HONZ in APU② 学生たちが暮らすAPハウスは、異文化が混ざり合う場

首藤 淳哉2018年08月07日 印刷向け表示
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立命館アジア太平洋大学(APU)は、2000年開学にもかかわらず、瞬く間に日本を代表する国際大学となった。たとえばイギリスの高等教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』による「世界大学ランキング2018年日本版」の「国際性」部門で、APUは私立大学で見事1位を獲得している。

開学からこれまで、世界147カ国・地域の生徒を受け入れており、現在も88カ国・地域から集まった生徒が学んでいる。そんな大学なので、われわれを案内してくれるのも、いろいろな国や地域からやって来た学生たちだ。

ブルガリア、ベトナム、韓国、中国、台湾、もちろん日本人学生もいる。ここでHONZメンバーは4〜5人のグループに別れ、それぞれAPハウス(学生寮)を案内してもらうことに。 

ぼくらのグループを案内してくれたのは、コウジロウくんと、ののかさん。コウジロウくんは日本人の4回生。東京出身で高校時代にニュージランドへの留学経験がある。一方、ののかさんは台湾出身で、昨年秋に入学したばかり。まずびっくりしたのが、ののかさんの日本語が驚くほど流暢だったことだ。

「だって、向こうにいる時から、日本語勉強してましたから」と笑って答えるのだが、これがまったくカタコトではないのである。もちろん授業は日本語でも支障はないという。

これがAPUハウスの外観。まるでホテルのよう。 

APUでは春と秋に新入生がやって来る(入学式も春と秋の2回行われる)。われわれが訪問した7月末は、ちょうどAPハウスを出て行く学生の引っ越しシーズンに当たってようで、あちこちで荷物がまとめられていた。 

ロビーには卓球台も。「やっぱり中国の学生が強いの?」と訊くと、上海に住んでいたこともあるというののかさんが力強く頷く。「そうなんですよ!中国の学生には誰も勝てません。女子学生だってめっちゃ強いんですから!」
なるほど! でもぼくは君の日本語が“めっちゃ”上手いことに驚きっぱなしだよ!!

学生たちのプライベートエリアへと入らせていただく。壁には寮生たちの自己紹介の写真があちこちに貼ってあり、見ているだけで楽しい。そんな中、ひときわカッコいいオーラを放っていたのが、RA(Resident Assistant)と呼ばれる学生たちの紹介写真だ。お揃いのコスチュームに身を包み、イケてるチーム感をバリバリに醸し出しているが、実際、彼らはイケてるらしい。

RAとは、いわゆる寮における学生リーダーだ。ここでは、寮生の中から書類と面接で選ばれたRAたちが寮の運営を担っている。彼らの役割でもっとも重要なのは、日本に初めてやってきた新入生たちを徹底的にフォローすることらしい。ゴミの分別からシャワートイレの使い方、お風呂の入り方に至るまで面倒をみるという。このためRAは、下級生にとっては憧れの先輩であるようだ。

先輩といえば、さっきから一緒に回っていた刀根明日香のふるまいが気になっていた。「もう就職は決まったの?」とか「飲み会とかやったりするの?」とか、お姉さん風の口の利き方をしていて、なんだかこれが板についているのである。刀根といえば、HONZではついこの間まで学生メンバーだったこともあって、末っ子的な感じでいつもメンバーからはかわいがり……じゃなかった、かわいがられているが、何?その“頼れる先輩”的な立ち位置。

するとそんな刀根パイセンが、「あのさ、広場の噴水だけど、あれってお客さんが来るときに出すってホント?」といきなり、ど真ん中にストレートを放り込むではないか!
まさかAPUがひた隠しにしている秘密にいきなり斬り込むとは……と息を飲んだ瞬間、「ええ、ホントですよ」とコウジロウ君がにこやかに答えた。ええーーっ!!

あの噂はホントだったのか、などと一瞬、色めき立ったが、よくよく聞いてみれば、あの噴水は、お客さんが来るときにしか出さないのだという。学生たちは噴水が出ていると、「あぁ、きょうは誰かいらっしゃるのだな」とわかるのだとか。ちなみに噴水の高さは関係ないらしい。フェイクニュース、恐るべし。

ちなみに今回は、塩田の情報の入手先にいかにも信ぴょう性があったことがポイントであった。たぶんフェイクニュースというのは、往々にしてそういう「もっともらしさ」を纏っているものなのだろう。次回、おそらく塩田が持ち込んで来るのは、M資金あたりの話に違いない。

さて、ちょっと学生たちの部屋ものぞかせてもらおう。APハウスには、1310の部屋があり、現在、52カ国・地域の学生が入居している。部屋には個室タイプとシェアタイプ(二人部屋)があり、一人当たり13㎡の広さがある。またシェアタイプの場合、どちらかは必ず国際学生になるように配慮されているという。

APUについて深く掘り下げた『混ぜる教育』崎谷実穂・柳瀬博一(日経BP)という素晴らしい本があるが、この中で繰り返し強調されるのが、APUが徹底して「混ぜる」ということを重視していることだ(この本、個人的に激推し。日本の未来に何が必要か、全部書いてある)。

キャンパスを歩いていると、随所に「混ぜる」ための仕掛けがあることがわかる。学生たちが日常生活を送るAPハウスは、まさに異文化が混ざり合う場だった。 

読者のみなさんにリアルに雰囲気をつかんでいただくために、メンバーの峰尾健一にモデルをつとめてもらった。ちょっとしたヤラセ写真だが大目に見ていただきたい。「個室に本日から入居する新入生」はたぶんこんな感じであろう。というか、単に「独身の峰尾が引っ越した直後」という、そっちのリアリティに引っ張られた写真になってしまったかもしれない。 

シェアタイプの部屋は真ん中の引き戸を引けば個室にも早変わり。「失礼しまーす!」とおどけながら戸を開ける演技をしてくれたのは、ベトナムからやって来たという2回生のカイくん。峰尾が醸し出している孤独感は微塵も感じられない。

ちなみにAPハウスにおける恋愛事情だが、カップルもけっこう生まれているようだ。ただ、宗教によっては、男女のおつきあい自体が御法度というところもあるため、そうした学生には節度をもって接しているらしい。それはアルコールについても同様で、持ち込みは禁止である。

学生たちと言葉を交わしていて感じたことだが、宗教的なタブーだけでなく、もっと広く、誰かにとって不快であると思われるようなこと全体に対するアンテナ感度が抜群に高いと感じた。おそらくその感性は、この混ざり合った環境の中でこそ磨かれたものなのだろう。ぼくたちを案内してくれた学生たちをみていると、彼らが活躍する未来の社会は、いまよりもずっとマシなものになるのではないかと思えてくる。自分もこういう環境で学びたかった、と心の底から思った。

ふと、栗下直也と目があう。どちらからともなく出た言葉は、
「俺たち、なんでこうなっちゃったんだろうね……」
あとはふたりの間に言葉はいらなかった。その後に思い浮かべた言葉は、お互い口にしなくても、もうわかっていたからだ。その言葉は間違いなくこうであっただろう。
「もう、おせーよ!!」

さあ、次回は、APUの知の殿堂、ライブラリーに突入だ!!(続く)

混ぜる教育
作者:崎谷 実穂
出版社:日経BP社
発売日:2016-05-19
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