『認知症の真実』著者・東田勉氏インタビュー〝認知症〟は国と医者が作り上げた虚構の病だった! 認知症の「闇」に斬りこんだ介護ライターが見た「希望」とは?

2014年11月27日 印刷向け表示
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世界に前例のない超高齢社会へと突き進む日本で、向精神薬が過剰に用いられ、廃人にされたり死へ追いやられたりするお年寄りが無数に存在するという。そこで用いられる「病名」は認知症。しかし、認知症という名の「病気」は存在しない。そこには、国と医者が作り上げた巨大な虚構があのだという。そのからくりを読み解き、医療過誤というワナに落ちないよう警告を発するのが著者の東田勉氏。注目の著者インタビューを公開。

認知症の「真実」 (講談社現代新書)

作者:東田 勉
出版社:講談社
発売日:2014-11-19
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Q 『認知症の「真実」』を読んでいちばん驚かされたのが、認知症という名の「病気」は存在しないというくだりでした。世の中には、認知症という病気があると思いこんでいる人が多いのではないでしょうか?

東田 認知症とは、認知機能が衰えて社会生活に支障をきたした「状態」を指す言葉です。認知症を引き起こす原因疾患は、70あるとも100あるとも言われています。代表的なアルツハイマー病を筆頭に、四大認知症と呼ばれる4つの疾患が認知症の9割を引き起こすというのが現状では医学の常識とされていますが、具体的にどれが入るかは時代によって変わるのです。多い順番も、時代によって変わります。時代によってと言うより、学者や医者の都合によってと言ったほうがいいかもしれません。たとえば日本では、15年ほど前まで脳血管性認知症がいちばん多いとされていました。それがアルツハイマー型認知症に首位を奪われ、いつの間にか2位に浮上してきたレビー小体型認知症よりも少ないことになったのです。それと同時に、全体の2割近くを占めていたアルツハイマー型と脳血管性の混合型認知症が忽然と消えてしまいました。

『認知症の「真実」』の著者・東田勉氏


Q いったい、15年前に何があったのですか?

東田 1999年11月に、アリセプトという薬が発売されました。これは、日本の製薬会社エーザイが世界で初めて開発したアルツハイマー病の治療薬です。この薬が登場してから、認知症(当時は痴呆)をめぐる動きが活発になりました。そして、厚生労働省が発表する認知症高齢者の数が飛躍的に増え始めたのです。2004年12月には、痴呆を認知症と呼び換えるという決定が厚生労働省から発表されました。2005年からは、認知症を知ろうという政府の大キャンペーンが始まり、今も続いています。 

認知症治療薬を服用しても、認知症は完治することはなく、進行を僅かに遅らせる効果しかない。その一方で認知症治療薬には、知られざる重大な副作用があった。


Q 認知症という呼び方は、10年前から始まったのですね。「呼び名の変更が病気への偏見を解消するのに役立った」という意見を新聞で読んだことがあります。政府のキャンペーンというのは、認知症に関する講習会を受講するとオレンジのリストバンドがもらえて、認知症サポーターになれるというものですね。すでに数百万人の認知症サポーターが誕生したと本書に書いてありました。認知症のお年寄りの尊厳を守るうえで、マイルドな呼び名に変わったりサポーターが増えるのは結構なことだと思うのですが、誤解ですか?

東田 誤解です。認知症という造語は、薬害を発生させる温床になりました。原因疾患を特定しないまま、認知症という病名をつけるだけで薬物療法を開始できるようになったからです。薬は、とりあえずアリセプト(ドネペジル塩酸塩)が使われます。すると、ある専門医の経験では約2割のお年寄りが病的に怒りっぽくなるのです。そこで、鎮静させるために向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入薬など)を併用します。そうすると、取り返しがつかないほど悪化させられるお年寄りが少なくないのです。一方、認知症の講習会というのは1時間半程度の安易なもので、「認知症=脳の病気」という観念を刷りこんでいるに過ぎません。認知症は脳の病気であるという考えは、「早期受診、早期診断、早期治療」を呼びかける厚生労働省の執拗なキャンペーンのおかげで、多くの国民に浸透しました。

Q 何のために、そんなキャンペーンを行うのですか?

東田 薬を売りたいからです。あるいは、身内である医者と製薬会社に儲けさせたいからと言ってもいいでしょう。一方で「認知症は脳の病気なのだから治療が必要だ」と言い、一方で「進行を遅らせる薬がある」と言えば、受診者が増えるのは当たり前です。おかげでアリセプトは、2011年には売上高1位の薬になりました。その裏にあるのは、国民の認知症への恐怖心です。行政とマスコミが認知症への恐怖を煽るので、日本は「ボケる」ことを心配する人だらけの国になりました。「ボケる」のだけは嫌だと思う大勢の人々が、自分では予防法に走り、少しでもおかしいと感じる親や配偶者を受診へと追い立てているのです。

Q 安倍首相は先日、主要国認知症サミットの席上で、国の認知症施策を加速させる新たな国家戦略を策定すると表明しました。

東田 その報道だけを見ると、日本はあたかも海外と歩調を合わせているかのようです。しかし、主要7ヵ国(G7)やオランダ、デンマーク、スウェーデンといった認知症対策の先進国に比べると、日本はまったく逆行しています。認知症で薬害を起こしているのは、日本だけだと言っても過言ではないでしょう。抗精神病薬の多剤大量投与が野放しにされているのは日本だけですし、認知症のお年寄りを精神科病院に入院させることも海外ではめったにありません。イタリアでは1998年に精神科病院を全廃して地域で見守る道を選び、フランスやイタリアでは認知症の人を精神科病院に入院させることが基本的に認められていません。海外の先進国は、薬を使い過ぎないように制限していますし、発展途上国でも薬の使い過ぎはありません。膨大に使っている日本では、抗精神病薬を含む向精神薬がどれだけ使われているかを調べたデータすらないのです。そのうえ、精神科病院の病床が世界でも突出して多いので、認知症のお年寄りを薬漬けにする、あるいは閉じ込める医療がまかり通っています。

「今の日本では、誰もが認知症治療のワナにはまる可能性がある」と警鐘を鳴らす東田氏


Q なるほど。おとなしくさせる薬はいくらでも使える、精神科への入院はいつでもOKとなると、行政が認知症の恐怖を煽るのは危険ですね。

東田 そもそも、入院が認知症をつくってきたとも言えるのです。急性期の病院は必要ですが、ヨーロッパではできるだけ早く自宅に帰して在宅でのリハビリ態勢をつくります。日本では急性期病院のあとに回復期の病院や老健があり、それでも自宅へ戻れないお年寄りが慢性期病院へと移っていって寝たきりになるのです。そうしたお年寄りは、かなりの確率で認知症を合併しています。入院は、できるだけしないほうがいい。薬もできるだけ使わないほうがいい。それが、最大の認知症予防です。

Q 本書では、認知症を引き起こす最大の原因は薬であることを強調していらっしゃいますね。

東田 結果として、そうなるのです。65歳未満で発病する若年認知症は脳の病気と考えてもいいでしょうが、かなり高齢になっている人の認知機能が衰えたからといって、「病気だから治さなければいけない」と薬を使えば、良い結果を生みません。認知症を引き起こす最大のリスクファクターは、長生きなのです。高齢であれば、「認知症になるくらい長生きしたのだ」と喜ばなければなりません。そこがスッポリと抜け落ちた状態で治療へと走るから、事態が悪化します。

Q それだけ、認知症が恐がられているということですね。

東田 「長生きをしたい」という願いと「認知症にはなりたくない」という願いは、本来矛盾しているのです。それなのに多くの日本人は、「認知症にならずに長生きしたい」と考えます。極端になると、「認知症になるくらいなら、長生きしなくてもいい」と言う人もいるほどです。海外の先進国では、認知症を怖がらせないキャンペーンをどの政府も率先して行っているのに、日本の政府は「早期発見、早期絶望」へと向かわせています。

Q 東田さんは、介護ライターを名乗っていらっしゃいますが、医療にも詳しいですね。医療と介護、双方の視点から認知症の問題点を探ったところが、本書の斬新さだと思いますが?

認知症治療の第一人者である河野和彦医師が考案したコウノメソッドを紹介した本格的ガイドブック「新しい認知症ケア医療編」。東田氏が編集、取材、執筆を担当した


東田
 2年前に『完全図解 新しい認知症ケア』という大型本の医療編と介護編を2冊同時に刊行しました。編集協力というかたちでライターをさせていただいたのですが、そのときに勉強させられたことが大きいですね。薬の種類や名称、用法・用量などは、徹底して学びました。特に大切なのは、薬の持つ副作用についての知識ですね。認知症のお年寄りが興奮して暴れると、統合失調症の若者に使うような抗精神病薬が使われます。そのときに、この薬を飲むとどうなるか、医者が作用や副作用について家族や介護者にきちんと説明していないのです。家族もまた、医者の処方を盲目的に受け入れて、副作用が出ても最後まで飲ませようとします。さらに悪いのは、副作用を消してほしいと次回の診察時に医者に訴えると、原因となった薬を替えるのではなく別な薬を足されることです。認知症の治療薬は現在4種類ありますが、3種類は興奮系の薬です。しかも、用量を次第に増やしていく決まりになっています。そこで、必然的に起こる興奮を鎮めるために、鎮静させる薬も増量されるのです。いわば、アクセルとブレーキを同時に踏みこむような治療が、標準治療として行われています。それが70歳代、80歳代、90歳代のお年寄りに行われるのですから、常軌を逸していると警鐘を鳴らしたわけです。

「介護のカリスマ」として介護職から絶大な支持を集めている三好春樹氏が推奨する、薬に頼らない認知症ケアのガイドブック。東田氏は、医療編同様に、編集、取材、執筆を担当した。医療編と介護編を同時に編集したことが勉強になったと東田氏は語る


Q 本書には、無知な医者の投薬を受けて死にかけた親を持つ介護家族が何人も登場します。医療過誤から身を守るために、本書に登場してくださった方々の証言は貴重ですね。

東田 介護者家族会の協力を得て、貴重な証言が多数集まりました。特に、近年増えているレビー小体型認知症のお年寄りは、薬剤過敏性があるので標準治療通りに処方すると大変危険です。薬で抑制されると、歩行も嚥下も悪化して寝たきりになり、誤嚥性肺炎を起こして死んでしまうこともあります。証言の中には「この病気は最近増えてきたと言われるが、実際にはレビー小体型認知症の人は昔からいて、気づかれないまま死んでいったのではないか」という意味の発言があり、取材していてゾッとさせられました。

Q そういった薬害から身を守る方法と同時に、本書では環境の調整と関わり方で認知症のお年寄りを落ち着かせてくれる介護施設や病院の取り組みが紹介されています。「闇」ばかりでなく、「希望」も描かれているところがいいですね。

東田 本書で紹介できたのは、ほんの一部です。実際には、寝たきりであろうが、認知症であろうが、マヒがあろうが、失語症になろうが、落ち着くどころか生き生きとさせてくれる介護現場は全国にたくさんあります。私の介護ライターとしての本業は、そんないい現場を探し出し、取材に行って良くなった事例を集めることです。介護ライターなんてつまらないだろうと思われがちですが、いい現場を探し当てるたびに感動的な話が聞けるので、こんなに面白い仕事はありません。大切なことは、医療と介護の良し悪しを見分ける目を持つことです。それさえあれば、自分が老いてもどのような助けを求めればよいかがわかるので、決して不幸にはなりません。本書を読んで、そのコツをつかんでいただきたいと思います。
 

東田勉(ひがしだ つとむ)1952年鹿児島県生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務後、フリーライターとなる。2005年7月から2007年9月まで介護雑誌『ほっとくる』の編集を担当。同誌休刊後、フリーの編集者兼ライターとして医療、福祉、介護分野の取材や執筆を行う。著書に『完全図解 介護のしくみ 改訂新版』(三好春樹氏との共著)、『それゆけ!おやじヘルパーズ』(以上、講談社)がある。 
認知症の「真実」 (講談社現代新書)

作者:東田 勉
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