『めんそーれ!化学 おばあと学んだ理科授業』本当の学びとは何か?

東 えりか2019年02月16日 印刷向け表示
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めんそーれ!化学――おばあと学んだ理科授業 (岩波ジュニア新書)
作者:盛口 満
出版社:岩波書店
発売日:2018-12-21
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 2018年12月17日、文科省は夜間中学を、全都道府県に少なくとも1カ所ずつ開設するとの目標に向け、関係者による検討会議の初会合を開いた。今後、外国人労働者の受け入れ拡大が見込まれる。現在でも公立夜間中学校の生徒の約8割が外国籍だ。不慣れな日本で暮らすために夜間中学校がかけがえのない学びの場であり、居場所となっているようだ。

本書『めんそーれ!化学 おばあと学んだ理科授業』はそんな夜間中学とは一線を画す、沖縄県那覇市のフリースクール「珊瑚舎スコーレ」が開いている私立夜間中学の10年ほど前に行われた理科の授業1年間の記録である。

著者は中学高校で生物を教えていたゲッチョ先生というニックネームを持つ人気教師だ。大学の教員をする傍らでこの学校の化学を担当することになった。

生徒は中国人女性一人、台湾人女性が一人いる以外、沖縄出身女性がほとんどで、それも60歳以上だった。

第二次世界大戦の末期、沖縄戦で多くの住民が命を落としたことは広く知られている。なんと県民の4人に1人が亡くなったのだ。

そうした戦中・戦後の混乱期に満足に義務教育を受けられなかったのは圧倒的に女性だった。幼いころから家事手伝いや労働にかりだされ「小学校は入学どころか校門をくぐったこともない」と話す生徒もいた。

だが勉強したいと思う気持ちは持ち続け、60年経って通える学校ができたと喜んだという。終戦から70年経っても学びたい、学ぶことは楽しいという老齢の女性、沖縄でいう“おばあ”たちにどんな理科の授業をしたらいいのか。

受験をするわけではないから元素記号を暗記したり、化学式を理解したりする必要はない。しかし日々の生活の中で日常的に行われてきた家事は、化学反応を利用したものが多い。それなら今まで経験知で慣れている料理や洗濯で理屈で知ってもらおう。

手始めは肉じゃがだ。「化学変化とは」と大上段に語り掛けても興味を持ってくれない生徒たちに、「ものが、反応する前からすっかり変わって元に戻らないこと」をおばあたちが得意な料理を使って説明していく。肉も、じゃがいもも、熱の出入りで変化したあとは元の姿には戻らない。

ロウソクは何から出来ているかという設問には、生徒が亀の甲より年の劫で、いつの間にか知っていた知識が披露される。「木から作る」「ハチミツから作る」と口々に勝手に喋りだす。

先生は生徒たちの意見を上手に交通整理しなければならない。時には、先生の知らないことも出てくる。沖縄独特の風習や食べ物など、生徒から教わることも多い。

戦後の混乱期、子供たちは大人の手伝いのため大忙しだった。密造酒の製造や、豚から脂を取る方法、さつまいものでんぷんから作った麺があったことも、生徒から教えてもらった。

昔から伝わった方法を化学の法則で解き明かし、おばあたちが理解できるとみんな大喜びで「ああ」と納得する。

受験のための勉強ばかりが取りざたされる中、本当の学びとは何かを本書は教えてくれた。 (ミステリマガジン3月号)

 

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ハゲじじい2019.2.16 08:20

誤字あります。 肛門→校門

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