アフリカを「援助」する時代は終わった 『経済大陸アフリカ』

2013年3月8日 印刷向け表示
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経済大陸アフリカ (中公新書)

作者:平野 克己
出版社:中央公論新社
発売日:2013-01-24
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資源、食糧問題、企業の成長戦略、いずれもグローバルの政治経済を語る上での最重要課題である。アフリカは、そうした21世紀の国際政治経済の縮図そのものである。

本書のアプローチは特徴的だ。アフリカを語るのにアフリカ自体から説き起こすのではなく、外から視線を注いでその輪郭を描いていく。読者は現在のグローバルイッシューである資源、食糧問題、国際開発といった多角的な切り口から、思いも寄らないアフリカの一面を知ることが出来る。新書でありながら、重厚で読み応えのある一冊だ。

現在のアフリカ情勢は中国の動向を抜きにしては語れず、中国を見ずしてアフリカの変貌は分からない。いまや中国はアフリカにとって最大の貿易相手国であり、投資においても外交においても極めて大きな影響力を有する国になっている。

単位GDP当たりエネルギー消費量を比較すれば、2008年において中国はアメリカのおよそ3倍、日本の4倍以上のエネルギーを必要としている。世界でもっともエネルギー効率に優れた日本経済が世界第二位の規模を占めていた時代と現在とでは、資源の需給状況が大きく変化してしまった。

いまや人類は20世紀におけるよりもはるかに大量の資源を必要とするようになった。その増分の多くが中国の需要を満たすためだとなれば、中国が自ら資源調達に乗り出すのはきわめて自然な成り行きであった。

現在の中国のアフリカ戦略は1999年にその基本方針が定められた。当時はまだアフリカの経済成長が始まる前であり、とくにサブサハラ・アフリカでは貧困化が進行していた。世界の資源業界が投資攻勢に打って出るのは2003年の資源全面高以降であるから、中国のこの先行ぶりは驚くべきことである。

欧米の中国に対する新植民地主義批判もしばしば聞かれるところだが、「中国がアフリカを搾取している」という物言いには実は無理がある。中国の膨大な資源輸入はアフリカ経済をうるおしその成長を支えている。また、中国が作った道路や発電所はアフリカ人の生活状況を間違いなく改善している。経済成長下で爆発的に拡大しているアフリカの需要はその多くを中国製品によって支えられており、中国政府が繰り返し主張するウィン・ウィン関係が、たしかにアフリカとの間で形成されている。

アフリカの経済発展の背景にはこうした世界的な資源問題がある。投資が外からやってきてアフリカの生産力を底上げし、生産増加によってえられた新たな所得の多くをアフリカ人が消費する。そのための商品の多くはやはり外から入ってくる。

だが自律性に欠けたこの成長構図には危ういものがある。世界の学界が問題にしているのは、アフリカの資源産業への依存度があまりに高いことである。学界の定説は「資源産業がもたらす経済成長はかえって開発を後退させる」というもので「資源の呪い」とも呼ばれている。

国民経済が「プロフィット」 (企業の資本投下による付加価値)ではなく「レント」 (資源産出から得る税収やロイヤリティ)を主要な収入源として運営されるようになると、そこには資本主義経済とは違った原理が働くようになり、資本主義国家とは異なる国家が現われる。そこではレント収入の確保と分配が国家運営の基軸となり、生産指向の希薄な国家主義的で保守的な政治がおこなわれるようになる。開発よりも権力維持のためにレント収入を使うようになるので、消費性向が高い、現状維持的で開発志向に欠けた政府が出来上がるのである。

所得分配の均等度をはかるジニ係数では、世界の上位7番目まではなんとサブサハラ・アフリカの国々によって占められている。世界でもっともジニ係数が高いナミビアはウランやダイヤモンドの産出国で、0.7を超えている。騒動や暴発を誘発する可能性が高い危険地は0.4とされているから、これは通常の社会常識では考えられない数値である。

資源安全保障に関する政治リスクがアフリカをふくめ世界のあちこちに拡散していくこと自体は世界全体にとっての脅威である。アフリカ諸国の開発による社会の安定化は、アフリカ人にとってのみならず、今やアフリカを必要とするようになった世界にとっての課題になっている。

資源調達のみならず、企業戦略の主戦場も途上国へと移りつつある。所得ピラミッドの最底辺とされる年間所得1500ドル以下の階層(Bottom of Pyramid, 略称BOP)。末端消費市場における先進国企業の進出振りは注目に値する。アフリカ市場で昔から大きな存在感を持つユニリーバ、ネスレ、コカコーラなどは高度なビジネスモデルを武器とし、BOPビジネスを主導的に開発してきた企業である。先進国市場の縮小もあいまって、これらのグローバル企業はアフリカ市場を重視するようになってきている。

日本企業の中でも、味の素株式会社はもっともBOPビジネスに習熟した企業のひとつである。一袋5円の「味の素」パックをナイジェリア国内で広く販売する同社のターゲットは「年間所得300ドル以下の農村の主婦」であるという。アフリカ農村での女性の働きぶりは過酷なものだ。朝暗いうちから水汲みに出かけ、自家消費用の穀物栽培や畑仕事の間に子守や家事仕事をこなす。食事の支度には多くの時間を割くことが出来ない。そうした彼女らの「短い時間で少しでもおいしい食事を作りたい」という切なる願いが、味の素への需要を生み出しているのである。

グローバリゼーションが進展する中で企業が収益を伸ばして生き残っていくことは、国の運命を左右する。確固とした理念と強い体力を備えた企業だけがそれを果たせるだろう。パナソニック、YKK、トヨタ自動車などもアフリカに生産拠点を持ち、日本の外で苦しい環境と戦う意識を企業文化として持っている。

資源や食糧をめぐる安全保障問題はグローバル・イシューとして重要さを増し、そのカギを握るのは紛れもなくアフリカである。アフリカ諸国が安定的に経済および農業の発展を遂げ民主化を果たさない限り、世界はいつ資源供給が絶たれ、また食糧需要への対応を迫られるといった危機にさらされるとも知れない。個人・企業・国家として真のグローバル・プレイヤーとなるために「アフリカ」を学ぶことは必須であることを、本書は雄弁に物語っている。

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経済大国インドネシア - 21世紀の成長条件 (中公新書)

作者:佐藤 百合
出版社:中央公論新社
発売日:2011-12-17
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リーマンショック後に国債の格付けが引き上げられ、インドネシアの有望性は世界が注目するところとなった。中国、インドに続く”アジア第三の経済大国”のこれからを展望する。

レアメタル超入門 (幻冬舎新書)

作者:中村 繁夫
出版社:幻冬舎
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一目でわかる! 図解 日本食料マップ

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出版社:ダイヤモンド社
発売日:2012-04-13
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日本の食料安全保障や農業ってホントのところどうなの、という素朴な問いに答える一冊。わが国の食料問題の現状と課題について分かりやすく解説。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
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