッカーが以前から指摘していたことであり、人口の大幅な減少が今さら話題になるというのもおかしな話ではある。これだけ長期にわたる経済停滞が続き、社会がこれだけ若者と女性を痛めつければ、その結果がどうなるかは誰でも分かりそうなものだが、分かっていても変わらないのが日本社会である。

女性が生涯に産む子供の推定人数である「合計特殊出生率」を見ると、バブル崩壊以降、つるべ落としに下がった後、2005年に1.26のボトムをつけてから緩やかに回復し、2015年に1.45まで上がった後は微減が続いており、2018年には1.42まで低下してきている。

政府は2025年までに、子供が欲しい人の希望がかなった場合の「希望出生率」を1.8にすることを目標にしているが、実現できる見込みはほとんどない。人口問題について言えば、日本は既に”point of no return”(帰還不能点)を超えてしまい、もはや人口を回復する現実的な手段は残されていないのである。

「集団で一本の道を登る時代」の昭和、「失われた30年」の平成を経て、いよいよ「人口減少社会」の令和が始まった。日本はこれまで、高度成長期に体験した「拡大・成長」という成功体験幻想を追い続け、全ての問題を先送りにしてきた結果、国家債務拡大、社会福祉費増大、経済格差拡大、社会的孤立化など様々な問題が噴出してきている。こうした中で、令和最大のテーマが「人口減少社会のデザイン」であり、今の日本に求められるのは、将来ビジョンとその選択に関する議論と決断なのである。

資本主義経済や社会システムのありようは国によって大きく異なっており、特にアメリカとヨーロッパでは根本的な相違がある。アメリカは「強い拡大・成長志向+小さな政府」で「低福祉・低負担」であり、ヨーロッパは「環境志向+相対的に大きな政府」で「高福祉・高負担」である。これに対して、日本は何かと言えば、「理念の不在と先送り」である。

戦後の日本は全てにおいてアメリカの影響を強く受けてきたが、特にアベノミクスを掲げる安倍政権はアメリカ志向が強く、「強い拡大・成長志向か、環境志向か」という軸については前者が優位でありながら、社会的な合意もないまま、「経済成長により自ずと社会保障の財源はまかなわれる」という発想でなし崩し的にやってきた結果、「中福祉・低負担」という姿になっている。

つまり、「高福祉・高負担か、低福祉・低負担か」といった選択を行わず、社会保障の給付に見合った負担を回避し、将来世代にそのツケを回してきたのであり、困難な意思決定を先送りして「その場にいない」将来世代に負担を強いるという点で、もっとも無責任な対応だと言える。

本書の著者である広井良典は、元々は厚生省の官僚であり、アカデミックの世界に転じて、現在は京都大学こころの未来研究センターの教授を務めている。公共政策と科学哲学を専門としており、社会保障や環境、医療、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観などをめぐる哲学的考察まで、極めて幅の広い活動を行っている。

そして、現在の日本は持続可能性という点において極めて危機的状況にあるというのが、著者の最大の問題意識である。特に、① 財政あるいは世代間継承における持続可能性、② 格差拡大と人口における持続可能性、③ コミュニティないし「つながり」に関する持続可能性という3つの視点から、「2050年、日本は持続可能か?」という問いを設定した場合、現在のような政策や対応を続けていれば、日本は「持続可能シナリオ」よりも「破局シナリオ」(財政破綻、人口減少加速←出生率低下←若者困窮、格差・貧困拡大、失業率上昇、地方都市空洞化、買物難民拡大、農業空洞などの複合的発生)に至る蓋然性が高いのではないか。こうした問いに答えるべく、京大と日立製作所が共同で立ち上げた「日立京大ラボ」のプロジェクトが導き出した未来シナリオの内容と選択肢をまとめたのが本書である。

このプロジェクトでは、149の重要と考えられる要因を抽出して因果連関モデルを作成し、AI (人工知能)を活用したシミュレーションによって向こう35年間にわたる約2万通りの未来シナリオ予測を行い、6つの代表的シナリオグループにまとめた。その上で、①人口、②財政・社会保障、③都市・地域、④環境・資源という4つの持続可能性に着目して、日本が2050年に向けて持続可能であるための条件を探り、以下の10の論点と提言としてまとめている。

一 将来世代への借金のツケ回しを解消するための消費税増税
二 人生前半の社会保障のための若い世代への支援強化
三 多極集中社会の実現とヨーロッパ型の「歩いて楽しめる」まちづくり
四 都市と農村の持続可能な相互依存を実現する様々な再分配システムの導入
五 企業行動と経営理念の軸足を拡大・成長から持続可能性にシフト
六 生命を軸としたポスト情報化の分散型社会システムの構想
七 「グローバル定常型社会」のフロントランナー日本としての発信
八 環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」モデルの実現
九 福祉思想の再構築と「神仏儒」の伝統に近代的個人を融合した倫理の確立
十 人類史上3度目の定常化時代における新たな地球倫理の創発と深化

ここで明らかにされたのは、都市集中か地方分散かという分岐が、日本の将来にとってもっとも本質的な議論だということである。即ち、「都市集中型シナリオ」では、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大が進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する一方で、政府支出の都市への集中によって政府の財政は持ち直す。これに対して、「地方分散型シナリオ」では、地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大するが、政府の財政悪化あるいはCO2排出量増加など環境悪化の恐れがある。そして、今から8~10年後に両シナリオの分岐が発生し、以降は両者が再び交わることはないというのがシミュレーションの結果である。

つまり、人口や地域の持続可能性、あるいは格差や健康、幸福といった観点からは、地方分散型が望ましいということなのだが、そこで求められているのは、今の日本で行われている議論のように、もっぱら経済の効率化や省エネといった視点で論じられるのとは全く違った、ドイツの地方都市に見られるような、歩いて楽しめる「人間の顔をしたスマートシティ」なのである。

つまり、日本において広く見られる地方都市の空洞化やシャッター通り化、農村の過疎化といった問題は、人口減少それ自体が原因なのではなく、むしろ人がどう住み、どのようなまちや地域を作り、どのような社会システムづくりを進めるのかという、政策選択や社会構想の問題であり、それこそがまさに「人口減少社会のデザイン」なのだというのが著者の主張である。

これまで我々が追い求めてきた「限りない拡大・成長」というベクトルは、地球資源の有限性という物質的な意味でも、幸福という精神的な充足という意味でも、ある種の飽和点ないし限界に達しつつある。レイ・カーツワイルのシンギュラリティ論、人間そのものを改造するポストヒューマン論、あるいはイーロン・マスクの火星移住計画など、テクノロジーの発展によって人間の進化が新たな段階に突入するという議論もされているが、これに対して著者はかなり懐疑的である。

こうした議論は、資本主義的でアメリカ的な価値観の中から出てきたものであり、それで 人間は幸福になるのかという根本的なところで異論があるからだという。そうした「限りない拡大・成長」の追求という方向ではなく、「定常期の文化的創造性」 という、地球や人間の有限性を踏まえた上での新たな豊かさや創造性、あるいは「持続可能な福祉社会」と呼ぶべき方向の実現が追求されるべきなのだという。

シンギュラリティ論などの議論は、一見新たな方向性であるかのように見えて、実は近代社会のパラダイム、つまり個人が利潤を極大化して人間が自然を支配するという世界観をいわば極限まで伸ばしていったものに過ぎないのである。

我々に染みついた「量的に拡大しなければ退屈だ」という考え方は、「モノ中心の経済」の観念にとらわれた旧来の拡大・成長型の発想であり、現在という時代状況における真にラディカル=根底的な思想を考えるなら、むしろ成熟化・定常化する社会の創造性や豊かさや幸福というテーマを、持続可能性という視点とともに考えていく「創造的定常経済」の構想こそが重要だというのが著者の結論である。

日本という国をどうデザインしていくのか、その中で生きる個人としてどのような選択をするのか。本書は、超少子化・超高齢化が急速に進む「人口減少社会」を生きる全ての日本人にとっての必読の書である。

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