『なぜ「美少女図鑑」は7日で街から消えるのか』

2011年2月1日 印刷向け表示
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なぜ「美少女図鑑」は7日で街から消えるのか?
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本書を読むまで、「美少女図鑑」を知らなかった自分自身は「東京人」となってしまった疎外感すら味わった。某R社をはじめとし、フリーペーパーの質の悪さや景観を崩すラック配置には常々嫌悪感を抱いていた。どれも東京で成功したモデルを地域に展開していき、圧倒的な営業力で広告枠を埋めていく。どれも、お金とビジネスの匂いしかしない冊子。たくさん印刷するだけ、多くの人の目に触れ、お金が生まれる仕組み。本書の主題だる「美少女図鑑」も、そんな街中にあるフリーペーパーの一つである、が、7日で消えることなどなどそれ以外にも様々な違いがある。そもそもの思想が違うのである。この思想の違いは地方である新潟からスタートしていることが大きく関係している。

起業ストーリーとビジネス話の中間を行く本書、ストーリーも起業→現在というありきたりなものであるが、読みだすと止まらない。行き当たりばったりな道のりがどうしても共感してしまうし、その中で次々と打たれる策は、一度はビジネスをやっていて頭をよぎるものばかり、そして、当然のように失敗していく。そして、笑える。こんなバカな社長、よく聞く!と。この身近な感覚が「美少女図鑑」のカギになっているとまで感じさせてくれる。すでに策略にはまっている自分。

「地方都市による地方都市のための新しいメディア」が「美少女図鑑」のテーマ。「◎◎美少女図鑑」という形で、冒頭に地域名が入る。そして、本書からキーワードを抜き出すならば、「キャパシティ、自尊心、自由なモデル」の3つ。「美少女図鑑」のすばらしいところは、地域の人びとが勝手にキャパシティ・ビルディングされて、メディアに掲載されることでプライドや自尊心を培われる。そして、それが東京以外の46都道府県に広がっているモデル展開のすばらしさ。東京は「クールローカル」に反するため、あえてやっていないというところにも信念を感じる。地域展開のモデルは、失敗に失敗を重ね、その失敗が本当にありきたりだが、おもしろい。結果として、「利己から利他」へ転換し、地域の人々にかなり委ねて運営している。そして、運営者にははじめる当初に「儲からない」とはっきりと言っているのだ。

お金よりも広がりを重要視しているため、表に出てくる経済的インパクトが大きくないのか、巷ではそれほど話題にならない。しかし、「美少女図鑑」の地域への影響力はかなり大きいのだろう。最近、「仕事をやめて、地域活性化したいんだよね」という友人が増えているし、国も政策として推進している。そんな皆さまにぜひともおすすめの一冊でした。

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