本書は、「第二の地球」を探し、宇宙に生命を求める研究の最前線が紹介されている本である。
ほんの20年ほど前には、木星のような大きな惑星ですら太陽系外では発見されていなかった。太陽以外の恒星のまわりを周回する惑星が初めて実際に観測されたのは1995年。ガリレオ・ガリレイによる天体の観測から400年後の2009年には、太陽系の外の惑星が満ち欠けしていることを示すデータが初めて得られた。
- 私たち生命はどこから生まれてきたのか。この地球上で生まれたのか、それとも、宇宙からやってきたのか。
- 太陽系以外の惑星でも生命が育まれているのか。
- この広い宇宙で人類は「ひとりぼっち」なのだろうか。
このような問いに対する「科学的な答え」を人類が手に入れつつあることを、本書で実感することができるだろう。
その観測は、どのくらい難しいだろうか?本書は「もし太陽系を30光年離れた場所から観測したら」という例を挙げて分かりやすく説明する。もし太陽が30光年先にあったら、「太陽の直径」は1800万分の1度に見える。大きさを認識することは不可能だ。
30光年先から太陽と地球は区別できるだろうか?こちらは36000分の1度の判別に相当し、視力600、ハッブル望遠鏡やすばる望遠鏡の高解像度撮影でようやく見分けられるくらいの角度である。
さらに、地球は光っていないので当然暗い。30光年先から見た地球の明るさは約25等級、木星は約23等級となるが、これは肉眼の限界より4000万倍暗い。これに輪をかけるのがコントラストだ。惑星の近くには恒星が存在し、例えば地球の近くには100億倍の明るさの太陽が輝いている。
このような条件下で観測を成し遂げることができたのは、様々なテクノロジーの進歩と、新しい測定方法のおかげだ。今では当たり前に使われるようになったCCD素子や赤外線カメラ、大気のゆらぎを補正する補償光学、明るい恒星の部分のみをマスクする「コロナグラフ」が登場したことにより、恒星の周りの「雲」の撮像が可能になった。本書に書かれた観測の歴史を読むと、多くの研究者の地道な努力によって惑星研究が実を結んでいったことがよくわかる。著者は、最先端の赤外線観測環境を求めてアメリカに渡った。1988年のことだ。
測定方法についても興味深い。最初の系外惑星は「ドップラー法」によって検出された。これは、「救急車が近づいてくる時と離れていく時でサイレンの音程が違う」という「ドップラー効果」を、恒星からの光に適用したものだ。惑星が恒星を周回すると、恒星も惑星にひきずられて行ったり来たりする。
たとえば太陽は、地球の公転に引きずられて毎秒0.1mで移動しているという。この重心移動によって引き起こされる光の周波数の変化が、精密な分光器を用いて確かめられた。最初に見つかった系外惑星は木星の半分の大きさで、太陽にそっくりな恒星のまわりを、太陽と水星の距離の1/8の距離、公転周期4日で回っていたそうだ。世の中には不思議な惑星があるものである。
このドップラー法による発見から5年後、今度は「トランジット法」によって惑星が検出された。これは恒星の表面を惑星が通過する際の微小な輝度の変化を捉える方法で、一昨年話題になった「金星の太陽面通過」のような現象を検出するようなやり方だ。
2009年に打ち上げられたケプラー衛星は、この方法で、なんと3500個もの惑星候補を発見した。また、数のみならず、吸収スペクトルの解析によって惑星の大気の成分や温度を調べることができるようになった。さらに「ドップラー法」と連携で、惑星の密度(内部構造)がわかるようになった。観測法はさらに増えており、重力レンズ効果を用いた「重力マイクロレンズ法」による観測に成功した後、ついに惑星の「直接撮影」に成功し、『タイム』誌の科学的発見のトップ10にもなった。
では、見つかった惑星に生命はあるだろうか?ケプラー衛星が発見した多数の惑星の中に、液体の水が存在する可能性がある「ハビタブルプラネット」は30個程見つかった。ドップラー法でも10個の有力な星が見つかっている。本書に書かれたこれらの星の情報を読んでいると、地球に似ている惑星がどこかで見つかるのを待っているのではないかと思えてくる。どうやったら生命の兆候を見つけられるだろうか?水蒸気や酸素、オゾン、メタン、二酸化炭素などの「バイオ・マーカー」は1つの指標となる。また、葉緑素は赤外領域に特徴的な反射スペクトルを生成するため、植物の存在自体も観測できるかもしれない。地球が過去に全球凍結していたという「スノーボール仮説」があるので、氷の惑星も有望だ。
2012年には、へびつかい座の原始星に「グリコアルデヒド」が存在することが、アルマ望遠鏡によって発見された。近い将来にはアミノ酸が発見されるのではと期待されているそうだ。じつは、太陽系にやってきたヴィルト第2彗星から直接採取された塵には、基本的なアミノ酸「グリシン」が含まれていた。別途、著者らの観測により、「左手型の異性体のアミノ酸」を生み出す「円偏向の光」が星が生成する時期に広く見られることも分かってきた。
どうだろう。地球上の生命は宇宙からやってきたという「パンスペルミア説」を信じたくなる話ではないだろうか?どこかの惑星には生命があるのかもしれない。光の速さで何十年。会いに行ける距離ではないが、夜空を見る時の気分は変わりそうだ。調査はまだこれからだ。「すばる」に続く次世代の望遠鏡TMTプロジェクトなど、日本がこの研究の最先端を走っているのを知ると、自分は全く関係ないが、なんだかうれしくなってくる。コラムなどから垣間見える日本の研究者の日常も、研究が身近に感じられておもしろい。
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