以前、ある書評欄で定価をページ数で割った、つまり1ページあたりの単価を比較したことがある。ボリュームだけで見たお得感の比較である。そのときに編集者と飲みながら、本当にお得な本はどれかをいう話になった。本書がその答えである。
167ページ大判フルカラーの本だ。当時の料理を再現した写真、食にまつわる古文書や浮世絵などがどのページにも惜しげもなく、ところ狭しと掲載されている。優に上下2冊分の本を作るボリュームがある。
内容も単なる当時の料理の紹介だけではない。調味料の経済学や外食業の変遷、食材の輸送技術などじっくり読ませる、文化史の本としてしっかりとした骨格を持っている。
足りないものがあるとすれば、食器に関する薀蓄であろうか。ともあれ、本書は江戸時代マニアだけでなく、日本版のスローフードを目ざす読者にとっても必読であろう。
あらためて本書を開いたところ「鯛の香物鮓」がじつに美味しそうだ。今夜つくってみることにしよう。