奇跡の自然に行ってみた!『「奇跡の自然」の守りかた――三浦半島・小網代の谷から』後編ホタル見るなら、書を置いて森へ出よう!

2016年6月4日 印刷向け表示
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 さて、足立のレビューに触発されて小網代にやってきたHONZメンバー。前編では森から海へと遊歩道を下り、中編では干潟の観察を満喫しました。この後編は、いよいよ今日のクライマックス、ゲンジボタルの観察です!

ホタル観察までは時間があったので、柳瀬さんの案内で、港に移動してみます。

さっきまでいた干潟が、奥に見えています。船をもやうロープには、いろいろな生き物がくっついていました。

そして……

海の恵みに、感謝の祈りを捧げます。

――ではなくて。下にお魚がたくさん泳いでいるので、夢中で覗き込んでいただけ。私タチ、怪シイ者デハアリマセン。

ここで、仲尾が帰ります。でも、この直後、

なんと、近くの喫茶店のテラスにいらした地元のかたに、「今獲ってきた!」というタコをご馳走になりました。これが、激ウマ!! 仲尾、これを食べずに帰るとは~(涙)。

さあ、いよいよホタル観察のために、森へと戻ります。道路わきに動かないアカテガニがいたので近づいてみると……

にっこりしたまま、お亡くなりになっていました。笑顔が切ないです。 ※画像はイメージです

あ、ホタル目当てのみなさんが、えのきテラスに集まり始めました。ふだんは6時閉園ですが、ホタルの時期は特別に、一定の条件を設けて開園しています(※詳細は記事の末尾に。必ず読んでからお出かけください)。

我々は、やなぎテラスで日没を待ちます。

私は数年前に、八甲田山麓の露天風呂でヘイケボタルを見て以来です。そのときはホタルが鼻の穴に飛び込んできて、ビックリしました。という話をしていたら、

足立「それ、『桐島、部活やめるってよ』みたいに表現できないかな?」
刀根「……『峰尾、鼻光ってるってよ』、って感じですかね?」

大爆笑だったのですが、今こうして書いてみると、ちっともおかしくありません。きっとあの時は、ホタル待ちのわくわく感で、テンションが高かったのでしょう。 

さあ、だいぶ暗くなってきましたよ。岸先生と柳瀬さんも、スタンバっています。ホタルは日没後きっかり25分くらいで飛び始めるそうです。

そして、7時12分――あ、飛び始めました!! ポツリ、ポツリと光っていたのが、次第に数が増え始め、すばらしい乱舞になりました。その様子が、こちら。

……えーっと。私のコンパクトカメラでは、これが限界。打ちひしがれる私にとどめを刺したのが、この写真を見た刀根の言葉。

刀根「あー、これ、理科の教科書に載ってた~」
塩田「?」
刀根「ほらー、泳いでいる精子~!」

……この娘が悪いんじゃない、私の写真が悪かったんだ。ううっ。

さすがにこのショボい写真だけでは小網代の名誉を傷つけてしまうので、柳瀬さんに写真をお借りしました。それがこちら。

ね、すごいでしょう?? この光景が、何百メートルも続いているのです。生で見るゲンジボタルの飛び方はふわりとした独特の浮遊感があり、ふっと灯ってすーっと消える光。とても風情がありました。

ですがもちろん、彼らは私たちに見せるために光っているのではありません。水に近いところにいるメスにアピールしているんです。気に入ったオスがいると、メスは光を返します。高いところにあった光が急にすーっと降りていくのは、メスを見つけたオスの光なんですね。

ですが、そういう目で見ていると、気になることが出てきます。降りている途中で突然引き返す光――どうやらフラれたようです。

塩田「メスはみんな地面に近いところにいるなら、なんであんなに高く飛ぶオスがいるんでしょう? 下の方にいたほうが、すぐにメスのところへ行けるから有利なんじゃないですか?」

岸先生「それは、下の方にいると、近くにいるメスしか見えないからです。高いところにいたほうが、より広い範囲でメスを見つけられる。たしかに遠くなるぶん不利な面もありますが、まあ、近場で手堅い相手を見つけるか、よりたくさんの女性とつきあってみたいか、人間と同じですね」

……ホタルの婚活も、大変そうです。

こちらも柳瀬さんの写真。

じつはこの時点で、8時をとっくに過ぎています。5時ごろからすでに「お腹すいた!」と、市場でマグロのカマ焼きを買ってこなかったことを激しく後悔していました。ホタルも相手を見つけると光らなくなるので、すでに光のピークは過ぎたようです。

先生方にお礼を言って、帰路を急ぎます。途中の橋の上で、素敵な出来事がありました。なんと、ふわりと飛んできたホタルが刀根にとまったのです! が、

刀根「やー、虫にがて~」

おおおおおおぉい、ふつう感動する場面じゃないか? さっきまで「きれい~♪」とか言っていなかったか? 

でも、お腹が空きすぎて衝撃を受けている元気もありません。しかもバス停までは、ものすごい急坂。「ギョーザ! チャーハン! 春巻き! ラーメン!」と叫びながら登りますが、余計にお腹が空いてクラクラしてきます。この坂はきっと末永く「HONZ転がし」という名で語り継がれることでしょう。

やっとの思いで横浜までたどり着き、ビールで乾杯!

五臓六腑にしみわたりました……くうー。

じつは峰尾、翌日がレビューの当番日。干潟でたそがれているように見えたのをヤドカリのせいにしていましたが、本当はレビューを書けなかったときに内藤編集長からどんな仕打ちを受けるか、おびえていたに違いありません(ちなみに、峰尾は翌日ちゃんとレビューをアップしていました)。

帰りは爆睡しました。

自然保護の活動は、立ち上げるよりも続けることのほうが難しい。豊かな自然に恵まれた小網代の谷ですが、それは岸先生や柳瀬さんらの30年にわたる地道な努力の結晶です。しかし、保全が決まったからといって、未来永劫、今日見た自然が保たれるわけではありません。人の手が入った自然は、その機能を保つために人の手で維持し続ける必要があるからです。

そのために必要なのは、まず「みんなが関心をもつこと」。たまには、書を置いて、森へ出よう。実体験ほど愛着を与えてくれるものはありません。ですが、小網代に出かけるなら、『「奇跡の自然」の守りかた』をぜひ読んでいってください。この自然が遺された背景やその意味を知って体験することで、きっと感動はより大きくなるはずです。

――今回のHONZ体験記、いかがでしたか? これからも、本と実体験をつなぐ話題を提供していけると嬉しいです。

最後に、小網代の保全に関わってくださったすべてのみなさま、ありがとうございました!

(柳瀬さんにお借りした写真)

※ ホタルを見に行きたい方へのご案内

小網代の谷は神奈川県が管理しており、普段は午後6時で閉園するのですが、ホタルのシーズンである6月12日までは、午後6時から9時まで、エリアを限定して開園しています。
三崎口駅に近い引橋側入り口からは入ることはできません。海側の白髭神社のほうから入り、やなぎテラスまでの区間でホタルを鑑賞することが可能です。

神奈川県の委託を受けて、NPO小網代野外活動調整会議のスタッフが巡視しております。夜間での観察になるので、安全のため、スタッフの指示を必ず聞いてください。

くわしくはこちらの神奈川県のホームページをどうぞ。
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/p820028.html 

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