『射精責任』望まない妊娠の全ての原因は男性にある!

2023年7月21日 印刷向け表示
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作者: ガブリエル・ブレア
出版社: 太田出版
発売日: 2023/7/21
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きっかけは以下のツイートから始まる63個からなる一連のスレッドだった。

私は6児の母であり、モルモン教徒です。宗教的なことも含めて、私は中絶についてよく理解しています。これまで男性たちが女性のリプロダクティブ・ライツについて、女性に代わって好き勝手に議論してきたことを聞いていました。私は、男性が実際のところ中絶をなくすことには全く関心がないことを確信しています。…

望まない妊娠による人工中絶を無くすための問題提起をしたこのスレ主が、本書の著者であるガブリエル・ブレアであった。彼女は著名な子育てブログ「DesignMom.com」の創設者として知られている。

本書は「望まない妊娠による中絶と避妊を根本から問い直す28個の提言」が書かれている。どれひとつとっても納得できることばかり。科学的にも経済的にも倫理的にも心理的にも、そして社会的慣行も間違っていない。

まずは目次を見てもらおう。著者の言わんとすることが簡潔に記されてる。

著者の主張はシンプルだ。妊娠中絶の99%が望まない妊娠が原因であり、その望まない妊娠の全ての原因が男性にある…。読み進めると、女性なら今まで憤懣やるかたなく思っていたことが網羅されており、賛同することばかり。反対に男性は身のすくむ思いをするだろう。

当たり前のことだが、妊娠は女性一人でできるものではない。男性とセックスし、射精した精液が卵子と結びつき、女性の子宮に着床することだ。女性が気が付くのは早くて数週間後。生理が不順だったり、避妊が不十分だったことに気が付かなかったりすると、数か月後ということになる。

それが双方にとって望まれない妊娠の場合、初期(12週未満)は吸引器を用いて子宮内容物を吸い出す方法か、子宮内から内容物を用手的に掻き出していく掻把法によって中絶を行う。中期以降は人口流産だ。どの方法も女性の身体を傷つけ、心にも傷を残す。

だが中絶時、男性にはダメージがない。痛みも呵責も(ごく一部はあるかもしれないが)時間的な拘束もない。二人で行った結果だというのに、こと妊娠出産に関わる一連の身体の変化は、女性だけに起こる事なのだ。

望まれ祝福されての出産は、その人によって喜びの多寡の違いはあるにせよ、女性にとって幸いである。わが子を持つ喜びが苦しみを打ち消してくれるだろう。

だが妊娠中絶は肉体的にも精神的にも経済的にも女性のみに苦しみを与える。それなのになぜ、女性側だけが責任をもち苦しまなくてはならないのか。射精したのは男性なのに。この段階で望まない妊娠を防ぐ手段は、男性側にいくらでもあったのに。

本書に掲げた28個の提言のうち、最初の5つは人間の生理的な事実、次の4つは避妊方法の男女の違い、次の5つは世界的に流布され刷り込まれてきたセックスにおける男尊女卑の考え方を説明し、否定していく。

それ以降は男性がいかにその意識を変え、自分たちで性欲と射精を管理して、望まない妊娠を回避すべきか、という事柄を詳細に説明していく。あなたが少しだけ理性的になり我慢してコントロールするだけで、世の中の女性はどれだけ幸せになるか、それはそんなに難しい話ではない。

男性に対して厳しい提言が続くが、私が深く反省したのは、自分が男性優位社会にどれだけ毒されていたのかに気づかされたからだ。

私は大学で動物の人工授精を専攻し、一時はその関係の仕事をしていたにもかかわらず、人間の妊娠に関して射精や精液のコントロールについての現状に疑問を持ったことがなかった。牛や豚や馬については精液を保存し、有効な妊娠をさせるための器具を開発していたのに、だ。

セックスにはふたつの目的がある。ひとつは子どもを作るため。もうひとつは男女の肉体的、精神的な安らぎを得るため。性欲は男女どちらにもあり、快楽もリスクも五分五分でなければならないはずだ。

日本はアメリカに較べて中絶に対する法的な規制はない(正確にはあるが機能していない)。私が少女だった時に較べて、セックスに対する事柄を隠すことも少なくなった。だがそれは、親子に限れば母は娘に、父は息子に、と限定されてはいないだろうか。

私の時代は性教育らしい性教育はほとんどなかったが、現状はどうなのか。本書のように読みやすく、中学生以上なら理解できるテキストは今までなかったのではないか。

まずは親世代が読んでみてほしい。できれば、息子や娘、あるいは生徒の目につく場所にそっと置いておいてほしい。彼らが興味を持ち、手に取って欲しいと思わずにはいられない。

*なお本書版元の太田出版運営「QJWebショップ」限定でオリジナルコンドームを発売している。パッケージデザインは本書装幀を手掛けた水戸部功氏。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!