『陸軍と厠』もし、あなたが戦場で便意をもよおしたら

栗下 直也2019年01月10日 印刷向け表示
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陸軍と厠 知られざる軍隊の衛生史
作者:藤田 昌雄
出版社:潮書房光人社
発売日:2018-11-24
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戦場は危機に満ちている。いつ敵の襲撃があるかわからない。やるかやられるか。だが、危機は敵だけではない。過酷な環境下、自らの体調を崩すこともある。大病に至らないまでも張り詰めた空気の中、兵士だって行軍中に戦闘中にお腹がいたくなることもある。一体、彼らはどのように内なる危機と向き合っていたのだろうか。

明治以降の日本の公衆衛生を丹念に調べた本書は、誰もがふと気になるが「まあ、いいか」とすぐに忘れてしまう疑問に正面から向き合った寄書と言えるだろう。タイトルと装丁からは想像が及ばないほど真面目に考察している。

例えば、野戦中の用便を見てみよう。

戦闘中の用便は、戦闘を最優先にして極力我慢し、戦闘終了後に排泄を行うことを理想とされていたが、生理現象であるために我慢は不可能であり、やむをえない場合では将兵は適宜に創意工夫による用便を行なって

いたらしい。

難しく書いてあるが、なるべく我慢するべきだが、漏れるものは漏れてしまうのだから、みな、頭をつかっていたというわけだ。では、具体的にどうしていたのか。

小便は横臥した状態で敵弾の合間を見て放尿を行なったり、大便は緊急の場合、袴と袴下を脱がずにそのまま行うケースもあり、爾後の対処として洗濯までの間は砂や木や葉等で汚物を拭い取っている

つまり、フル装備のまま、しれっと漏らせと。果たしてこれが「創意工夫による用便」なのだろうか。あれこれ考えて、一周回って斬新なのだろうか。確かに弾丸飛び交う中、取れる手段はほとんどないだろうけれども。

壕の中などで、もう少し余裕がある場合は、兵士がそれぞれ持っていた携帯工具の上に薄く土や木の葉を被せてから、その上に排便して、排便後に壕の外に投擲する方法も採用されていた。

野戦陣地でトイレをどのように設けるかはたかがトイレと侮ってはいけない。風下に置いたり、雨などでトイレから塹壕に汚物が流れ込まないように塹壕とトイレの高低差を考えて築城したり注意が必要だった。

ただ、野戦陣地で戦闘状態になると、兵士もわざわざトイレにまで行っていられない。疲労も重なり、その場で用を足す者もいた。当然、臭くなるし、ビジュアル的にも目を背けたくなる状況になる。その結果、日露戦争の旅順攻囲戦では惨劇が繰り広げられた。

手榴弾線に端を発して、「石合戦」の延長として排泄物を投げ合う「汚物投擲」が発生している。

「汚物投擲」と丸めて表現しているが、要はうんこを布などに包んで、ぶん投げていたのである。汚物や死骸を投擲するというのは古代からあるが、結構、最近まで、ブンブン放り投げていたのである。

ここまで読んだあなたは、「いや、21世紀の今、戦場に行かないし」などと言ってはいけない。あなたも私も21世紀のビジネスを戦っているではないか!というのは少し無理があるかもしれないが、本書には現代でも災害時やキャンプに行ったときに役に立ちそうな知識も散りばめられている。

例えば、野営での小便時には風向きには注意しろとか、直接地面に排泄する場合は、排泄し終えてから、屈んだままの状態で数歩前進してから臀部を拭かないと手に排泄物がつきかねないぞと警告を発してくれている。

とはいえ、本書に実用性を求めるのは野暮だろう。極限状態で人はどのように用を足していたのか、緩い便もぶん投げていたのかなと思いを馳せるだけでも十分に楽しい一冊なのだから。

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