超常現象も秘密結社も超古代文明もすべてあります!
創刊40年の歩みを詰め込んだ『ムー ビジュアル&アート集』

首藤 淳哉2020年05月18日 印刷向け表示
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本書を見つけた時、テンションが上がりすぎて鼻血を出しそうになってしまった。営業再開を待ち望んでいた紀伊国屋書店新宿本店の店頭だったことも、興奮に拍車をかけたかもしれない。

本書はあの!月刊『ムー』のビジュアル&アート集である。説明するまでもないが、『ムー』は昨年創刊40周年を迎えた日本屈指のミステリーマガジン。本書では1979年の創刊から2019年12月号までの表紙が一望のもとに並べられ、「ムー文化人」たちの愛情あふれるコメントが紙面を飾っている。なんてナイスな企画なんだ。素晴らしすぎる!

思えば幼稚園児の頃、山奥の小さな町の図書館で、UMA(未確認動物)の本と出会ったのが始まりだった。海か湖かは忘れたが、ボートに乗って上空に向け手を振る男性の写真。ボートの下には黒々とした巨大な生き物の影が!その写真を見た時、電流が走ったようなショックを受けた。「きょ、恐竜!?すっげー!!」以来、この手のものが大好物になった。『ムー』が創刊された時は小学校高学年、まさにどんぴしゃりの世代である。UFOにピラミッド、ムー大陸にモアイ像、ぜーんぶ『ムー』が教えてくれた。この年頃の子どもにとって、『ムー』は未知の世界への扉だったのだ。

映画監督の新海誠氏も『ムー』に魅せられたひとりである。
『君の名は。』や『天気の子』の中に『ムー』が登場することからファンだろうなとは思っていたが、『星を追う子ども』のアイデアが、『ムー』の「地球空洞説」の特集に強く影響されて生まれたというのは、本書のインタビューで初めて知った。「特集のひとつひとつが映画のネタになるくらいの想像力に彩られている」という氏の発言には深く同意する。

あらためて特集タイトルを創刊号からじっくり眺めてみて、わかったことがある。それは、『ムー』は子どもの頃の自分にとってワクチンのようなものだったのではないか、ということだ。たとえば『ムー』でさまざまな陰謀説などに触れたことで、この手の話にはすっかり免疫ができてしまった。いまでもSNSなどで、さももっともらしい顔をした(でも怪しい)説が流れてくるたびに、まず「ほんとかよ」と疑ってしまうのは、『ムー』によって身につけることのできた免疫のおかげであろう。

陰謀説だけではない。世の中の流行り物にも『ムー』のおかげで動じることはない。数年前にあちこちで「シンギュラリティ」が話題になったのをおぼえているだろうか。「AIが人間を超える」といろんな人が大騒ぎしていたが、こちとら「シリコン生命体が人間を超える」という話なんて子どもの頃から知っているぜ、いまさらかよ、とクールに構えていた(本書で調べたら1984年2月号の特集)。

「いいかげんな与太話を扱っている雑誌」などとナメてはいけない。たとえいいかげんな話だろうが、まず慣れることが大切である。逆説的だが、慣れるからこそ、この手の話に振り回されないようになるのだ。まあでも、ことさら効能を謳わなくとも、ただただ「ネタ」として楽しむというスタンスでいいのかもしれない。そんなわけで、大声で言いたい。義経は実はジンギスカンであり、近代科学の父ニュートンは、なんと超古代トート文明の叡智が記された「ヘルメス文書」の研究者だったんだぞー!

本書に登場する関係者の多くが、「答えが出ないテーマ」を扱っていることを『ムー』の魅力として挙げているが、その通りだと思う。妄想力豊かなホラ話にいちいち目くじらをたてるのは野暮というものだろう。とはいえ、先日のアメリカ国防総省の「UFO動画」の発表のように、たまにホラ話とは言えない証拠が世に出てくるのだが……(いかん、どうしても煽りたくなってしまう)。

「雑誌が売れない」と言われて久しいが、『ムー』には売れる雑誌のヒントが詰まっていると思う。本書におさめられたビジュアルを見ていると、紙だからこそ成り立つ表現だと思うし、未知の現象を徹底的に掘り下げる編集スタイルは、オンリーワンの地位を確立している。紙である必然性も、他の追随を許さない企画の独自性も兼ね備えた『ムー』は、まさに雑誌界の超優等生、お手本ではないか。

だが待てよ?だからといって、他の雑誌が『ムー』を真似ればいいのだろうか。それってどうなんだろう。もしあらゆる雑誌が『ムー』化してしまったら……。新聞でいえば、すべての新聞が東スポ化してしまったような世界かも。いやいやいや、それは絶対マズいだろう!『ムー』はやはりひっそりと雑誌界の片隅で生息しているのがお似合いなのかもしれない。

でも、たとえ永遠のマイナーだとしても、『ムー』のような雑誌が、創刊時から変わらぬ姿でいまも成立していることは、案外この社会の健全性を表しているようにも思うのだ。異説や珍説、暴論や異論にも居場所のある社会のほうが、絶対に息をしやすいはずだから。ぼくは『ムー』が存在するこの世界を愛している。

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