アメリカ陸軍には「デルタフォース」という対テロ特殊部隊が存在する。アメリカのIS掃討作戦の最前線で戦っているのもこの部隊であり、陸軍の最強特殊部隊だ。
秘匿性が高く、その実態はベールにつつまれていたが、同部隊に所属していた元情報分析官による本書によって、その最先端の戦い方が明るみになった。無人航空機、通称ドローンが同部隊の情報収集及び攻撃に多大な貢献をしていたのだ。
アメリカ空軍などがドローンを活用していることは既に広く知られているが、特殊部隊がここまで作戦上ドローンを重宝していたとは驚きの事実だ。本書は、アメリカ陸軍特殊部隊のドローン戦略最前線、現代版の戦闘を知る上で一級の資料といえよう。出版前にアメリカ軍の検閲にかかったようだが、実際に実行したドローン作戦については削られることなく出版に至っている。
一般的には敵地爆撃や出撃隊の後方援助などにドローンが使われることが多いが、特殊部隊は攻撃能力が既に高いため、ドローンの活用方法は偵察や情報収集が主となる。逃げ隠れする敵の幹部を探し出すために伝達係の車を追ったり、怪しい家を上空から偵察したりと、一見地味な作戦だ。
ただ、情報を制するものが戦いを制するというがアメリカ軍の常識であり、アメリカ軍は戦地においていかに正確な情報を手に入れることが重要であるかを理解している。これまで数多くのスパイ育成に力を入れてきたアメリカ軍だが、現代においてはその手法が大きく変わり、現在、情報戦の主役を担うのはドローン情報分析官だ。
戦地でのドローンというと、キーボードを数回叩けばあっという間に空から標的を見つけ出してくれる夢のテクノロジーと思われがちだが、もちろんそんなことはない。ドローンはあくまで道具であり、高度な専門技能をもった情報分析官による徹底的な調査によって敵のありかを推測し、その確かさをドローンによって上空から検証するのである。ドローン情報分析官はドローン操作だけでなく、スパイや探偵のような情報収集・分析をこなす情報戦のエキスパートだ。
本書は、そんなドローンを駆使する情報分析官の戦場での奮闘を明らかにする、元デルタフォース情報分析官とピュリッツァー賞受賞ジャーナリストの共著である。
9.11テロ事件に衝撃を受けてアメリカ軍に入隊した著者は、情報分析官としてのキャリアを歩みはじめることとなる。アフガニスタンやイラクに派遣され、情報分析官としてみるみる頭角を現していった著者は、特殊な導きを経てアメリカ陸軍最強デルタフォースに選抜された。2009年からは、イラクのバグダットで新世紀型のドローン戦争を指揮することになり、「ボックス」というドローンが映し出すスクリーンで囲まれた部屋から、次々とターゲットの居場所を突き止めていくのだ。
「イラク過激派トップ殺害」「IS指導者5人を捕獲」というニュースがメディアを騒がせることがあるが、これまでその作戦内容や、どのようにして敵の居場所をつきとめ攻撃したのか等は語れてこなかった。
本書には2009年から2010年にイラクを撤退するまでのアメリカ軍ドローン作戦の詳細が描かれている。著者らデルタフォース部隊が2010年に当時のイスラム国最高指導者二人を殺害した作戦も事細かく明かされており、こんなに開示して大丈夫かとこちらがいらぬ心配してしまうほどだ。戦地での情報収集から、敵に気付かれないようにドローンで車を追跡し、ある晩に特殊部隊が敵のアジトを突撃するまでの一部始終が、まるでその場に居合わせたかのように描かれており、本書のクライマックスである。
本書で描写されているのはあたかも映画の世界のようだが、すべて実話だ。『アルマゲドン』や『トランスフォーマー』などの監督で、ヒットメーカーであるマイケル・ベイ監督が本書の映画化を決めたのも頷ける。事実は小説よりも奇なりとはこのことだ。
ドローン情報戦の最前線を指揮した著者はその後除隊し、今は起業して、ドローンを活用した野生動物保護ビジネスを展開している。ケニアでの密猟を取り締まるべくドローンを飛ばして監視を続けているのだ。著者自身、戦場以外でのドローンの活用方法が広がっていることに驚きを覚えている。ドローンは戦争の在り方を変え、今では私たちの生活を変えつつあるようだ。