高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。英国のSF作家アーサー・C・クラークの言葉である。身の回り、本当に魔法だらけだ。
魔法中の魔法といえば人工知能だろう。色々なタイプの人工知能の基本的な原理と、それらがどのように開発されてきたかについての本が、『スマートマシンはこうして思考する』である。
トップは、米国の国防高等研究計画局が主催した自動運転のコンテストだ。100万ドルの賞金がかかった2004年の第一回レースは砂漠で障害物が少ないコースであったにもかかわらず、約230㎞を走りきれた車はなかった。
1年半後のレースでは完走車が出た。さらに2年後にあったレースの難度ははるかに高く、実際の道路を走るものだった。しかし進歩は驚くほど速く、信号を判断したり渋滞を避けたりと、「認識の抽象化」が可能な「頭脳」とも言えるレベルにまで達していた。
Netflixのデータサイエンスコンテストでも、デッドヒートが繰り広げられた。だが、意外なことに、最後にものをいったのは合従連衡だった。人工知能の進歩に競争は必須だが、ある局面では、協力がそれ以上に重要なのだ。
自動翻訳機がどのように言語を「理解」しているか、深層ニューラルネットワークがどのように物を「見て」いるか、ずっと不思議に思っていたのだが、その謎もこの本で解けた。我々の理解や見方とは相当に異なっている。
おなじみの人工知能アルファ碁が、どのように「考えて」いるのかもわかった。アルファ碁ができるのはしょせん碁だけだし、ちょっと偉そうだが、恐るるに足らず、と言っておきたい。
自動運転もアルファ碁も、もっと複雑な「頭脳」なのかと思っていたが、基本となる戦略はけっこうシンプルだ。その仕掛けを知ってしまった今、もはや魔法などではなくなった。
この本にも出てくる『IBM 奇跡の”ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる』は、米国の人気クイズ番組『ジェパディ!』の王者を破ったワトソンの、わくわくドキドキするような開発ドキュメンタリーだ。
碁やクイズ番組、テレビゲームといったお遊びのための人工知能開発に、いったいどんな意味があるのかと思っていたのだが、それもわかった。そこで開発された方法が、簡単に他のシステムへと応用していけるからだ。
人工知能の研究では、ひとつの開発が全体を一気に加速し、別次元への展開を促すことがある。あっという間に、あるチームの発見が他のチームのシステムに組み込まれる、そのスピード感がたまらない。これこそが人工知能の進歩の驚異的な速さの秘密なのだ。手作業で各論的になりがちな生命科学研究から見るとうらやましすぎる。
最後の一冊は18世紀末のウィーンで大評判を呼んだ『謎のチェス指し人形「ターク」』の本。いったいどんな仕掛けだったと思われますか?
日経ビジネス6月1日号から転載
クイズ王に勝つ。不可能といわれたプロジェクトを成し遂げた1500日。読み応えあります。
はたしてタークはどのように考えていたのか?村上浩のHONZレビューはこちら。