『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』-編集者の自腹ワンコイン広告

2014年7月19日 印刷向け表示
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宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由

作者:小野 雅裕
出版社:東洋経済新報社
発売日:2014-04-25
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アメリカの宇宙ファンたちの間で、若い日本人による、あるアイデアが、最近ちょっとずつ話題になっています。それが、「彗星ヒッチハイカー」、文字通り彗星の背中にヒッチハイクして太陽系を移動するというアイデアです。魚釣りの糸のように彗星にヒモをひっかけて宇宙船を引っ張ってもらう「タダ乗り」宇宙航行。カーボンナノチューブのヒモを使えば、冥王星まで5、6年で到着可能になるそうです。

本当にこんなことが可能になるかは、「彗星ヒッチハイカー」の発案者にして本書の著者である小野雅裕さん次第。今年度のNASA「NIACフェロー」に選ばれた彼は、これからおよそ1000万円をかけて「彗星ヒッチハイカー」の実現性を探ります。なぜ、小野さん、1982年生まれの普通の日本人が、NASAでこんな近未来的な研究をすることになったのか? それが書かれているのが本書、『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』です。

小野さんをはじめて知ったのは、弊社の「東洋経済オンライン」が2012年にリニューアルして少し経ったころのこと。連載記事の一つに「子をMITに入れたいならば」というタイトルを見つけて、なんとなくクリックしたのを覚えています。私には子どもがいるわけでもなく、MITは名門エリート大学ということくらいしか知りませんでしたが、キャッチーなタイトルから想像したのとは随分違う趣の文章に、ぐいぐいと引き込まれました。

MITの卒業式では、こんな給食当番のようなガウンを着て学位記を受け取るそうです。作中には、このほかにもMIT裏話満載!

小野さんはマサチューセッツ工科大学で航空宇宙工学を専攻して博士号(Ph.D.)を取得した人なのですが、自身の専門分野をこんなふうに見ています。

「宇宙工学とは、あまりにも矮小な世界に閉じ込められた人類の、偉大な宇宙に対する謙虚な反抗なのである。」

……鳥肌がたちました。これはかっこいい!(ちょっと中二病っぽい感じが、また良い!)そして、小学生の頃、ガリ勉の変わり者といじめられた話をひとしきりした後、

「でも今なら胸を張れる。いじめっ子たちは僕よりも運動ができたが、スポーツ選手になった人はいなかった。いじめっ子たちは僕よりも流行の歌やドラマについてよく知っていたが、歌手や俳優になった人はいなかった。僕はいじめっ子たちよりも宇宙についてよく知っていた。そして僕は研究者になり、NASA JPLで宇宙開発をすることになったのだ。」

この文章が、私自身の暗い小学生時代(黒歴史というのでしょうか)、そして、子供の頃からいちばんやりたかった、本に関わる仕事になんとか携われている今と、どこか重なっているようにも感じられて、不覚にも涙ぐんでしまいました。記事を読み終えてすぐに、この人の本を作りたいと思い、時を経ずして実際に会ったその日から、書籍化企画がスタートしました。

オンライン連載を終え小野さんが渡米してからも、時差をものともせずワーワーと、ほとんど喧嘩のような打ち合わせをスカイプの画面越しにしながら、じっくり時間をかけて加筆・修正が進められました(刊行時期は遅れに遅れました)。そうして出来上がった本書の中心になるのは、著者の小野さんが6年半の留学生活を送ったMITでの経験とそこから得た学び、そして、ひたすらに夢を追い続ける生き方です。

約80人ものノーベル賞受賞者を輩出したMITの創造性の源泉、キャンパスを驚きの渦にまきこむハック文化の具体的ケースのほか、「グローバル人材」ブームへの懸念は、特に何度も繰り返されます。たとえばドラッカーが十三歳の頃に教師に投げかけられたという、「あなたは何によって記憶されたいか。いま答えられなくてもいい。でも、五十歳になっても答えられなければ、あなたは人生を無駄にしたことになる」という言葉をひいて、

「僕やあなたが『グローバル人材』であったことによって後世の人に記憶されることは決
してない。もし僕が記憶されるならば(そうなる予定であるが)、それは宇宙工学の分野
に残した業績によってであろう。」と。

もちろん、批判に終始するはずはありません。「グローバル人材」を目指すのでなく、では、実際のところ何を考え、何をすればいいのか? 手を変え品を変え、ものすごい熱量で語ります。アメリカの大学院のリアルとそこでのサバイバル戦略、コネ社会での就職活動やグリーンカード取得までの道のりに、趣味のバックパック旅行先での出会いや読書の意味。

なかでも「読書」についての考え方は、HONZ読者のみなさまにも、うんうんと頷いていただけるのではないかと思っています。理系人間の小野さんですが(…と言うと既にバイアスがかかってしまっていますが)、実は、大の小説好き。そして、理系にこそ「国語力」が必要で、本を読むことで身につけた力は、研究・仕事の上でも必ず役に立ってくる、と力強く主張しています。これは、彼が留学中に直面した困難への対応とも通ずるもので、日米の能力評価基準のあり方の違いに根ざした策でもありました。

余談ですが、多くの本を読んできた小野さんは、本書の章タイトルのサイドに、ゲーテから三島由紀夫まで、印象深い言葉を幅広く引用しています。これって、読書好きにこそ響く言葉なのでは? と思いながら、編集したものでした。

さて、はじめにご紹介したとおり、現在NASAでSFのような研究をしている小野さんですが、本書に綴られた6年半のMIT留学とその後の就職活動での地道な努力が実ってついに夢が叶った!……とは、ご本人も言うとおり、まだ言えません。夢を叶えるための、入り口になる夢(の一部)を叶えてNASAジェット推進研究所の一員となり、スタート地点に立ったばかりの若者です。

小野雅裕青年のこれまでの物語と彼がMITで得た学び、そして現在進行形の物語とNASA JPLで新たに掴みつつある知見。両方を楽しみにしている人間の一人としても、その仲間が増えたら、とても嬉しく思います。まずはぜひ、夏の夜空を眺めながら、『宇宙を目指して海を渡る』をお楽しみください。きっと読むほどに好奇心が刺激され、活力が湧いてくるはずです!
 

山本 舞衣 東洋経済新報社 出版局 書籍編集部。データベース部門を経て、2013年より現職。これまで担当した本に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』『本質直観のすすめ。』『10倍挑戦、5倍失敗、2倍成功!?』など。
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