『首都直下地震と南海トラフ』1000年に一度の「動く大地の時代」の日本列島

2021年2月12日 印刷向け表示
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首都直下地震と南海トラフ (MdN新書)

作者:鎌田 浩毅
出版社:エムディエヌコーポレーション
発売日:2021-02-04
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本書は、今年度で京都大学を定年退官するHONZレビュアーの鎌田浩毅教授の最新刊であり、退官記念論文とも言える力作である。これは全ての日本在住者に等しく関わるものなので、是非、手に取って熟読して頂きたい。

本書のポイントは、1000年に一度という2011年の東日本大震災をターニングポイントとして、日本列島全体が地震の活動期、地球科学的に見た「動く大地の時代」に入ったということである。これが全ての議論のスタートである。

近い将来、我々が経験する自然災害は極めて巨大なものになる。我々は、東日本大震災の「余震」、「誘発地震(直下型地震)」、「三連動地震(南海トラフ地震)」、活火山の「噴火」という4つを、これからの人生のスケジュールに入れて考えなければならないのである。

地球は10数枚のプレートで覆われており、陸地や海はその上に乗っている。地球科学で聞かれる「プレ-トテクトニクス」というのは、このプレートが独立して運動することで、様々な地質現象が起こるという理論である。これは、1912年にドイツのアルフレート・ヴェーゲナーが提唱した大陸移動説をきっかけとする、比較的新しい理論である。

日本はこの10数枚のプレートの内、①北米プレート、②ユーラシアプレート、③太平洋プレート、④フィリピン海プレート、という4つのプレートの上に乗っており、宿命的に地震の多発地帯なのである。

[余震]

2011年3月11日、東北沖を震源とする東日本大震災は、太平洋プレートと北米プレートの境界にあたる海溝で起きた「海溝型地震」である。日本の観測史上最大規模というだけでなく、過去1000年に一回起きるかどうかという巨大地震だった。マグニチュード(M)は9.0であり、大地震の後に近接地域で多数発生する「余震」ですら、M7という巨大さである。2004年12月に起きたM9.1のスマトラ島沖地震の3か月後、スマトラ島の近くでM8.6の巨大地震が起きた。本震の震源域内でも余震は頻発したが、南方への余震の拡大は7年後まで続き、2010年10月にはM7.7、2012年1月にはM7.3の大地震を引き起こした。同様に、東日本大震災以降10年位は、今回と同じ震源域で、最大M8クラスの巨大余震が起きると考えられている。

[誘発地震]

「誘発地震」とは直下型地震のことで、これは陸の地下で起きるM7クラスの地震である。日本列島には「活断層」が2000本以上もある。首都圏も東北地方と同じ北米プレート上にあるため、ここでM7クラスの直下型地震が突然発生するかも知れない。

国の中央防災会議は、首都圏でM7.3の直下型地震が起こった場合の被害を予測しており、最悪のケースでは、犠牲者は2万3000人(内、火災により1万6000人)、全壊・焼失建物は61万棟、経済被害は95兆円にも上ると試算されている。

しかし、直下型地震がいつ起きるのかの予測はほとんど不可能である。というのは、地震を起こす周期は数千年という長いスパンであり、その誤差は数十年から数百年にも及ぶからである。

[三連動地震(南海トラフ地震)]

そして、近い将来必ず起きる巨大地震が、約300年に一度の「三連動地震」である。これは、「東海=静岡沖」「東南海=名古屋沖」「南海=紀伊半島沖」で起きる巨大地震で、2040年頃までには必ずやって来る。東日本大震災は太平洋プレートの沈み込みで起きたのに対して、東海・東南海・南海地震の三連動はフィリピン海プレートによって発生するもので、両者は全く別の時間軸で動いている。

この三連動型地震の規模はM9.1と予測されており、震源域が極めて広いことから、首都圏から九州までの広域に甚大な被害を与え、その経済的被害は東日本大震災の被害総額(約20兆円)の10倍以上 の220兆円を超えると試算されている。

更に、最近の研究で、南海地震の震源域の西に位置する日向灘(宮崎県沖)が連動していることが明らかになり、三連動地震にもう一つ加わる「四連動地震」となる可能性があるのである。この場合には、震源域の全長は700キロメートルに達し、これまでの想定のM8.7を超える、M9台の「超」巨大地震となる。

これらが30年以内に発生する確率は、M8.0の東海地震が88パーセント、M8.1の東南海地震が70パーセント、M8.4の南海地震が60パーセントという高い数値になっている。しかも、その数字は毎年更新され、少しずつ上昇しているのである。

南海トラフ沿いの巨大地震は、90~150年間おきに起きるという、やや不規則ではあるが周期性があり、3回に1回は超弩級の地震が発生している。その例として、1707年の宝永地震と1361年の正平地震が知られており、これから南海トラフ沿いで必ず起きる次回の巨大地震は、この3回に1回の番に当たる。即ち、東海・東南海・南海の3つが同時発生する「連動型地震」である。

この三つの地震は、比較的短い間に連続することも分かっている。その順番は、名古屋沖の東南海地震→静岡沖の東海地震→四国沖の南海地震で、過去を見ると、前回は1944年の昭和東南海地震の後、昭和南海地震が2年の時間差で1946年に発生した。こうして複数のデータを用いて求められた次の発生時期は2030年代と予測され、どんなに遅くとも2050年までには次の巨大地震が来るだろうと考えられている。

[噴火]

更に、東日本大震災の後、数十年位の内に、日本に111個ある活火山が噴火する可能性がある。そもそも火山学的には、富士山は100パーセント噴火すると考えられているのである。前回の噴火は300年前の江戸時代で、太平洋の海域で二つの巨大地震が発生した後だった。まず、1703年に元禄関東地震(M8.2)が起きたが、その35日後に富士山が鳴動を始めた。更に、4年後の1707年には、宝永地震(M8.6)が発生した。同年に起きた宝永大噴火は、富士山の噴火としては最も新しいものであり、記録が残されている10回の中でも最大のものとされている。

富士山が噴火した場合の災害予測は、内閣府から発表されている。もし江戸時代のような噴火が起きれば、首都圏を中心として関東一円に影響が生じ、総額2兆5000億円の被害が発生すると試算されている。

2011年3月15日に富土山の直下で地震が起きたが、他にも活火山の下で地震が起きた場所が20か所ほどある。例えば、神奈川・静岡県境にある箱根山では、3月11日の直後から小規模の地震が増え、この他にも、関東・中部地方の日光 白根山、乗鞍岳、焼岳、富士山、伊豆諸島の伊豆大島、新島、神津島、九州の鶴見岳・伽藍岳、阿蘇山、九重山、南西諸島の中之島、諏訪之瀬島などの活火山で地震が増えた。

以上が、地球科学的に見た地震の整理である。このように、我々は日本列島という「火の山」の上に住んでいるし、これからもその事実は変わらないのである。

それでは、我々はこれからどう生きていけば良いのだろうか。この点について、鎌田教授は次のように言う。我々の今の経済は、石油やウランといった化石燃料に代表されるように、モノを抱え込む「ストック」型の経済である。地球資源を食いつぶす資本主義という経済体制を温存し、次から次へと商品を買い続けることによって成り立つ、過度な「フロー」に振り回されてきた。しかし、大量消費経済を高速で回転させることは、もはや限界に来ている。求められるのは、欲望を肥大化させて無駄な消費を促すのではなく、地球環境にとっても人間の体にとっても適切な、「地球科学的フロー」なのである。

具体的には、電気を大量に使う冷暖房やエネルギーを大量に使った食べ物という「文化装置」を少しずつ減らし、エネルギーをそれほど使わないフロー型の生活に戻そうと呼びかけている。そして、この実現可能なフローのレベルとして、少なくとも、40年前位のまだ自然と触れる機会の多い生活をしていた1980年代までは戻る必要があるとしている。

必ず来ると分かっている大災害に対して、我々は本当にうまく対処できるだろうか。これだけの巨大地震や噴火が起きれば、自衛隊の助けを求めることも現実的ではなくなる可能性がある。その時に我々は個人としてどう振る舞えば良いのか。そこで鎌田教授が訴えるのは、我々各人が自らの直観や第六感を信じること、そして地球科学についての正しい知識を持つことによって、自らを助けるだけでなく、他人をも助けられる人材になることなのである。

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作者:成毛 眞
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