超主観カルチャー『チームラボって、何者?』

2014年1月7日 印刷向け表示
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978-4838726318

先日、帰郷した際に美術展「ジパング展」を観てきた。展示内容は、会田誠や山口晃など現代美術作家30名以上が参加した豪華ラインナップであり、500円という入場料金にもかかわらずほぼ貸し切り状態でとても堪能できた。

その中のラインナップに、異色の作品があった。一見すると絵画だが、よく見るとゆっくりと雪が降りつもり、枝には雀がとまってくる。そのフレームの中は動画だった。タイトルは《生命は生命の力で生きている》。作者名にはチームラボとあった。

結局一番印象に残ったのは、ついに展示会にもデジタル作品が投入されてくる時代になったのか、という感覚だった。チームラボは、ウルトラテクノロジスト集団と呼ばれている。デジタルメディアを駆使した作品を通して、平安時代に確立した大和絵や、室町時代に日本で独自の発展を遂げた水墨画などを素材に、21世紀のデジタルアート作品として変換している。(なんと楽しそう)

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=jFTFVBb_K0A[/youtube]

《生命は生命の力で生きている》 2011, アニメーション, 6min 23sec

本書はチームラボ代表・猪子寿之氏と美術史家・山下裕二氏の対談など、様々な視点からチームラボ作品を読み解いていくものだ。ただこのチームラボが作品を制作する上での思考プロセスは本当にユニークだ。

例えば日本人特有の空間認識。日本が鎖国をしていた江戸末期までの日本人は、今とは違った風に世界を捉えていおり、世界は大和絵風に見えていたのではないか?という仮説をたてている。大和絵の構図は、まだ西洋文明が入ってこなかったので、遠近法(パースペクティブ)の影響が無い。雲もあり、富士もあり、人も平面的に混在し描かれてきたのは、当時の人々が本当にそのように世界が見えており、見たままを忠実に描いただけのではないだろうか?これをチームラボは「超主観空間」と名付けている。

この理論によると、大和絵も現代のファミコンも漫画さえも、日本人特有の空間認識から共通して生まれてくるのも腑におちる。日本人の空間認識は、時間軸も同居する。火事で焼けた建物も、以前の綺麗な状態も同居するし、絵によっては月も太陽も同じ絵にあったりする。これらは良いとか悪いとかでなく、ひとつの空間認識のありようにすぎないが、日本の大和絵の空間では、視点を中心に床も含めてまわりが見えていると脳が勝手に合成する。絵を見ている人と同様に、登場人物も同じ「絵の世界」を眺めることができるのだ。

確かに横スクロールは日本のお家芸かもしれない。鳥獣戯画の巻物にしても、TVゲーム「スーパーマリオブラザーズ」にしても横に広がる世界を私達は創造しやすい。マリオは本来第三者視点からのアクションゲームにも関わらず、プレイヤーが世界に入り込み、その世界をマリオと一緒に進んでいる体験ができる。観る人間と絵の中のプレイヤーが乖離されないのだ。

たまたまインタラクティブなコンテンツであるゲームの空間表現と相性が良かっただけなのだろうか?いや、これは先人たちが永年構築していった日本の空間認識を、今の日本人も受け継いでいて、コンピュータで再構築・表現するデジタルで開花したのではないか。と想像はどんどん膨らんでいく。

表紙のモチーフとなった作品は若冲の「鳥獣花木図屏風」だが、これは8万6000個の桝目ひとつひとつを塗ったものだ。それはドット絵のようでもあり、一つ一つを丁寧に塗る動作は写経のような信心をも表しているようだ。チームラボの作品も、3Dモデリング、テクスチャー貼り付け、動画レンダリングなど膨大な作業量が発生する。今は美術という言葉をこえて丹念に制作に打ち込むテクノロジストがいる。

本書を読んでいると、時代を熱狂させる新たな文化こそが、次世代の人々に文化を継承させていくエンジンとなりうるのではないかと感じる。アウトプットされた作品を保全することではなく、こうして時代に合わせ熱狂できる新しい文化を生み続けることが文化を継承することかもしれない。

付録DVDでは、紙面に登場する代表作《Nirvana》、スカイツリー1Fに展示されている《東京スカイツリー壁画(隅田川デジタル絵巻)》、生命観を線のアルゴリズムで表した《憑依する滝》など美麗8作品の映像が楽しめる。

「創造」の好奇心を持つ人にとっては、あまりにも刺激的な内容だ。

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猪子氏はTEDで超主観空間をプレゼンした。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=2szRkXyCxss[/youtube]

チームラボ 作品サイト

http://www.team-lab.net/

978-4396614379

こちらも日本人特有の主観的な画面構成について解りやすく論じている。レビューはこちら

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