今年の受験シーズンも終わろうとしている。納得のいく結果を得た方も、思い通りにいかずに悔しい思いをした方もいただろう。が、若い時期に一時でも夢中で勉強し、公正な判断を受けるという経験はきっと意義があるはずと思う。すべての受験生の皆さん、すばらしい未来がありますように!
さて本書は東大・京大・一橋・慶応・早稲田といった難関大学の歴史の試験の記述問題を、著者の片山教授とともに解いてみようという本である。さすが難関大学、私なんぞ生きている間に解けるようになるとは思えないような難問揃いである。が、これが面白い!じつは推薦入学だったので受験をしていないという片山先生が結構マジで難問に取り組んでいくのだが、こちらのあやふやな知識を必死に思い出しつつ、片山先生の「正解へ近づこうとする熱意」に背負われていくと、問題をといていく楽しみを共有できるのである。片山先生が明智小五郎なら、読者は小林少年になって楽しめば良いというわけである。
選ばれているのは良問ばかり。単なる記憶知識だけではまるで歯が立たない。歴史の流れを総覧し、なおかつ問題の指示通りの文字数でまとめなくてはらない。知識、論理的思考能力、文章力などが問われてくる。すごいなあ。これを十八歳で解く若者がいるのか!
オランダ400年の歴史を辿る事で「ヨーロッパ近代のエッセンス」を記述する問題。9.11同時多発テロの根源を探りつつ十字軍遠征が西ヨーロッパに与えた影響を論ずる問題。女性参政権が1920年前後に実現した歴史的背景を「クリミア戦争・総力戦・ウィルソン・ロシア革命・国民」という語句を全て使って論述せよという問題などはとても興味深かった。また大日本帝国憲法と日本国憲法についての問題では、かつて『未完のファシズム』という好著を上梓した片山先生ならではの解説も読む事ができる。「記述式問題は大人のためにある」。まさにそのとおりだ。知的刺激十分!錆び付いた頭の体操にも最適の本だ。
※産経新聞書評倶楽部に掲載のものを一部加筆