『夢の猫本屋ができるまで Cat's Meow Books』猫が本屋を助け、本屋が猫を助ける

東 えりか2018年07月26日 印刷向け表示
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夢の猫本屋ができるまで Cat's Meow Books
作者:井上 理津子
出版社:ホーム社
発売日:2018-07-26
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長く叫ばれている出版不況とはうらはらに、個性的な本屋さんの出店が相次いでいる。HONZでもお世話になった下北沢の「本屋B&B」や荻窪の「6次元」、本の校閲を行う会社「鴎来堂」がてがける「かもめブックス」や中野ブロードウェイにあるサブカルの聖地「TACO che(タコシェ)」などこだわりの本屋は盛況だ。開店のためのセミナーもあり、体験談の本も様々出版されている。

2017年夏、東急世田谷線西太子堂近くに開店した本屋の名前は「キャッツミャウブックス」。名前の通り、猫に特化した本屋である。

猫の本ってそんなにあるの?と疑問に思う人もいるだろうが、古今東西、猫をペットとして溺愛した人はどれほどいたろうか。夏目漱石をはじめ内田百閒、最近では角田光代に宮部みゆきと作家と猫は相性がいい。

昨今のデータでは犬より猫を飼う人が多いともいう。一緒に遊べるネコカフェも人気だ。では本×猫というコンセプトの店はどうやってできたのだろう。ノンフィクション作家の井上理津子さんが肉薄した。

『夢の猫本屋ができるまで』のいうほんわかしたタイトルとうらはらに、本書はがっちりとした書店経営のノウハウを記していく。考えてみれば「ネコちゃんがすきなの~」くらいで本屋を始めようとするはずがない。アイデアが閃いてから開店まで、周到に準備したに違いない。そう読み進めていくと、大胆と細心が上手いバランスを保って開店まで漕ぎ着けたことを知る。

最初に保護した猫の思い出から、本屋をやろうと決意するまでが面白い。もちろん運もよかっただろう。相談する相手にも恵まれた。何より二足のわらじ=パラレルキャリアとして店主が勤め人を辞めずに、この店を作ったことで余裕が生まれている。

取材者の井上理津子さんはこの5年ほどで250軒ほどの首都圏の新刊店・古書店の話を聞き、何冊かの本を上梓している。それだけに「本×猫」というこの本屋の取材は、最初「大丈夫かな」と思いつつ入ったらしい。

だが店主の安村正也さんの「ここは、自分が心地よい空間なんです」という言葉にシンパシィを感じて集まる人を見て考えを変えていった。ビールを飲みながら猫の店員さんを眺め、気に入った本を選ぶ。ほどよく狭く、程よく詰まった本棚の本に、読書好きで猫好きは安らぎを得ているようなのだ。

もちろんシビアなお金の問題は手を抜かない。資金調達の方法はもちろん、建物の探し方、古本や新刊の入手法、果ては1年間の収支報告まで本書の中で公開させてしまった。店員として雇った猫だって、由緒正しい保護猫だ。居場所をきちんと決め、お客さんも猫たちを驚かせないよう気を遣う。自由気ままな猫たちだが、意外とモノが解っている様子。収益の一部は保護猫団体に寄付をしている。猫の本を買うことで猫を助けることができるのだ。

実は店主の安村正也さんと私は、数年前、社会人ビブリオバトルで戦っている。初代社会人チャンピオンだった安村さんに私が「挑戦」したのだが、勝ってしまった。「本を人に薦めるのが仕事なんだから当たり前じゃん!」とHONZのメンバーにはこき下ろされたのだが、そのビブリオバトルも安村さんが本屋を始めようとしたきっかけであると本書で知った。

読み終わって、この本屋、どんなところだろう?と好奇心がむくむく沸いた。とにかく訪ねてみようと世田谷線に乗った。とはいえ三軒茶屋から1個目の駅だからあっという間に着いてしまう。駅を降りたら一本道を70メートルほどで「キャッツミャウブックス」に到着した。住宅街のど真ん中に忽然と現れた感じ。平日の開店直後だというのに数人の女性客がすでに来店中で、奥の猫店員がいる部屋に入るところだった。

猫店員さんたちはかなり自由。気が向くと遊んでくれる。

店主の安村さんは会社で勤務中で、店番は奥さんの真澄さんがなさっている。入ってすぐは新刊コーナーで鍵のかかるドアの向こうが猫店員さんが楽しげにうろつく古本コーナーだ。

入ってすぐの新刊コーナー

それにしてもよく集めたものだ、と感心する。猫単体のものだけでなく、学術書、写真集、絵本など古今東西、輸入本までぎっしりだ。

井上さんが取材していたときは、まだ棚に隙間があったようだが、この先どうなってしまうのだろうと他人事ながら気にかかる。

ぎゅうぎゅう 見入ってしまうラインナップ。

オープン前に難病で亡くなってしまった初代番頭さんの遺影を前に、私も一冊購入した。次回はもう少し夕暮れに、ビールを飲みながら本を探したいと思う。

初代番頭のDr.ごましお

商標登録されたイラストロゴのブックカバーと今回購入した本

さてここでイベント告知!ビブリオバトルがご縁となって、8月24日に下北沢「本屋B&B」で店主の安村正也さん、著者の井上理津子さんと私でトークイベントを行うことになった。

2018/08/24 Fri  井上理津子×安村正也×東えりか(HONZ)
「保護猫が本屋を救う? これからの町のお店のつくり方」
『夢の猫本屋ができるまで Cat’s Meow Books』(ホーム社)刊行記念 http://bookandbeer.com/event/20180824/   お申込みはこちら 

いい機会なので、猫本であらためてビブリオバトルも行う。どんな猫本を選ぼうか、今からわくわくしている。

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