最近、同級生が立て続けに第一子を出産し、「お母さん」になりました。そう、28歳ともなると周りは出産ラッシュ。昨年のちょうど今頃『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』という本のレビューで自らの結婚できなさをネタに、HONZにデビューさせて頂いた私。相変らず結婚の予定も出産の予定もナシ。…無意識に同級生への引け目を感じているのでしょうか。気がついたら、この数週間で「お母さん」をテーマにした本を立て続けに読んでいました。爆笑を誘うものから、思わず涙がこぼれるものまで、個性と愛に溢れたお母さんの世界をお楽しみ下さい!
今、当店で平積み多面展開でプッシュしているこちらの本。表紙には、あの宮部みゆきさんからの警告が!「笑い過ぎに注意/電車のなかで読んではいけません」。日本全国のお母さんが愛する我が子へ送るメールは、彼女達の愛の大きさに、彼女達が携帯、スマホ、LINEなどの最先端テクノロジーを使いこなす技術が到底追いつかず、爆笑必至、腹筋を崩壊させる破壊神となってあなたを襲う。どのメールも全てノンフィクション、実際に送信されたものなのだから恐ろしい。
実例1
件名:相談です
本文:
おにいちゃんが初めて彼女を連れてきました。
かわいくて礼儀正しい子です。
美人局と、詐欺と、宗教の、どれだと思いますか。
実例2
私の母はメールが出来ない。
たった一度だけ頑張って私に送ってきたメール↓
「いまじゃすこてす!れじならんどう!じんこうみつどたかああ」
実例3
件名:ニュース速報
本文:
ビッグニュースをおつたえします
きょう、おかあさんは、新幹線のなかで、テレビによくでてくる俳優さんを見ました
背が高くて、かっこよくて、いけめんさんでした 笑顔であくしゅをしてくれました
とてもかっこよかったです でもおかあさんはあの人の名前を知りません
背が高くて、かっこよくて、いけめんさんです よくドラマにでてます たぶん、30さいか40さいぐらいです あれはだれですか おかあさんは、あの人のふぁんになってしまいましたが、名前がわからなくて せつなくて、せつなくて、たまりません
以上、おかあさんの、おかあさんによる、おかあさんのためのニュース速報でした
実例4
件名:ハツピーバースデイ
本文:
はたちの誕生日おめむとう
20年まえの今日、かわいいあなたが生まれてきてくれた感動のきむちを思い出します
おかあさん!感動のきむち、おめむとう!実例3の俳優さんが一体誰なのかはいまだにわからないらしい。※思わず笑ってしまった方は第一弾『おかんメール』からお読み下さい。
毎回、続きが出るのを楽しみにしている『毎日かあさん』ももう11巻。毎日新聞で日曜日に連載されている、マンガ家の西原理恵子さんによる子育てコミックエッセイだ。酒のアテばかり子供の頃から食べさせる「家庭内居酒屋養成ギプス」の効果について、お雛様を一緒に飾りながら娘に「男を頼らず自立しろ」と自らの人生哲学を叩きこむ話、81歳のおばあちゃんや犬猫たちの面白おかしいエピソードなどなど。
そして私がいつも楽しみにしているのが、単行本でだけ読める書き下ろし短篇マンガ。本編は1ページずつの読み切りで笑いやギャグが中心なのだが、この書き下ろしには作家・西原理恵子の肝である抒情性、胸をしめつけられるような切なさが詰まっている。そしてその切なさをあははと笑い飛ばす明るさに、いつも救われる。
今回の書き下ろし「息子急」は特に、涙なしには読めなかった。ぐーたらもので勉強嫌いだった西原家の長男・雁治君(16歳)が自らアメリカ留学を決意し、猛勉強をスタート。無事(ギリギリで)試験にパスし、西原さんのもとから巣立っていく物語だ。
私は小学生の頃から西原さんの作品を読んでいる。西原さんのハチャメチャな独身時代、戦場カメラマンだった亡き夫・鴨志田さんとの出会い、彼のアルコール依存症との闘い、離婚、死別、など西原一家の歴史をずっと辿ってきているので、「あのカモちゃんの息子さんが、こんなに立派になって…」と泣いてしまった。もちろん、そんな歴史を知らなくても楽しめる。いつのまにか大きくなって自分から去っていってしまう子供の姿をかみしめる母の気持ちが、母になったこともない私にもじわっと伝わってくるから不思議だ。
認知症をわずらう年老いた母の物語を、深い愛とイマジネーションの力で包み込むような作風で60歳を超えた息子がマンガに描いた『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)は、じわじわとロングセラーになり、映画化もされた。当店でも数百冊を売り上げた。
そして今年の夏、ハゲ頭のペコロス(小玉ねぎ)こと著者の岡野雄一さんの母・みつえさんは91歳で亡くなった。この度発売された『ペコロスの母の玉手箱』は、みつえさんへの追悼の思いをこめて描かれた第二作である。
このマンガは、いわゆる闘病記でもなければ、老人介護の具体的な体験談なるものでもない。「認知症」というのはこのマンガの舞台装置に過ぎない。「認知症」によって、母・みつえさんは時空を超えた世界を生きることになった。その世界を、表現者としての才能ある息子が寄りそって見つめている。
近頃、自閉症の人達の内面世界の豊かさが取り上げられているが、認知症の人達の心の世界がなんと豊かで美しいものかをこのマンガは伝えている。みつえさんの心は子供時代から現在を自在に行き来し、死んだはずの夫と一緒に空を飛んで故郷の長崎の町を見下ろすランデブーを楽しんだり、本当にこの世とあの世を超えて存在している。
大切なことは、この本は認知症や介護の現実を美化したりするものではなく、認知症や介護という枠を超えて、人が生き、死ぬとはどういうことか、一人の人間の魂の遍歴というものは(例えそれが無名の一個人の魂であっても)尊いものだということを伝えてくれるということだ。介護、親の老いという厳しい現実に息子さんが真剣に向きあい、母親の内面世界を知ろうと努め続けたからこそ描けた世界が広がっている。
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