『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』著者インタビュー
まだ見ぬ「峠 恵子」を求めて
冒険以前も冒険の連続!
内藤:まず、冒険に出る前のことからお聞きしたいんです。本の中で冒険に出る前は「平和そのものの日々」であったと書かれていましたが、これがにわかに信じられないんですね。その前にも色々とあったのでしょうか? いや、ありましたよね? いやいや、あったに違いないんですよ。
峠 :はい、色々ありました(笑)。もう、大ドンデン返しの連続ですよ。よく神様は、私にこんな面白いことばかりを仕掛けてくるなっていうくらい。
たとえば高校受験時の時なんですが、ふつう公立高校ってみんな受けられるじゃないですか? ところが高校の担任が私の願書を出し忘れて、公立高校を受けられないという、まさかの展開になるのよ。
それで私立高校の滑り止めを受けて合格発表を見にいったら、今度は名前がないっ。で、「あ〜浪人だ、もう私死にたい」などと母にグチったら、母が「お母さんはね、恵ちゃんが受かっている気がするの。」「母の勘よ、受かっているかもしれない」って言うんですね。それで学校に問い合わせてみたら、まさかの掲載ミスで合格していたんですよ。
内藤:エ〜ッ(絶句)。
峠 :だけど高校入学がそんな感じだったから、もういいやって思っちゃったのかな。前から留学したいなとも考えていたので、「留学するので、学校辞めます」って先生に言ってみたのね。そしたら「こんな劣等生が留学とか言ったら、ほかの生徒に申し訳がたたない」とかって言われてちゃってさ。「どうしたら、学校辞めさせてもらえますか?」って聞いたら「英語で一番の成績を取れ」だって。もう奮起して、一番の成績取って、やっとこさ高1で自主退学ですよ。
それで、今度は向こうの大学に行ってみたらすごくレベルが低くって、これは日本に戻った方がいいかなと思い出したのね。それで大検受けて成城大学へ辿り着いたという感じです。
冒険初日に感じた、「あ〜 私がバカだった」
内藤:本を書く時に、何か気を付けていたことってありますか?
峠 :まず、難しい用語とか、山に関する専門用語とかは書かないように気をつけましたね。知らない人でも読めるように。
内藤:どうしてこんなにウンコやオシッコ、ゲロの話が、増えていったんでしょうか?
峠 :やっぱりね、そこがポイントだと思ったのよ。みんな食べる方ばかり、気にするでしょ。でも食べる方って、4〜5日食べなくても我慢できるのよ。でも出る方は、防げないじゃない。私はそれを、冒険の初日に気づいたんです。「あ〜 私がバカだった」と。
内藤:船上という閉鎖空間で、3人だけになるわけじゃないですか? 状況が悪くなった時のパワーバランスってどのようになるんですか?
峠 :ユースケと隊長の関係は穏やかだけど、私と隊長は常にバチバチですね。でも2対1になったりとすることはなくって、基本的には三者三様かな。ユースケ(角幡 唯介)はいつも不機嫌。運命共同体だから、どこかに信頼関係はあるんだけどね。でもやっぱり性格も趣味も、みんなバラバラだったな。
内藤:喧嘩っぽくなった時の仲直りのきっかけは、誰が作ることが多かったんでしょう?
峠 :とにかく「私が謝る。以上」みたいな。ユースケは生意気なこともあるんだけど、あまりにも年が離れているから学生さんという感じだった。
内藤:船の上では大自然だけが相手で、ニューギニアに着いてからは外部の人が入ってきたりするじゃないですか? どちらが大変ですか?
峠 :外部の人が入ってきてからの方が、大変ですね。自然よりも人間の方が厄介。船は、なんだかんだで平和だったと思いますよ。嵐が来たら3人でワーって作業して、穏やかになったら「穏やかだね」なんて言い合って。自然には誰も敵わない。生かさせていただいておりますという感じでした。