超高度な ”自由研究” がおもろすぎ! 『カタニア先生は、キモい生きものに夢中!:その不思議な行動・進化の謎をとく』を動画といっしょに楽しもう

2022年9月27日 印刷向け表示
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作者: ケネス・カタニア
出版社: 化学同人
発売日: 2022/8/9
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おもろい研究をする人がいたもんだ。ハナモゲラじゃなくてホシバナモグラ、って書いても、タモリのハナモゲラを知ってる人も今では少なくなってるでしょうなぁ。と、まぁ、それはええとして、カタニア先生の興味は、キモいというよりも、不思議な生物ばかりである。

名前のとおりに星のような鼻を持つホシバナモグラをはじめとして、エサである魚を口の方へと魔法のように誘導するヒゲミズヘビ、大量のミミズを土の中から湧き出させるワームグランティング、超小型Tレックスであるトガリネズミ、何百ボルトもの電気を産み出しながら自身はシビれないデンキウナギ、そして、ゴキブリをゾンビ化させるエメラルドゴキブリバチ。

いやはや、これだけ多岐に亘る生物について、まったく何の役にも立たない研究を鋭く展開させ続けるカタニア先生。興味を持ったら突っ走る。そして、しっかりと論文にまとめて業績を積み上げていく。世界最高の「自由研究家」の称号を与えたい。まずは、全七章からなる本書のうち二章がさかれているカタニア先生のメインテーマ、ハナモゲラじゃなくてホシバナモグラ(しつこい!)の話から。まずはこの写真をご覧いただきたい。

まいったかっ!鼻が星みたいになってるんやぞ。誰が見ても、ホシバナモグラという名前しか思いつかへんやろ。この「星」には22本の触手があり、アイマー器官という触覚受容体からできている。ヒトの手のひらから脳に伸びる触覚神経の線維の数はおよそ17,000本であるのに対して、ヒトの爪くらいの大きさしかないホシバナモグラの「星」から脳に伸びる神経線維の数はなんとそのおよそ6倍、112,000本もあるのだ。いかに精緻な触覚であることがわかる。ちょっと感じすぎとちゃうんか、ホシバナモグラ。

この鼻を使って、瞬時にエサを見分ける、というよりも、触り分けることができる。そして、小さなエサならミリ秒単位で食べることができる。この能力のおかげで、ホシバナモグラは、なんと「世界一食べるのが速い哺乳類」として、ギネス世界記録に認定されている。

触覚が脳内でどのように分布しているかの「脳地図」、「星」の発生過程、超高速採餌、さらには、水中でも臭いがわかる嗅覚など、カタニア先生は赫々たる研究成果を発表し続けてきた。成果の紹介だけでなく、どのようにして着想し、どんな経験をしながら研究を進めてきたかが面白おかしく紹介されていく。壮大な自由研究としか言いようがない。

ホシバナモグラの奇妙なカタチは見たことのある人もおられるだろう。しかし、ヒゲミズヘビなどというヘビの存在を知る人は皆無に近いはずだ。東南アジアに棲むこのヘビは生涯を水中ですごし、魚だけを食べて生きている。泳いでいる魚を見つけると、J字型の姿勢でじっと待ち伏せをする。エサになる魚が絶好の位置にやってくると電光石火のスピードで攻撃する。そのスローモーション映像を見てほしい。

おわかりになられるだろうか。なんと、魚が自分からヘビの口の方へと動いていくのだ。どうしてこのようなことが起きるのか。魚を捕まえようとすると瞬時に逃げるのはご存じだろう。あれは魚の反射的な回避行動なのだが、ヒゲミズヘビは、その反射的回避行動を逆手にとって、まずフェイントをかけて魚を自分の方へ呼び寄せるのである。すごいとは思われないだろうか?魚の反射行動を自分の利益のために利用する。いわば、魚の脳を「ハック」するようにヒゲミズヘビは適応、進化をとげてきたのである。

ホシバナモグラの「星」もそうだが、すさまじく長い年月をかけて成立した適応や進化がいかにものすごいものか。だから、この本の原題は『Great Adaptations: Star-nosed Moles, Electric Eels, and Other Tales of Evolutions Mysteries Solved』、直訳すると『偉大なる適応:ホシバナモグラ、デンキウナギ、そして明らかにされた進化の神秘の物語』なのである。ちなみにヒゲミズヘビの章のタイトルは『スティング:詐欺師たちの美しき欺し』、あのポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの名作映画からとってある。そんな感じなので文章の面白さも抜群だ。また、ここに紹介した以外の動画のQRコードもたくさん載っている。

ワームグランティングなる職業があることもまったく知らなかった。おそらく日本にはない職業だろう。無理に訳すと「ミミズ獲り」とでもいったところだろうか。釣りエサにするミミズを獲るお仕事だ。どうしてそのようなものが生物学と関係あるのかというと、その方法が、ミミズの生態を利用したものであるからだ。これも映像を見てもらいたい。ただし、ミミズが嫌いな人は最後まで見ないほうがいい。

ワームグラウンターのおじさんは、ミミズがたくさんいそうな場所を知っている。そのような場所で鉄の杭を打ち込み、自動車の板バネを使って杭を振動させて音を出す。それを繰り返すうちに、おそらくは振動をいやがって、ミミズが地上に這い出てくる。それを集めるのだ。どこからこんなに「湧いて」くるのか、こわい…。さて、どうしてこんなことが可能なのか。それは読んでのお楽しみ。

最後にもうひとつ、驚きの映像をご紹介しよう。早送りだが、もちろんCGではなくて実写である。しつけたわけではなくて、昆虫の本能を利用したまで。だからFree Will、エメラルドゴキブリバチの「自由意志」の結果なのだ。エメラルドゴキブリバチの生態を熟知していると、こんなことまで可能になるとは。カタニア先生には脱帽である。

この本の面白さは、まず、それぞれの生きものにおける適応と進化の結果がいかに驚異的であるかということにある。しかし、それにも増して面白いのは、カタニア先生が、その驚異の背後にあるメカニズムにサイエンスとしていかに迫っていくかというところだ。研究の醍醐味は、その結果ではなくて、むしろそのプロセスにある。いつもそう思っているのだが、この本を読めば、きっとあなたも同意したくなるはずだ。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!

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