『アリエリー教授の人生相談室 行動経済学で解決する100の不合理』著者まえがき&内容の一部紹介

2016年5月11日 印刷向け表示
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割り勘の一番いい方法は?

親愛なるダンへ

仲間で食事に行くとき割り勘する一番いい方法を教えて。 (ウィリアムより)

部屋全体を見渡せる場所に座って、あとから来た人に先に料理が運ばれないかどうか見張ることにしているのさ

これは友情、社会正義、経験の最適なデザインという複雑な問題の絡む、実に重要な質問だ。 割り勘の方法は、基本的に三つある。各自が自分の飲み食いした分を支払う方法、勘定を頭割りにする方法、そして一人が全員の分を支払い、支払う人をもち回りにする方法だ。私が一番気に入っているのはもち回り式で、二番めが頭割り、そして一番好きじゃないのが各自が飲み食いした金額を支払う方法だ。理由を説明しよう。

自分の分だけ支払うやり方だと、誰もがにわか会計士になって、自分の飲み食いした分をレシートから探して値段をメモし、せっせと足し合わせなくてはならない。おまけにこの腹立たしい会計処理のせいで、せっかくの夜が台無しになってしまうんだ。経験をどのように終えるかは、経験全体の記憶を大きく左右するから、その夜全体が暗い影に覆われてしまう。

頭割り式は、全員の食べる量が(ほぼ)同じときはうまくいく。でもたとえそうだとしても、 クレーム・ブリュレがどんなにおいしかったかを思い出す代わりに、スージーがメインディッシュをあんなにガツガツ食べたのに払った額が同じだったことを思い出しながら夜を終えるのがどんな気分か、想像してほしい。

最後の(私のお気に入りの)方法は、誰か1人が全員の分を支払い、毎回支払う人をもち回りにすることだ。同じメンバーで比較的頻繁に外食するなら、これはずっとよい解決策になる。なぜか?

まず何より、人におごってもらうととても幸せな気もちになるが、この方法ではおごってもらう人の数が最大になるからだ。二つめの理由として、全員の食事代を支払う人は大金を払ってガックリ来るが、おごってもらった人たちの喜びを足し合わせると、ネガティブな感情を補ってあまりあるからだ。経済用語でいうと、社会的厚生が高まったということになる。そして3つめとして、おごる人自身も与える喜びを感じられるからだ。

たとえば友人同士のジェイデンとルカが、行きつけの中東料理店に行ったとしよう。勘定をきっかり頭割りにする場合、それぞれが10単位の惨めさを感じるとする。でもジェイデンが2人分払えば、ルカは0単位の惨めさと、おごってもらう喜びを感じる。また支払い額が増えるにつれて感応度は逓減するから、ジェイデンが感じる惨めさは20単位より小さく、15単位くらいかもしれない。 そのうえジェイデンは大好きな友人におごることで、幸せ度が高まるかもしれないのだ。

それじゃ、食事に行くメンバーが毎回同じでない場合はどうする? そういうときでも、この方法をとる価値はあると思うよ。誰かが時たま損をしてがっかりすることはあっても、全体として見たときの喜びはそれを補ってあまりあるからだ。

アリエリー教授の人生相談室──行動経済学で解決する100の不合理

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