10月のこれから売る本-山下書店南行徳店 髙橋佐和子
今月、私はほとんど本が読めていません。否、読めていないという表現は適切ではありませんね。何度も同じ本を読み返してしまっているのです。大手時代から今まで一度も読み返すということをしなかった私は、千早茜『男ともだち』文藝春秋を読んでから(一度ご紹介しています)読み返す面白さを知りました。同時に、何年も前に出版された本を読むことで、味わいを覚えました。「何故、あの時読まなかったのだろう」と思える本との出会いもありました。そのような理由から、『新刊』に当てはまる書籍をいつもより読めていない・・・ということです。
その中から選んだ「これは、売りたい!」と思った本をご紹介します。
今月末頃発売される本です。上・下巻となっています。分量に臆する方もいるかもしれませんが、差別や人種の問題、家庭環境による不穏の塊、日々を生きていく中で気付かずに見逃してしまっているモノたちをくっきりと浮き上がらせている物語です。西加奈子さんの作家生活十周年記念作品として発表する本書は、日本人だが、父の仕事の関係で海外赴任先のイランにて生まれた僕が主人公。感受性豊かな姉と、幸せになろうと突き進む母親、そして、家族のためだけに生きた父。「自分を信じるとは何か」を否応なく突きつけられます。
一気読みが出来ず、無理やり向き合わされる感じがあるのに、下巻に入ると少しずつ受け入れられるようになるのです。日本人同士ならば、不和にならぬよう隠すものも、海外に行けば不思議と態度に「格差」を見せる人がいます。私も、気付かぬうちに相手の尊厳を傷つけているかもしれません。それぞれの国の事情を知ること、その中で「自分」の揺るがぬ芯を持つことについて深く考えさせられるものでした。
お客様との会話で、本の未来を感じさせてくれた一言があります。「俺は、重いから大きい本(単行本)買わねぇんだよ。でも、こういう中身がぎっしり詰まってるっていうの?歴史に即しているけどノンフィクションじゃないようなやつだと買っちゃうんだよね。最近の本は、何か軽いよな。な。」その後も色々話して下さいましたが、レジが混んだため帰られました。多分、「中身に重厚感のある本を読みたい」ということなのだと解釈し、この方は、ノンフィクションでもフィクションでも、購入されるのだろうなと思ったのです。因みに本は和田竜『村上海賊の娘』新潮社。上・下巻でした。
一見、かさ張るだけに見える本も、目を向けたその時に「本からのメッセージ」を発信している場合があります。意味のないものなんてないと思います。書店は感覚を磨く場だと思います。自分にとって中身のある本をじっくり探してみてはいかがでしょうか。
三鷹にある書店員さんが、強く押していたコミックを読みました。ホロホロと想いが溢れる作品です。
初単行本とのこと。サクタさんともじくんの青春も青春!な物語。出会いがなければ、人は生きていけない。誰かのために生きようと強く優しくなっていくのだと思います。線が優しく、芯はしっかりある作品。森の木陰でそよそよと語る風のように、キラキラと輝く光のように温かい気持ちになれます。私も、勧められて読みましたが、これは森沢明夫『虹の岬の喫茶店』の横に展開したいと思いました。コミック担当を巻き込もうと思います。ふふふ。
改めて通ってきた道のりを考える切っ掛けをくれたご依頼がありました。
こちらに私が書店員として、今までどのような気持ちで仕事をしてきたかを載せていただいてます。なるべく過去を見ないように避けてきた中で忘れていた部分もありました。しかし、自身で作っていたノートを読み返し、改めて「何をしたいか」を見つめ直そうと思えたのです。七転び八起きの人生をこれからも続けていきたいと思っています。今後もどうぞ、よろしくお願い申し上げます!
【山下書店南行徳店】
〒272-0138
千葉県市川市南行徳1-16-1
TEL 047-314-5898 FAX 047-307-8977
「当店のフリーペーパー『ギフト』隔月刊行予定。地元に愛されるお店を目指す。」