『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』つらく、悲しく、身近に迫る死

西野 智紀2019年04月10日 印刷向け表示
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超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる
作者:菅野 久美子
出版社:毎日新聞出版
発売日:2019-03-23
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読み進めるのが苦しい一冊だった。登場する人々が長く抱えてきた生きづらさが、とても他人事に思えなかったからだ。壮絶な「現場」の描写も相まって、一読するだけでも相当な根気がいる本であることは、あらかじめ断っておきたい。

本書は日本の社会問題の一つである孤独死の現状と特殊清掃の現場、そして亡くなった人々と特殊清掃人たちの人生を綿密な取材によって浮き彫りにした迫真のノンフィクションである。著者は1982年生まれのフリーライターで、事故物件公示サイト「大島てる」を通して大島てる氏と知り合ったことをきっかけに特殊清掃の世界に興味を持ち、ビジネスニュースサイト等で孤独死に関わる記事を多数執筆している。昨年末に東洋経済オンラインで発表した大量孤独死の未来を憂慮する記事は大反響となり、トータルで450万PVを超えるアクセスを記録。高齢者だけでなく若年層からの関心も高かったそうだ。

著者が本書の取材を開始したのは2018年の7月中頃。覚えている方も多いと思うが、昨年は異常な猛暑であった。暑さは熱中症の増加、ならびに孤独死の急増を意味する。特殊清掃業者にとっては書き入れ時で、2か月ほど不休で働き、年間利益のほとんどを稼ぎ出す業者もいる。

孤独死する人々にはいくつか共通するポイントがある。その一つが、部屋のゴミ屋敷化だ。ゴミを溜め込んだり、食事を摂らなかったり、医療を拒否したりするなどして、自分の健康を自分で悪化させていく状態(セルフネグレクトと呼ぶ)が孤独死の前段階なのだそうだ。著者の試算によれば、日本において現在およそ1000万人が孤立状態にあり、そのうち約8割がこのセルフネグレクトであるという。

本書から、著者が特殊清掃人・上東と8月下旬に熱中症で亡くなった65歳の男性・佐藤(仮名)のゴミ屋敷化した部屋に入ったときの様子を引用してみる。

佐藤が亡くなったと思われる場所は、山の頂のようになっている。まるで、ここだと指し示すかのように、黒い弓形のものが頂に突き刺さっているのが目についた。
目を凝らすと、それは注ぎ口付きのバケツであった。バケツのふちを囲うようにして茶色い尿石がびっしりとこびりついている。上東が取っ手を握ると、チャップンチャップンと波立って中の液体が揺れた。ほぼ8分目まで入っていたが、外にこぼれることはなかった。混濁してどろどろだったからである。凄まじいアンモニア臭だった。

およそ推察できると思うが、この液体は尿である。佐藤はバケツに放尿しては、部屋のいたるところに転がる焼酎のペットボトル数百本に移していたのだ。信じがたい話だが、目を逸らしてはいけないと諭さんばかりのこの生々しい描写が過酷な現実の証左だ。特殊清掃人によれば、体調不良が続き、トイレが億劫になって近くにある入れ物に排泄したり、掃除ができなくなってゴミの山を築いたりすることは珍しくないそうだ。

では、このようなセルフネグレクトに陥ってしまったきっかけは何か。これは人によって様々だが、パートナーとの離婚・死別、仕事での挫折、人間関係のこじれ、鬱病などの精神疾患の発症といった出来事による極度な気分の落ち込みが原因と言われている。つまり、誰にでも起こり得るのだ。

加えて、世渡りがあまり上手くなかったというのも、彼らの共通点だ。たとえば上記の佐藤は、34年間懇意だった大家夫妻によれば、家賃の支払いは遅れたことがなく、仕事もしっかりやっていたようだが、人付き合いが得意なタイプではなかったそうだ。

また、子供の頃から優秀だったが内向的でもあったある男性は、上司のパワハラに耐えきれず会社を辞職し、打ちのめされて社会との接点を見失い、カビとゴミで埋め尽くされた部屋で15年も生活していた。真面目な性格だが生きるのが下手で自己主張が苦手なある介護福祉士の女性は、大失恋のために荒廃をきたし、使用済みおむつが堆積していくゴミ屋敷で長く暮らしていたが、あるときその部屋を家族に見られてしまい、それから音信不通、行方不明となってしまう……。凄絶な現場から漏れ聞こえてくる悲しみは、ひりつくように胸に迫ってくる。

彼らの生前の姿をたどる旅と並行して、特殊清掃人たちの物語も綴られる。前述の上東は、日本初の遺品整理のフランチャイズ本部を始動させた人物だが、仕事に懸ける思いとメディアからの高い注目との齟齬で生き方に苦労し、今では遺品一つ見てもその人の内面が痛いほどに見えるようになったという。他にも、納期を長くもらって一人で作業をこなす一匹狼型の清掃人や、価格破壊と言えるほどの低価格で依頼を引き受ける業者など、こちらにも多様な人生模様があり、ひじょうに興味深い。

だが、故人がどんな生きづらさを抱えていようと、部屋は事故物件扱いとなって大家や管理会社には大きな損害となるし、広がったゴミやウジ、体液、腐臭などが近隣住民にも影響を与えるケースもある。つらいことに、遺族に高額の清掃費用が請求されるのもまた事実だ。

本書では、特殊清掃コストの見積もり例のみならず、郵便局による見守りサービス、孤独死保険、家族や親族と疎遠になっている高齢者向けの終活ビジネスといった最新の方策も紹介されている。とはいえ、外部とのつながりに乏しく、抱えている事情が個々で異なる孤立状態への効果的なアプローチは難しいのが実情である。

ゴミの中で、たった一人、誰にも看取られず溶けていく。年間約3万人だが、業者によってはその数倍は起こっているとも言われる孤独死。それが降りかかるのはあなたの隣人かもしれないし、近頃付き合いが減っているあなたの家族や親戚かもしれないし、将来のあなた自身かもしれない。少なくとも、一人暮らしで収入不安定、ストレスにも弱い評者には、重いリアリティがあった。元号が変わり、新しい時代が来ようとも、本書が必読、必携の書となっていくのは、想像に難くない。

孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル
作者:菅野 久美子
出版社:双葉社
発売日:2017-03-18
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