『スタンフォードの自分を変える教室』≒意志力の科学

2012年11月1日 印刷向け表示
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スタンフォードの自分を変える教室

作者:ケリー・マクゴニガル
出版社:大和書房
発売日:2012-10-20
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このレビューの最中はシロクマのことを考えないようにしてください。

そんなことを言われなくても、シロクマのことなんて普段から意識したことないし、考えたことなんてないよ。と、読んでいる人の大半が思っているに違いない。それならなおのこと、シロクマのことを考えないで、この先のレビューを読み進めてください。

この本はスタンフォード大学の人気講座である『意志力の科学』をもとに作られた本である。この本が発売以来飛ぶように売れている。そんなにみんな自分の人生を変えたいと思っているのだろうか?などといいながら、自分も買って、こうしてレビューを書いているのだから、人のことは言えないのだけれども……。

『スタンフォードの自分を変える教室』 というタイトルをみると、ただの自己啓発書のような感じがするが、この本はそうではない。原題は『The Willpower Instinct』直訳すると「意志力の本能」だろうか。この本では「意志」というものを、心理学や神経科学、医学、行動経済学といった様々な見地から分析し、意志力を高める方法を紹介している。

昨今、○○の科学という本がたくさん出ているが、この本も『意志力の科学』というタイトルでもよいくらい「意志」というものをいろんな視点から分析している。それがどれも興味深く、すこぶるおもしろいのだ。

何より文章がこなれている感じでとても読みやすい。そのあたりは同じスタンフォード大学の授業を元にした『20歳のときに知っておきたかったこと』にも通じるところがある。(ということは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』にも通じるところがあるということだ。)

この本は実際にスタンフォード大学でおこなわれている講座と同じように、10週間のプログラムという形で構成されている。実際にひとつずつ試して、実践していくことで、自分の意志をコントロールできるようになる。自己をコントロールすることが、ひいては人生を変えることになるというのがこの本の趣旨である。

人間の意志というものは、いろんな物から影響を受けている。特に環境や、感情、体調といったものが意志の力には大きな影響を与えているのだ。

環境の面では、やる気は感染するという話に加え、肥満が感染するという話が衝撃的だった。ある人の友人が肥満になった場合、その人が将来肥満になるリスクは171%(!)も増加する。肥満に限らず、飲酒量が多い人や憂鬱な人がいると、その周りにいる人にもそういう人が出てくるようになるというのだ。良い習慣も悪い習慣も、人から人へウイルスのように感染することが実験でわかっているのだ。ちなみに勇気も感染する。(伊坂幸太郎『PK』より)

感情面では、イライラしているときや悲しいときは、冷静な判断が下せないことが多い。そういうときには衝動買いをしてしまったり、ダイエット中なのに甘いモノを食べてしまったりすることが増える。これには心拍変動の低下というものが影響しているそうだ。心拍変動が高い人ほど自制心が発揮できるのだという。

では、どうしたら心拍変動を高めることができるのだろう?一番いいのは運動だ。運動をすると心拍変動のベースラインが底上げされる。さらに脳が鍛えられるので、自己コントロールをする生理機能も向上する。まさに一石二鳥である。さらに運動はストレスの緩和にも効果的で、プロザックのような抗鬱剤の代わりとしても効果が高い。またしっかり睡眠を取ることや瞑想、呼吸をゆっくりするというのも心拍変動を高めるのに効果的だ。超訳になるが、意志力を高めるには健康的な生活を送ることが一番なのかもしれない。

最後に、とても素敵なメッセージがあったので、それを引用してレビューを終えたいと思う。

どうぞこれからも科学者のようなものの見方で臨んでください。

新しい方法をどんどん試し、自分自身のデータを集め、

得られた事実をじっくりと観察しましょう。

あっと驚くようなアイデアにもつねに心を開き、

失敗と成功の両方から学んでください。

効果のある方法を継続し、学んだことを他の人たちと分かち合いましょう。

さまざまな人間らしい矛盾を抱え、誘惑にあふれた現代に生きる私たちにとっては、それが自分にできる最善のことです。しかし、好奇心と自分への思いやりを忘れずにそれを行なっていけば、充分すぎるほどの見返りがあるでしょう。

えっ?冒頭のシロクマのくだりはなんだったんだ!って?シロクマのことを考えないでいられたのなら、別に気にしなくてもいい。ただシロクマのことを考えてしまったあなたは、9章の「この章は読まないで」を読むことをおすすめする。そこを読めばこの話の秘密がわかるはずだ。

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

作者:ティナ・シーリグ
出版社:阪急コミュニケーションズ
発売日:2010-03-10
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本文でもとりあげたスタンフォードの人気講義を書籍化したもの。もっと若いときに読んでいれば、人生が変わったかもしれない。そんな思いを読んだときに抱いた。起業家精神やイノベーションといったものを学べる。プレゼントにも最適。

ハーバードの人生を変える授業

作者:タル・ベン・シャハー
出版社:大和書房
発売日:2010-11-18
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こちらはハーバードの人生を変える授業こと『ポジティブ心理学』の講義を書籍化したもの。幸せになるための小さなワークが52個掲載されている。こちらもオススメ。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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