学がある人は永井荷風あたりの日記を読むんだろうが、私はこれ。著者は暴力温泉芸者のユニット名で活動するミュージシャンであり、作家で(一応、三島賞作家。芥川賞も候補になったことがあるが選考委員に完全に無視されるという放置プレイを喰らう)、映画評論も手がける。
作業日誌とあるが、音楽や小説の創作活動に対する前向きな姿勢は一切出てこない。ひたすら、聞いたこともないような、よくわからんミュージシャンのCDやレコードを買い込み、映画をみて、酒を飲み、寝て、起きては、またレコードを買いに行く。そんな日々がひたすらつづられている。
日記を読む限り、いつ働いているのかもよくわからないが、実際、金はいつもない。携帯電話どころか家の電気も止められる。それもかなりの頻度で。ライフラインは編集者やら友人。よくおごってもらっており人望はあるんだろうが、大概、毎日の日記の最後には、鬱だとか、もう小説を書きたくないだの、おきまりの泣き言を連発する。
正直、どうしようもない内容なんだが、救いのなさからか、読み続けているとなぜか泣けてくる。作家の高橋源一郎は「一見ただの日記だが最高の読み物」という指摘を確かしていたが、納得だ。著者の小説も読んだことがあるが、私には合わず、10数ページで断念した過去があるが、この日記は400ページ以上あったものの苦もなく読めた。最近は文壇に嫌気がさしたのか、文筆活動がほとんどないのが残念だ。