2017年のベストビジネス書はこの本に決まり!『SHOE DOG』

2017年10月27日 印刷向け表示
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SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。

作者:フィル・ナイト 翻訳:大田黒 奉之
出版社:東洋経済新報社
発売日:2017-10-27
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 ひさしぶりに読んでいてワクワクするビジネス書に出会った。その本の名は『SHOE DOG(シュー・ドッグ)』という。2017年のベストビジネス書はこの本で決まりだ!発売する前からこの本には注目していた。読んでみたら、これが期待のさらに斜め上をいくおもしろさだった。550ページ近くもあり、ボリュームのある本だが、まったく飽きさせることなく、一気に読めてしまい、後半にいくにつれて読み終わってしまうのが寂しい。そんな思いを抱かせる1冊だった。

昨年、この本の原著をみかけたときから、日本ではいったいどこが翻訳書を出すのだろうか?とずっと注目をしていた。直感的にこの本は売れる!と思ったからだ。翻訳書の中には発売前から売れるのがわかっている本というものが存在する。この本もそういった本だと思ったのだ。洋書の表紙に書かれていたSHOE DOGという言葉は見慣れないもので、著者のフィル・ナイトという人のことも知らなかったけれど、真っ赤なナイキのロゴ(スウォッシュ)が本に大きく描かれていたから、ナイキに関する本だということは見当がついた。

スォッシュだけでなく、黒に金の箔押しという装丁もインパクト大で、なんだかこれは面白そうな匂いがプンプンするぞ。と思っていたところ、調べてみたらフィル・ナイトがナイキの創業者であるということがわかった。さらにどうやら創業時のことが書かれている本らしいということも次第にわかってきた。この時点でこの本は間違いなく買いだという結論にたどり着いた。

なぜなら超有名企業の創業者やそれに近しい人たちが創業当時のことを書いた本がおもしろくないわけがないからだ。アップルのスティーブ・ジョブズ、スター・バックスのハワード・シュルツ、アマゾンのジェフ・ベゾス、マクドナルドのレイ・クロックなど、創業時のことを綴った本には名著と呼ばれるものがたくさんある。(この中には本人が書いていないものも含まれている)そこに新たな1冊が加わった。

タイトルのSHOE DOG(シュー・ドッグ)という言葉は耳慣れないものだと思う。私も本書ではじめてこの言葉を知った。シュー・ドッグとは靴の製造・販売、購入、デザインなどにすべてに身をささげる人間のことを言うのだそうだ。著者のフィル・ナイトのことを指すだけでなく、ナイキの黎明期に関わった多くの人達がシュー・ドッグなのである。中で印象的なのはビル・バウワーマンだ。フィル・ナイトのオレゴン大学時代の、陸上のコーチであり、今年、誕生から45周年を迎えたコルテッツの原型を作りあげた人物でもある。陸上コーチ時代からランニングシューズをより良いものにするために試行錯誤を繰り返していった根っからのシュー・ドッグである。ナイキを代表するディティールの一つ、ワッフルソールを発明したのも彼である。彼がいなければ、確実にナイキの成功はなかっただろう。

またナイキの成功には、日本の存在も欠かせない。フィル・ナイトは日本の安価なランニングシューズをアメリカで販売することで起業をした。ブルーリボンという会社をでっちあげ、オニツカと交渉をし、契約後に会社をつくり、そこからオニツカを騙しながらオニツカタイガーをアメリカで売りまくった。オニツカが他の業者に独占販売権を与えようとした際は、はったりでそれを乗り越えた。そしてナイキが誕生することになったのもオニツカとの決別が原因となっている。

また日商岩井の存在も大きい。日商がいなければ、ナイキは存在していなかったといっても過言ではない。ナイキの成長を影から支えるだけでなく、ナイキの窮地を救った企業である。ブルーリボンは売上のほとんどを次の商品の購入に回していた。そのためキャッシュがない状態が続いていたのだ。そんな状態のときに銀行からの融資を突然凍結されてしまった。そのときに救いの手を差し伸べたのが日商なのだ。アメリカの銀行に対して日商岩井が100万ドルを全額返済するという場面では胸が熱くなること間違いなしだ。現在ナイキの本社には日商岩井日本庭園なるものがある。それを知るといかにナイキが日商岩井に敬意を表しているかがわかる。

世界のスポーツブランドにおいて、いまでは圧倒的な知名度を誇るナイキも、創業してからは苦労の連続だった。創業した頃、スポーツの世界ではプーマとアディダスが圧倒的なシェアを占めていた。ナイキはそこを打開するために、バウワーマンを介して実力のある選手にオニツカを履かせるなどして、売り上げを伸ばしていった。人気が出てきて需要はあるのに、オニツカは常に希望通りに商品を送ってはくれない。さらに売りあげたお金をすべて投資(次の商品の購入)にまわしていたせいで、キャッシュフローはずっとめちゃくちゃ。そのせいでメインバンクからは何度もさじを投げられている。

またライバル企業のアディダスや、蜜月の関係だったオニツカから訴えることもあった。しかしそれらをみな乗り越え、常に勝利を目指し邁進していくナイキの姿勢には胸を打たれる。ナイキという名前は女神アテナが「ニケ(nike)」(勝利)をもたらしたとされるというところからとられたものだ。フィル・ナイトは常に勝利ということにこだわっていた。それがナイキの成功を生んだのだと、この本を読むとわかる。小さな企業が数々の苦難を乗り越えて、そして大きくなっていく物語は多くの読者に希望を与えるに違いない。

さらにフィル・ナイトが私たちに投げかける言葉の数々も心に響くこと間違いなしだ。その中から最後に一文だけ引用してレビューを終えたいと思う。

懸命に働けば働くほど、道は開ける。(中略)みんなに言いたい。自分を信じろ。そして信念を貫けと。他人が決める信念ではない。自分で決める信念だ。心の中でこうと決めたことに対して信念を貫くのだ。

最高の読書体験を得られる2017年のベストビジネス書はこの本で決まりだ!

内藤順のレビューはこちら

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作者:ウォルター・アイザックソン 翻訳:井口 耕二
出版社:講談社
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 『SHOE DOG』はブルーリボンが創業するきっかけとなった1962年から、ナイキが上場した1980年までのことを描いた本である。ナイキが上場した1週間後にアップルが上場を果たしているのだが、ナイキは上場する際の公募金額をアップルと同じ22ドルに設定している。

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出版社:サンガ
発売日:2012-06-20
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 スティーブ・ジョブズの本にも出てきた禅の本。SHOE DOGの冒頭で引用されている言葉もこの本からとられたものである。

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監督:ロブ・ライナー
出版社:ワーナー・ホーム・ビデオ
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  SHOE DOGを最後まで読めば、なぜこのDVDを紹介しているのかがわかるはずだ。

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