ナニワの病理学教授の本! 『(あまり)病気をしない暮らし』

2018年12月13日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

(あまり)病気をしない暮らし

作者:仲野徹
出版社:晶文社
発売日:2018-12-06
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『こわいもの知らずの病理学講義』が7万2千部に! ということでウハウハだという大阪のおっさんこと、ナニワのレビュワー仲野徹先生の新刊登場! 「2匹目のドジョウを狙う」と公言する今回は、ダイエットフェチとしての極意から、お酒との賢い付き合い方、風邪をひいたらどうするか、そしてがんにならないための生き方に至るまで、病気と健康をテーマに笑い語ります。

あのナカノ先生の書いたものであるからには、おもしろくないわけがないのであーる。
そんな期待大の気持ちで読みはじめたわけですが、その期待は裏切られず。笑撃とともに新たな知見を得て清々しく読み終えたのでありました。

昨今のダイエット本などによくあるように、「一点突破」で無理筋な内容を伝えるわけではまったくなく、身体が不調となる「病気」について、いったい何なのかを大本から説いていきます。さすがの知識の土台に支えられつつ、時に東京ものにはよくわからないナニワネタを混ぜながら、呼吸、食事、ダイエット、お酒、ゲノムと遺伝子、がん、感染症などの知識がいつのまにかあたまの中に入ってくるのでした。

実はその健康に向かう方法論はといえば、結論をいってしまうと「食べすぎるな」「お腹を使って呼吸しろ」「酒は呑んでも呑まれるな」など真っ当な答えとなっています。ところが、意外にもこの「ナカノ式健康法」、実践してみたくなるというのが、この本の最大の効能かもしれません。理路整然と楽しく読み進めるうちに、あたまがいつのまにか大いに納得していくので、気持ちが前向きになりやる気が湧いてくるのです。

それは、ナカノ先生その人のフットワークの良さにあるのかもしれません。
冒頭の一文はこんなです。

大阪大学医学部で厳しい教授と学生に嫌われながら、病理学を教えています。

1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。
(中略)
趣味は、ノンフィクション読書、僻地旅行、義太夫語り。

などなど、なにか一言加えずにはおられないそのプロフィールをひとつとっても、活動領域が広範囲に及ぶ積極性が見て取れます。書名にあえて加えられたのであろう「(あまり)」には、一筋縄ではいかない大阪のおっさんぶりさえ現れていることには、お気づきの方も多いことでしょう。

このフットワークのよさは人生経験の豊かさにつながり、ナカノ式健康法を、ひと味違う大人のものにしています。たとえば、ダイエットの項です。

「ダイエット『入門』の達人」と自らを称する通り、これまでに10種類ほどのダイエット法にチャレンジしてきたそうです。その途上では、ダイエッターの永遠の悩み、「運動したら痩せるか」問題にも先生は遭遇します。誰だってわかっているんですよね、運動してカロリーを消費したら痩せることは。でもね。

そう、これは収支決算からいって小学生でもわかる計算です。ですが、なんと医学雑誌には、「運動する方が運動しないよりも太る」という答えが出ているそうです。なぜ!?

先生はそこで人間の弱さに着目します。そう、「運動したんだからちょっとくらい」という誰もが陥る甘えの構造です。「運動して汗をかいたからビールを飲もう」「ちょっとカロリーをとばしたから甘い物を多めに」……というやつです。

そういうことなのです。「プロフェッショナル・ビア・ドリンカー」とまで留学先のドイツで呼ばれたというのに、先生は科学者として「運動後のビール」をまず潔く反省するのでした。

その上、生来のフットワークのよさは、先生を「きっちきち~」法という謎のダイエット方法に走らせます。これについては、やってみようかと今考えているくらいなのでご紹介しておきましょう。やり方は簡単です。そして、大人にしかできません。

なにしろネーミングは、漫才師の大木こだま師匠の往年のギャグ「チッチキチー」からアレンジしたそうです。よくわからずググりましたが、なんでもこの師匠がこの決め台詞をおっしゃる際に立てる親指の腹には「チ」と書いてあるとか。

そこから思いは飛び、きちきちの服でもいつか着てやるぞ、ということで「き」と親指の爪に書き、コンビニで菓子を買おうかねというような際には、視界に入れることで抑止力としたそうです。

それを周囲の友人と共有しているうちに、他のひとの成果を知りたくもなり、フェイスブックで「きっちきち~ダイエット隊」を結成。30代から50代、体重はさまざま目的はさまざまに女性9名の男性5名の14名を集結させます。この行動力! これから始まるのだったら参加したいくらいです。

結果、途中で状況を報告しあって3か月後には、平均して3.8キロの体重減に! 1位のアメリカ帰りで名前はチャーリーだけど日本人な男性は、なんと12.5キロ減らしたとか。WAO!

先生によるとこのグループ・ダイエットの方法はフェイスブック上で結構行われているそうです。がまんしすぎず、食べたいものを食べつつ、友人と共有しつつ。

この方法で早3年、グループはよく一緒に出掛ける焼肉屋の名前にちなんで「リッチ倶楽部」となり(あれれ? いや、大人ですから!)、自身も4キロ減となり、それなりに満足がいく結果となっているそうです。

ただし、ナカノ式健康法だけではこの本は終わりません。なんと、ニュースでここのところよくお姿を拝見する、ノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑さんのもとで、5年間助手・講師として活躍された修行時代についても書かれています。

その時代があってこそ、病理学の知見を得られたのでしょう。「病原体との闘い」という章では、苦労を重ねて道を拓いた先達の道筋と共に、主な病源体の概要やそれに対する薬の開発にまで話は及ぶのでした。

「病気」に対する心構えと方法、そしてその知見を教えてくれる一冊です。ゆるりといつのまにか、読み終えていました。

こわいもの知らずの病理学講義

作者:仲野徹
出版社:晶文社
発売日:2017-09-19
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

未読の方はこちらをぜひ。なお、こちらについては東えりかのレビューをまず。

 村上浩もレビューを書いています。おまけに、古幡瑞穂の読者分析も

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!