
吉村 博光
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おばちゃん牧師の激烈な愛@西成 『愛をばらまけ』
2021年01月09日本書は、大阪・西成の小さな教会で、約20人の信徒たちとともに生き抜く女性牧師を描いたノンフィクションである。いや、そんな説明ではミスリードをまねく。教会といっても床が抜けた古い中華料理店の居抜き物件だし、主役は1950年生まれのおばちゃん牧師……more
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これから先も、株式会社は必要か 『株式会社の世界史 「病理」と「戦争」の500年』
2020年12月09日株式会社を、私たちはなにゆえ必要としてきたのか。本書のテーマは、大きく分けて二つある。一つは、株式会社がまさに生まれ出る瞬間の時代を生々しく浮かび上がらせること。もう一つは、近代を牽引してきた株式会社がこれから先も経済発展の原動力として中心的……more
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ボクラの知らない足下の世界 『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』
2020年11月09日本書は、世界中にある「光なき世界」を渉猟し、そこにある闇について畏怖をもって見つめた異色のノンフィクションだ。著者は、ニューヨーク大学パブリックノレッジ研究所客員研究員だ。いくつもの機関から奨学金や補助金などを得ながら、地下研究にいそしんでい……more
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ノーベル賞受賞者90名超。世界を変える名門 『MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業』
2020年10月09日日本ではあまり知られてないが、マサチューセッツ工科大学(MIT)ではSTEM教育だけでなく、人文学や芸術科目にも力が入れられている。なかでも音楽科目の人気は高く、この10年でその比重が増してきているという。本書は、その授業内容を関係者へのイン……more
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崖っぷちボクサー、狂気の挑戦 『一八〇秒の熱量』
2020年09月09日激アツな一冊だった。我を忘れてシャドーボクシングをはじめるくらいに。本書は、36歳のB級ボクサー米澤重隆が日本チャンピオンに挑む日々を、同世代の映像作家がまとめた本だ。心に残るラスト10秒まで、著者と共に沸々と心がたぎっていった。常識的な人生……more
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「医療政策」は政治家だけのもの? 『世界一わかりやすい「医療政策」の教科書』
2020年08月25日国民皆保険が実現されている日本の医療制度は、他国の範となっているように見える。しかし、これからの低成長経済や超高齢化社会、現在の新型コロナウィルス感染拡大などの状況を考えると、これまであまり馴染みがなかった「医療政策」を世界標準に近づける必要……more
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人生は競馬の比喩なのか 『「地方」と「努力」の現代史 ―アイドルホースと戦後日本』
2020年08月09日本書は、ノスタルジアという概念を分析軸として、国民的な人気を集めた三頭の競走馬をめぐる「語り(報道)」を読み解くものである。現役当時の報道だけでなく追悼報道を読み比べることで、類書にはない深みをもった内容となっている。おそらく、競馬ファンなら……more
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これは民主主義崩壊への序曲なのか 『公文書危機』
2020年07月09日昨年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した、毎日新聞の好評連載「公文書クライシス」。本書はその取材班が、取材の手の内を明かしながら、ふたたび公文書の闇を照らし出したレポートである。記者たちは今なお取材を続けており、その追及は凄みを増……more
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「ひらめき」は作れるか 『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』
2020年06月09日子供から「赤ちゃんはどこから産まれるの?」と訊かれたら、どう答えるだろうか。一般的には「コウノトリが運んでくるんだよ」と答えることになっている。本書のテーマである芸術的創造も神聖化されることが多い。しかし本書は、黙ってお母さんのお腹を指さすア……more
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幸せの国へ、巣ごもり旅行 『週末フィンランド』
2020年05月09日「はじめに」を読んで、今すぐ海外旅行はできないが行った気になれるのではないか、いまの気分にシックリくる本なのではないかと思いながら、写真が詰まった本をめくってみた。すると、著者のまっすぐなフィンランド愛が伝わってきた。著者は、2009年から外……more
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巣ごもりして探求の根を伸ばせ 『13歳からのアート思考』
2020年04月09日この本は、20世紀の「真のアーティスト」による6つの作品を、講義形式で順々に解説していく本だ。従来は同じゴールに向かっていたアートが、ある発明を機にダイナミックな変貌を遂げていく姿が手にとるようにわかり、読んでいてワクワクした。目の前に獣道が……more
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枕、本題、オチの奥深さ 『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』
2020年03月09日そろそろ、本題に入りましょう。この本は、一流大学を出て大手企業に就職、その後落語家になった著者が書いた落語の入門書です。この本を読むまで私と落語のつきあいは、時々人に誘われて寄席にいき、その場で笑って「はい、それまでよ」というものでした。外国……more
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皆ひとしく、その時に向かっている 『エンド・オブ・ライフ』
2020年02月09日本書は、在宅終末医療を扱ったノンフィクションである。著者は、『エンジェルフライト』で開高健ノンフィクション賞を受賞し、震災の絶望からの復興を『紙つなげ!』で描いた佐々涼子である。ここにある終末期の人々の生き様を読んで、私の涙腺は何度も崩壊した……more
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脳科学を日常生活にとりいれる、世界的ベストセラー 『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』
2020年01月15日本書は、本国ノルウェーで「彼女こそが脳の脳だ」と評されている、著名な神経科学者が書いた世界的ベストセラー“脳科学本”である。世界21か国で翻訳出版されている。本書がこれほど多くの読者を獲得できたのは、日々の出来事を使って科学を説明しているから……more
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喪失が連鎖する時代の怖さ 『つけびの村』
2019年12月17日本書は、発生当時「平成の八つ墓村」として話題になった、2013年に起きた連続放火殺人事件を追ったルポである。地道な取材によって知り得たものを構成して、順序だてて読み手に示していく。裏の主人公は「噂」だ。さらに取材時に著者の身の回りに起きた出来……more