【連載】『家めしこそ、最高のごちそうである。』
 レシピ①:鶏もも肉と白菜だけでつくる究極の水炊き、自家製ポン酢とともに

稀代のジャーナリストが語る、家庭料理の極意。「家めし」の美味しさを追求していったら、答えはシンプルなものへと辿り着いた。今日から4回に渡り、レシピ編をお送りいたします。

冬に食べると美味しい「水炊き」は誰でも知ってる、でも意外と難しい料理なんです。

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これを超シンプルで、ほとんど手順のない料理法でつくってみましょう。具材も、鶏肉と白菜だけです。ただ、若干の時間はかかります。とはいっても鍋をとろ火にかけて放置しておくだけなので、手間はかかりません。

まず、できるだけ質の良さそうな地鶏などの鶏もも肉を用意しましょう。シンプルな鍋なので、まずい鶏肉だと臭みが出ちゃいます。奮発して、1枚600円ぐらいはする鶏もも肉を。

値段が高いって? そんなことないですよ。鶏肉って、牛や豚とくらべると、大きな違いが二つあります。

まず第一に、牛肉や豚肉はそのあたりの100円スーパーで買ってきたようなものでもそこそこ食べられますが、安いブロイラー鶏肉は臭くて超まずい。鶏肉は値段に比例して美味しくなります。

第二に、でも地鶏などの高級鶏肉の値段は、銘柄牛などの高級牛肉などとくらべると、めっちゃ安いんです。名古屋コーチンのような特別なものを除けば、普通の地鶏でもだいたい1枚600円から700円程度です。安い牛と高い牛が10倍ぐらいの値段の開きがあるとすれば、安い鶏と高い鶏の値段比はせいぜい3倍ぐらいです。

この二つの違いから導き出される結論はひとつ。「高い牛肉を奮発してたまに食べるよりは、高い鶏肉をリーズナブルな価格で日常的に食べて満足しましょう」ということ。まず地元の精肉店かちゃんとしたスーパーに行って、地鶏を仕入れてきてください。むね肉はあっさりしすぎているので、もも肉のほうがいいと思います。

鶏もも肉を適当に切ります。鍋に水を張って、切った鶏もも肉を投入し、強火にかけます。沸騰したら、蓋をしてとろ火にします。あくが出ますが、取らなくても大丈夫。なんにもしなくて良いです。

そのまま30分ぐらいことことと煮込みましょう。そのあいだは読書するなり音楽を聴くなり、気の早い人はビールでも飲みながらのんびりくつろぎます。

時間が来たら、蓋を開けてみます。ふわっと湯気が立ちこめて、中から金色の澄んだ鶏スープが姿をあらわすはずです。あくが鍋のへりにこびりついてたりしますから、ざるにキッチンペーパーを敷いて土鍋の上にかぶせ、スープを流しこんで漉します。きれいな黄金スープのできあがりです。

ゆで上がっている鶏肉をスープに戻し、ざく切りにした白菜を投入し、土鍋を卓上のコンロにかけます。白菜が煮えたらもうできあがりです。

鶏肉をゆですぎると、ホロホロになって肉がバラバラになっちゃうこともあります。でもそれも一興です。何て言ったってこの鍋は、鶏のスープをたっぷり吸った熱々の白菜を食べるための鍋なんですから。

スープへの味つけはいりません。手もとの取り鉢に自家製ポン酢を入れていただきます。

ポン酢も、手づくりしてしまいましょう。これも超かんたん。 以下の調味料を用意します。「濃口醤油」「みりん」「酢」「白だし」「シークァーサー果汁」

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ポン酢はこれらの調味料を混ぜるだけ。醤油も酢も、できるだけ質の良いものを使おう。

シークァーサー果汁のびん詰めはスーパーにたまに売っていますが、なければレモン汁でもいいですよ。これら5種類の調味料を、すべて同量で混ぜ合わせれば自家製ポン酢になります。ひとりあたり、だいたい大さじ1杯ずつぐらいで見ておくといいでしょう。

スープが残ったら、最後に〆のおじやをつくりましょう。冷やご飯を鍋に入れて煮て、ご飯がふっくらとふくらんできたら、火を止めます。刻んだネギをのせ、溶いた卵を全体にさらりと流し、薄口醤油を軽くかけまわして、蓋をして1分。翌日の朝ごはんにまわしてもいいですね。
 

佐々木俊尚  作家・ジャーナリスト。 1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て、フリージャーナリストとしてIT、メディア分野を中心に執筆している。忙しい日々の活動のかたわら、自宅の食事はすべて自分でつくっている。妻はイラストレーター松尾たいこ。「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)、「『当事者』の時代」(光文社新書)、「キュレーションの時代」(ちくま新書)など著書多数。

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