地味だけど不可欠『ロジスティクス入門』

2012年11月14日 印刷向け表示
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ロジスティクス入門 〈第2版〉 (日経文庫)

著者 : 中田 信哉

出版社 : 日本経済新聞出版社; 第2版

発行日 : 2012/10/26

ロジスティクスというのはまだまだ聞き慣れない言葉、なんとなく意味がわかっているという人が大半だろう、私もその一人。仕事で「ロジの確保、よろしく」と言われたのが最初のロジスティクスとの出会い。もちろん意味はわからなかった。

本書はロジスティクスの語源から物流との違い、アメリカや日本での歴史など、本題に入る手前の内容が、かなり充実しており、前半の4割80Pページを割いている。大量生産、大量消費、大量廃棄という言葉は定着しているが、それらの間に隠れている物流は大量流通とも言われず、地味な存在であるから、これぐらいの割合は必要である。

ロジスティクスとは軍事用語の兵站を意味するが、単に物資を補給したり後方での軍事活動を支援するという意味に留まらない。語源はフランス語のLogistiqueで「宿営する」という意味を持つ。ナポレオンの時代に、国を超えて、本国から遠く離れた地域での軍事活動を行うようになり、重要な軍事要素になった。なお、近代軍事における重要な三要素(戦略(ストラテジー)・戦術(タクティクス)・兵站(ロジスティクス))の1つを占める。

ロジスティクスがビジネスの世界に浸透したのは、1950-1960年代のアメリカだ。ビジネスの世界で戦略論が流行し、先端技術や高度な思想が軍からビジネスへと移植された時代だった。一方、日本では、「物流」という言葉が先に一般化しており、新しい概念が普及する足枷となった。普及しはじめた1990年頃、ロジスティクスは物流の英語名だと考える人も多かった。いや、この本を読むまで実は…。

物流は財の物理的な移動に関する機能や活動や構造を示すものであり、ロジスティクスは物流の情報を核として、高度に管理する「マネジメント思想、マネジメント技術」である。

しかし、ロジスティクスに対する戸惑いも、アメリカのロジスティクスの業界団体の歴史を遡ると、納得してしまう。「全米物流管理協議会」→「ロジスティクス協議会」と変遷しているのだ。今は、「サプライチェーン・マネジメント専門協議会(CSCMP)」と更に名前を変えて運営されている。この変化が何を象徴していることは、商品の流れとそれに伴う情報をマネジメントする範囲と目的が拡大しているということになる。

それは、ビジネスのグローバル化が大きく影響しているようだ。昔は教科書で必ず習う加工貿易が中心だったが、海外での生産へと移り変わり、海外での国ごとの調達・生産・販売を行う企業も増えてきた。グローバル企業においては世界中に生産、販売、調達の拠点が設置されている。商品の流れは地球規模になり、情報は莫大に増加し、企業はより戦略性の高い判断と実行が求められる。

わかりやすい事例として、セブンイレブンが推し進めてきた同じエリアに高密度に多数出店するドミナント戦略がある。戦略の意図は知名度アップやイメージづくりもあるが、戦略上もっとも重要視されているのは、効率的かつ効果的な商品供給である。

本書内で注目されているのが、物流加工である。IKEAは物流加工を実践している代表的な企業といえる。完成品を届けるのではなく、簡単に組み立てのできるキットにする。商品の体積を小さくすることで、輸送コストと保管コストが削減でき、更には加工の一部を消費段階に移して、組立コストを抑え、場合によってはつくる作業を楽しめる。話題沸騰中のメイカームーブメントをロジスティクスの視座から見ると、つくるという体験をコストから価値へと転換できる可能性がある。

第二版である本書で追加された章が、災害時のロジスティクスだ。東日本大震災では、ガソリンが不足して、被災地まで荷物を届けられない、物資が不足している避難所と物資が余っている避難所がある、現地の倉庫で食品が裁ききれずに廃棄する、東北の工場が稼働停止することより、被害を受けていない工場に物資が届かないなど、ロジスティクス上の課題が幅広く露呈した。いかにしてリスクに対応するか、災害に備え、検討すべき項目が科学的にまとめられている。

今の暮らしの大半が、高度に発達した流通網なしでは考えられない。HONZでポチる本の裏側にも、科学的に綿密に計算されたAmazonのロジスティクスがある。地味だが、新たな視点が盛りだくさんの素通りできない入門書である。

——–その他関連本———-

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ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル

著者 : 野口 悠紀雄

出版社 : 新潮社

発行日 : 2005/9/21

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MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

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ゴールドラッシュのときに、一山あてにカリフォルニアには世界中から人が集まってきた。しかし、一攫千金を狙った人のほとんどが財をなすことができず、「金を掘らなかった人」が金持ちになった。破れにくい作業パンツ(ジーンズ)を販売したリーバイスや物流や送金サービスを始めたへンリー・ウェルズとウィリアム・ファーゴが財をなした。メイカームーブメントというと、イカしたメーカーや3Dプリンタなどのデジタルツールばかり想像してしまうが、サプライチェーンの進化がムーブメントを下支えしている。新しく誕生したFablab Shibuyaが東急ハンズのそばに創られたのも、興味深い。これから注目の領域!?

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コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

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成毛眞(今のところ)オールタイムベスト10にもランクインしている一冊。コンテナの標準化により、物流のグローバル化という社会システムの変革をもたらした。書評はコチラから。

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